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毒麦

泉獺 H15.12/1
 ある人が良い種を畑に蒔いた。人々が眠っている間に、敵が来て、麦の中に毒麦を蒔いて行った。芽が出て、実ってみると、毒麦も現れた。下僕たちが主人のところに来て言った。
「だんなさま、畑には良い種をお蒔きになったではありませんか。どこから毒麦が入ったのでしょう。」
 主人は、
「敵の仕業だ。」
 と言った。そこで、下僕たちが、
「では、行って抜き集めておきましょうか。」
 と言うと、主人は言った。
「いや、毒麦を集めるとき、麦まで一緒に抜くかもしれない。刈り入れまで、両方とも育つままにしておきなさい。刈り入れの時、『まず毒麦を集め、焼くために束にし、麦の方は集めて倉に入れなさい』と、刈り取る者に言いつけよう。」

 こうして毒麦は放っておかれた。そのため、畑の中で毒麦がのさばって、麦の生育を阻害し、麦の実り具合も例年より悪くなってしまった。
 やがて刈り入れの時になった。主人は下僕たちに言った。
「まず毒麦を集め、焼くために束にし、麦の方は集めて倉に入れなさい。」
 下僕たちはその通りにした。しかし下僕たちも所詮は人の子、間違いを犯した。麦と毒麦を選り分ける際、毒麦の束に麦を混入させてしまい、麦の束に毒麦を混入させてしまった。
 主人はそのことに気付いて、下僕たちを叱り、ただちに毒麦の束から麦を取り出させ、麦の束から毒麦を抜き出させた。しかし主人といえども所詮は人の子、完全完璧に選り分けさせることはできなかった。
 こうして毒麦の中に麦が入ったまま焼かれ、麦の中に毒麦が入ったまま倉に収められた。
 そして毒麦入りの麦でパンが作られ、そのパンを食べた人たちが中毒症状を起こした。
 主人は後悔して言った。
「毒麦に気付いた段階で処置しておけばよかった。そうしておけば、今よりはマシな損害で済んだかもしれなかったものを。」
(終わり)

註:「毒麦」は、小麦畑に生える麦とよく似た雑草で、小麦の成長を妨げる。その実にはしばしば有毒な寄生物が発生して、人間の体に中毒症状を起こさせる。(監修:ウィリアム・M・ギャレット、訳:松村あき子・飛田茂雄『新約聖書』角川書店、H11.6.25 P70)
元ネタ:「マタイ福音書」13.24-30
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