remove
powerd by nog twitter

平成かちかち山
H17.3/3 著・泉獺
 多摩ニュータウンに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
 おじいさんは定年退職後に始めた趣味の家庭農園で作物を育てていました。
「大きく育てよ〜。おいしく育てよ〜。」
 すると、木の根元に狸がやってきて言いました。
「小さく育つぞ〜。まずく育つぞ〜。」
 翌日、おじいさんが畑に来てみると、作物が食い荒らされていました。しかも、大きくておいしそうなものだけが食べられていて、小さくてまずそうなのしか残されていませんでした。
 おじいさんは役所に苦情を言いに行きました。ところが、役所はまともに取り合ってくれませんでした。それというのも、猪が人里に下りてきて、生ゴミを食い荒らしたり、人や車に体当たりして怪我人が出るという大問題が起こっていて、その対応で手一杯だったのです。
 そこでおじいさんは、小泉構造改革で削られそうな、わずかばかりの年金から罠の籠を購入し、木の根元に仕掛けておきました。
 翌朝、木の根元に行ってみると、あの憎っくき狸がものの見事に引っかかっていました。おじいさんは思わず叫びました。
「ざまあみろ! ワシが育てた作物を食い荒らした報いだ!」
 狸はおじいさんに尋ねました。
「オイラをどうするつもりだい?」
 おじいさんは答えました。
「そうさなあ。狸汁にしよう…と言いたいところだが、ワシもおばあさんも都会育ちで狸汁の作り方を知らない。近所の人たちも都会育ちだから、誰も狸汁の作り方を知らない。そこで、お前を保健所送りにする。保健所でお前は、野良犬と同じようにガス室で死ぬことになる。」
 狸は叫びました。
「ひどい! それじゃあまるでナチスだ! ホロコーストだ! アウシュビッツだ!」

 おじいさんは狸を籠に入れたまま家に持って帰って、おばあさんに言いました。
「狸を捕まえてきたぞ。ワシは畑仕事があるから出かけるが、くれぐれも狸を出してはならんぞ。」
 そしておじいさんは狸を置いて畑へ向かいました。
 狸は必死になって考えました。
(まずい、このままでは殺される。何とか脱出しなくては。そうだ、あのクソババアをだまくらかしてやろう。あのババア、長年専業主婦をやっていて、考えることといえば今晩のオカズを何にするかぐらい。ロクに知恵は回るまい。)
 そこで狸はおばあさんに言いました。
「おばあさん、後生ですから籠から出してください。」
 おばあさんは言いました。
「だめだめ。おじいさんから狸を出すなと止められているんだから。さてと、そろそろ買い物に行かないと…」
 そこで狸はさも親切そうに言いました。
「おばあさん、この辺は丘陵地帯で坂が多く、買い物へ行くのは大変でしょう。そこで私が代わりに行ってあげましょう。大丈夫、買い物が終わったらまた籠に入ってあげますから。」
 おばあさんは言いました。
「あらそう、じゃあ行ってもらおうかしら。悪いわねえ。」
 そこでおばあさんは狸を籠から出してあげて、買い物の代金を渡そうと財布を出しました。すると狸は、近くにあったおじいさんのゴルフクラブをつかんで、
「死ね! クソババア!」
 と言っておばあさんを殴り殺し、おばあさんの財布を奪い取り、更におばあさんの死体を切り刻んでババ汁を作り、偽の置手紙を作っておきました。
「友達のところへ行ってきます。帰りは遅くなります。豚汁を作っておきましたので、それを食べてください。――おばあさんより」
 そうして自分は物陰に隠れておじいさんの帰りを待ちました。
 やがておじいさんが帰ってきて、偽の置手紙を読むと、すっかり信じ込んで、ババ汁を温めて食べました。
「クチャクチャ…なんじゃこれは…クチャクチャ…やけに固くてしょっぱい豚肉だのう…クチャクチャ…きっと安い肉を使ったに違いない。」
 おじいさんがババ汁をすっかり食べてしまうと、物影に隠れていた狸が出てきて言いました。
「やーいやーい、お前が食ったのは豚汁じゃない、ババ汁だ! 流しの下を見てみろ、ババアの骨がゴーロゴロ!」
 そうして狸は逃げました。

