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金持ちの青年

泉獺 H15.10/9
 さて、一人の若者が聖者に近寄って来て言った。
「先生、絶対ハッピーになるには、どうすればいいでしょうか?」
 聖者は言われた。
「なぜ、『絶対』などと言うのか。人間の身で絶対ということはありえないのに。
 ところで君の言う『絶対ハッピー』とは何なのか?」
 そこで、この青年は言った。
「絶大な権力と財力を誇り、しかも揺らぐことがなく、豪邸に住み美女に囲まれて一生安楽に過ごすことです。」
 聖者は言われた。
「それなら行って全財産を売り払い、全て慈善団体に寄付しなさい。そうすれば、君は天国に財産を積むことになる。
 そしてイスラム教に入信し、ムジャヒディン(※1)となって戦死しなさい。そうすれば、君はイスラムの天国へ連れて行かれ、そこで70人の美女と宮殿で暮らすことができる。」
 青年はこの言葉を聞き、ガッカリして立ち去った。この青年は東証一部上場企業の創業者の跡継ぎ息子で、お金に困ったことはなく、アメリカのハーバード大学に留学してMBA(※2)を取得し、将来を嘱望されていたのである。しかも、心の中でイスラム教を軽蔑していたのである。
 聖者は弟子たちに言われた。
「はっきり言っておく。あの男の頭はハッピーにできているかもしれないが、本当にハッピーになるのは難しい。重ねて言うが、あの男が本当にハッピーになるよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい。」
(おわり)

※1.イスラム聖戦士。イスラムの大儀のために戦う戦士のこと。
※2.経営者資格。別にこれがなくても経営はできる。ところで、ユーキャンの通信講座でこれが取得できるようになったら、さぞかし有難味が失われることだろう。

元ネタ:「マタイ福音書」19.16-30、「マルコ福音書」10.17-31、「ルカ福音書」18.18-30
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