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壁に字を書く指

泉獺 H15.12/6
 金正日総書記は千人の党幹部・軍幹部を招いて盛大なパーティーを開き、みんなで酒を飲んでいた。宴も進んだころ、金正日は、外国産の高級な酒を持ってくるよう命じた。総書記や幹部、ホステス役の公演組がそれを飲もうというのである。そこで、人民から搾り取った金で買い、万景峰号で運んできた高級な酒が運び込まれ、総書記や党幹部・軍幹部、公演組がそれを飲み始めた。こうして酒を飲みながら、彼らは、共和国の太陽、主体思想の具現者、世界最高の芸術家、将軍の中の将軍、百戦百勝の英雄、偉大なる将軍様をほめたたえた。
 その時、人の手の指が現れて、照明に照らされている会場の白い壁に文字を書き始めた。総書記は書き進むその手先を見た。総書記は恐怖にかられて顔色が変わり、腰が抜け、膝が震えた。総書記は大声をあげ、金日成大学の教授などを連れて来させ、これら北朝鮮の知者にこう言った。
「この字を読み、解釈してくれる者には、父金日成主席の名前が刻まれたスイス製オメガ時計とベンツ280型、革命勲章1級を与えよう。」
 北朝鮮の知者たちは皆、集まって来たが、だれもその字を読むことができず、解釈もできなかった。金正日総書記はいよいよ恐怖に駆られて顔色が変わり、党幹部も軍幹部も皆途方に暮れた。

 総書記や側近が話しているのを聞いた高英姫夫人は、宴会場に来てこう言った。
「偉大なる将軍様がとこしえまでも生き永らえられますように。そんなに心配したり顔色を変えたりなさらないで下さいませ。共和国には、聖なる神の霊を宿している人が一人おります。父なる主席様の代に、工作員が日本から拉致してきた者の中で、帰国の望みが絶たれて精神異常を起こして神々の世界に近付いた、×××××(読者が賢明ならば悟れ。)でございます。この×××××をお召しになれば、神託かもしれないその字の解釈をしてくれることでございましょう。」

 そこで、×××××が総書記の前に召し出された。総書記は×××××に言った。
「工作員が日本から拉致した日本人の一人、×××××というのはお前か。聞くところによると、お前は神々の霊を宿していて、すばらしい才能と特別な智恵を持っているそうだ。教授どもを連れて来させてこの文字を読ませ、解釈させようとしたのだが、彼らにはそれができなかった。お前はいろいろと解釈をしたり難問を解いたりする力があると聞いた。もしこの文字を読み、その意味を説明してくれたなら、お前に父金日成主席の名前が刻まれたスイス製オメガ時計とベンツ280型、革命勲章1級を与えよう。」
 ×××××は総書記に答えた。
「贈り物など不要でございます。ただ帰国させてくださればそれで結構です。それでは、将軍様のためにその文字を読み、解釈をいたしましょう。
 将軍様、天は、あなたの父金日成主席に半島の北半分と権勢と威光をお与えになりました。その権勢を見て、人民、党、軍はすべて、恐れおののいたのです。父金日成主席は思うままに殺し、思うままに生かし、思うままに栄誉を与え、思うままに没落させました。しかし、父金日成主席は傲慢になり、頑なに尊大にふるまったので、首の瘤が大きくなって、命数は尽きました。死の間際、ついに悟ったのは、いかに地上で権勢を誇ろうとも、天命には逆らえないということでした。
 さて、金正日総書記よ、あなたはその皇太子で、これらのことをよくご存じでありながら、なお、謙虚になろうとはなさらなかった。天命に逆らって、無辜の民を虐げ、あなた自身も、党幹部も、軍幹部も皆、甘い汁をすすることに汲々としておられます。また、だれもかれも総書記をほめたたえておられます。
 だが、あなたと、あなたの国の命運を握っておられる天を畏れ敬おうとはなさらない。そのために天は、あの手を遣わして文字を書かせたのです。
 さて、書かれた文字はこうです。算、算、議、そして泯。意味はこうです。算は数えるということで、すなわち、天はあなたの命数を数えて、それを終わらせられたのです。議は諮問して会議にかけるということで、すなわち、あなたは天界の会議にかけられ、指導者として失格だとされました。泯は滅亡するということで、すなわち、民が泣いているのを見ようとしなかったためにあなたの王国は滅ぼされて、南朝鮮とアメリカの手に与えられるのです。」
 これを聞いた金正日は、×××××に金日成主席の名前が刻まれたスイス製オメガ時計とベンツ280型、革命勲章1級を与えた。
 その次の年、北朝鮮の皇帝金正日は殺され、金王朝は滅亡した。
(終わり)

元ネタ:「ダニエル書」5.1-30 壁に字を書く指の幻
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