 おじいさんは、おばあさんが殺され、しかもそのおばあさんの肉を食わされ、更に近所の人から「あの人は人肉を食った」と白眼視されてしまい、そのショックで寝たきりになってしまいました。
 そこへ兎がおじいさんのところへお見舞いに来ました。兎はおじいさんに尋ねました。
「おじいさん、どうしたの?」
 おじいさんは兎に事情を話すと、兎はおじいさんと一緒になって悲しみ、そして怒りました。
「おじいさん、私がおじいさんの代わりに狸に復讐してあげましょう。そのかわり、おじいさんの遺産を全部私に譲ってくれると遺言してください。おじいさんには子供がいないから、それくらい構わないでしょう?」
 おじいさんが承諾すると、兎はさっそく狸のもとへ行きました。
「こんにちは、狸さん。いい儲け話があるんですが、一口乗りませんか? ライブドアの株を買いなさい。必ず値上がりしますよ。というのは、私が入手した極秘情報によれば、ライブドアがニッポン放送の株を買い占めてメディア支配に乗り出すからです。そうなればライブドアの株価がうなぎ上りになることは間違いありません!」
 狸はすっかり信じ込んで、ライブドアの株を買いました。一方、兎は狸と一緒にライブドアの株を買うふりをしてコッソリとライブドアの株をカラ売りしておきました。
 やがて兎の極秘情報通りに、ライブドアがニッポン放送の株を買い占めて筆頭株主になりました。しかし、買収資金があまりに巨額であったので、資金繰りが不安視されてライブドアの株価は急落してしまい、狸は大損してしまいました。一方、カラ売りしていた兎は大儲けしました。

 それからしばらくして、兎は再び狸のもとを訪れました。
 狸は怒って言いました。
「この野郎! お前のせいで株で大損したんだぞ! どうしてくれる!」
 すると兎は言いました。
「それは兜町の兎です。私は猪木村の兎です。」
 狸は言いました。
「なんだ、そうか。」
 兎は言いました。
「それよりいい儲け話があるんです。私はついに、人類の長年の夢であった永久機関を発明したんです。これを売れば大儲けできますよ。ただ、他にも欲しいと言ってくれる方がいるから、今すぐ返事をして下さい。」
 すると狸は言いました。
「な、なにっ!? それは本当か!? よ、よし、買う買う!」
 こうして狸は、親類縁者や友人知人から借金しまくって、兎から永久機関だという機械を購入しました。兎は大金を抱えて帰ってゆきました。
 ところが、機会はウンともスンとも言いません。狸はあれこれいじってみましたが、無駄でした。そこで機械の中を覗いてみると、全くのカラッポ。ようやく狸はこれがインチキだと気付きましたが、後の祭り。借金の返すことができずに、友人を失い親類からは縁を切られてしまいました。

 それからしばらくして、兎は再び狸のもとを訪れました。
 狸は怒って言いました。
「この野郎! よくもインチキなものを売りつけやがって! 金返せ!」
 すると兎は言いました。
「それは猪木村の兎です。私は赤城山の兎です。」
 狸は言いました。
「なんだ、そうか。」
 兎は言いました。
「実はいい儲け話があるんです。赤城山に徳川埋蔵金が埋められているんです。一緒に掘って、財宝が出てきたら山分けしましょう。」
 狸は言いました。
「ほ、ほんとか!? ようし、それなら掘り当ててやるぞ!」
 こうして狸と兎は赤城山へ行き、穴を掘り始めました。5メートルほど掘ったところで、兎は狸に言いました。
「狸さん、私はちょっとコンビニに行って弁当を買ってきます。狸さんはこのまま掘り続けていてください。」
 そうして狸を穴の中に残しておいて兎は外に出て、穴に岩を放り込み、更に土をかぶせて狸を生き埋めにして殺しました。

 こうして兎は株で大儲けし、狸の財産をだまし取り、おじいさんからは感謝されながら遺産を譲り受けましたとさ。
 めでたしめでたし。
(おわり)

【戻る】
【ホーム】