(一) |
---|
年取った犬と、曰栄の社員とが大層仲良く付き合っていた。 だがある日、犬が飼い主の家で寝そべっていた時、家の人達が、 「ウチの犬も年を取って何の役にも立たなくなったから、保健所送りにするか、殺して牛丼屋に売らねばなるまい。」 と語るのを盗み聞きした。 そして犬は驚いてすぐさま曰栄の社員のところに走って行って、 「どうしよう、ウチの人達がこんな事を言っていた。何かお前によい智恵はないか。あったら教えてくれ。」 と言った。 曰栄の社員はそれを聞いて笑って、 「俺は金融界にいてもそんな話くらいでたまげたことはない。慌ててはいけない。俺にいい考えがあるから、教えてやる。」 と言った。 犬はそれで安心したけれども、どんな事だかわからぬから、なんだと訊くと、曰栄の社員は、 「俺が金を貸してやる。その金を持って帰って、拾ったものでございますと家の人達に届けてやれ。 すると家のものが有り難いことだと思って、お前の面倒を最後までみるようになる。」 と言った。 犬は、 「それは良い考えだ。ありがたい。」 と言って、金を借りた。 犬は借りた金をくわえて家に帰り、家の人達の前にその金を置いてワンと一つ吠えた。 すると家の者は、 「これほど役に立つ犬だとは思わなかった。」 と言って、お金をネコババし、以前とはうってかわって犬を大事にした。 |
(二) |
それから2〜3日経つと、曰栄の社員が来たので、犬は礼を言った。すると日栄の社員は大きな顔をして、 「さあ借りた金を、利息をつけて返せ。」 と言った。犬はないと言うと、曰栄の社員が、 「この家にしまってある金を持って来い。タンスの上から二段目の引き出しに生活費を置いている事は調べがついているから、そいつを取ってこい。」 と言うと、犬は、 「それは家の金だから駄目だ。」 と言った。すると曰栄の社員は怒って、 「それなら俺にも考えがある。明日、俺の所へ来い。」 と言った。 犬は、 (これは俺の臓器や目玉を取って売るのだな) と思ったが、仕方がないので、 「それならいくから」 と言って別れた。 |
(三) |
その話をその家の猫が物陰で聴いていた。 (はてさて、同じ家で飼われている犬さんの災難だが、どうかして助けてやりたいものだ。) と思って犬のところへ行った。 そしてため息をついている犬に、 「お前はひどく顔色が悪いが、何か心配事があるのか。今ここに来たのは、悪名高い曰栄の社員ではないか。何かお前に難題でも吹っかけはしなかったか。」 と問うと、犬も自分の心配事を全て打ち明けた。 猫は、 「それでは俺が助太刀をするから、明日一緒に奴の所へ行こう。」 と言って、慰めた。 |
(四) |
翌日、曰栄の社員は、商エファンドの社員を呼んできて、一緒に犬の臓器や目玉を売り飛ばそうと話していた。 そこへ犬が物陰に隠れながら、猫は塀の上から気付かれないようにやって来た。 その時、商エファンドの社員の髪の毛が塀の上から出てちょいちょい動いているので、猫は習性で腕を伸ばして引っ掻いた。 すると猫の爪に髪の毛がたくさんひっかかってゴッソリ抜けてハゲが二つ三つできた。 髪の毛を引きぬかれた商エファンドの社員はひどく驚いて、一目散に逃げ出した。曰栄の社員も一緒に驚いて逃げ出した。 めでたしめでたし。 |