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東京哀歌

泉獺 H15.11/17
なにゆえ、独りで座っているのか、人に溢れていたこの都が。
失業者になってしまったのか、多くの国のモデルであったこの都が。
ホームレスとなってしまったのか、国々のアイドルであったこの都が。

夜もすがら泣き、頬に涙が流れる。
彼女を愛した人のだれも、今は慰めを与えない。
友は皆、彼女を欺き、ことごとく敵となった。

不景気と重い税負担の末に日本は借金まみれとなって行き
外資の荒波の中に座り、憩いは得られず
苦難のはざまに追い詰められてしまった。

東京に上る道は嘆く、観光に行く人がもはやいないのを。
下町の商店は全て荒廃し、経営者らは呻く。
東京の苦しみを、サラリーマンらは悲しむ。

日本の傲慢は甚だしかった。
それゆえに、影から敵がはびこり
苦しめる者らが頭となった。
彼女の子らはプー太郎となり、苦しむ者らの前で、親を苦しめた。

栄光はことごとく水穂の国を去り
その統治者らは野生の狸となった。
木の実を求めたが得られず
疲れ果ててなお、追い立てられてゆく。

東京は心に留める、高度経済成長をモーレツに走った日を
いにしえから彼女のものであった宝のすべてを。
不景気の底なし沼に落ちた彼女の民を助ける者はいない。
滅びゆくさまを見て、彼らは笑っている。

東京は堕落に堕落を重ね、笑いものになった。
恥があばかれたので、重んじてくれた者にも軽んじられる。
彼女は呻きつつ身を沈める。

衣の裾には汚れが付いている。
彼女は行く末を心に留めなかったのだ。
落ちぶれたさまは驚くばかり。
慰める者はない。
「御覧ください、みなさん
 わたしの惨めさを、敵の驕りを。」

宝物のすべてに敵は手を伸ばした。
彼女は見た、外資系が日本株式会社を侵すのを。
神聖なる儀礼に合理主義の手を挿し込むのを。

彼女の民は皆、米を求めて呻く。
ジャパンマネーを食べ物に換えて命をつなごうとする。
「御覧ください、みなさん
 わたしのむさぼるさまを見てください。」

道行く人よ、心して、目を留めよ、よく見よ。
これほどの痛みがあったろうか。
わたしを責めるこの痛み
天がついに怒ってわたしを懲らす、この痛みほどの。

海の向こうからミサイルが飛んできて
わたしの骨に火を下し
足もとに毒を投げてわたしをブッ倒し
没落にまかせ、ひねもす病み衰えさせる。

堕落したわたしの罪は凝り固まって
軛(くびき)となってわたしを圧する。
罪の軛を首に負わされ、力尽きてわたしは倒れ
刃向かうことのできない敵の手に引き渡されてしまった。

わたしのもとにいる活力ある者は、すべて消え去った。
わたしに対して時限爆弾が仕掛けられ、若者らは絶望した。
戦車にひき潰されるかのように、日本のおとめらは踏みにじられた。

それゆえわたしは泣く。
わたしの目よ、わたしの目よ、涙を流すがよい。
慰め励ましてくれる者は、遠く去った。
敵は勢いを増し、わたしの子らは頽廃に堕ちてゆく。

日本は手を差し出すが、慰める者はない。
幾多の敵が大和を包囲したからだ。
東京は敵の中で、笑いものになっている。

わたしは間違っていた。
わたしは世間のそしりをかえりみなかったのだ。
聞け、諸国民の民よ、見よ、わたしの痛みを。
わたしのおとめも息子らも、働かずにプーとなった。

わたしはかつて援助した国々に呼びかけたが
皆、わたしを裏切った。
わたしの商店主ら経営者らは、東京砂漠で息絶える。
命をつなごうと、銀行に借金を乞いながら。

御覧ください、みなさん、この苦しみを。
胸は裂けんばかり、心は乱れています。
わたしは穢れに穢れたのです。
外ではテロが子らを奪い、内では不況が待っています。

聞いてください、わたしの呻きを。
慰めてくれる者はありません。
敵は皆、わたしの受けた災いを耳にして
わたしの受けた仕打ちを喜んでいます。
どうか彼らにわたしの呪いが成就して
わたしと同じ目に遭いますように。

敵の悪事が白日のもとにさらされますように。
悪事の報いを受けますように。
悪に染まったわたしが、こんなにも報いを受けたように。
わたしはこうして呻き続け
心は鬱病に侵されています。
(おわり)

元ネタ:「エレミヤ哀歌」1.1-22
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