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HUNTERXHUNTERの謎
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アイコン親愛なるあなたへ −幻影旅行さん

親愛なるあなたへ

おもちゃ売り場で泣いている子供がいるとする。一緒にいる親はそのおもちゃを絶対に買おうとはしない。当然子供はますます泣き出す。泣き続ければいつか願いはかなうと信じて。だが親は子供を甘やかすわけにはいかないので、絶対に買ってあげようとはしない。

             そんな時。

子供が泣き止むまでずっとその子を抱きしめてあげ、おもちゃを買ってあげられない理由をその子に優しく諭し、子供の寂しい気持ちを親に代弁してあげる。その子がもう泣かなくて済むように。その子の親が子供に寂しい思いをさせなくて済むように。当たり前の優しさを当たり前に分け与えられる人。
例えれば。彼女・・・・・「サラ」はそんな人だった。

私のそれまでの人生はどこか色褪せていた。財閥の跡取りとして育てられた私の元にはその莫大な財の恩恵に与ろうと、数え切れない程の人間が蠢いていた。歓喜、悲哀、絶頂、憎悪、絶望・・・そこには色々な感情があった。人々は終始私のご機嫌取りに必死だった。私もそんな環境に酔いしれていた。
そんな時だった。サラと出会ったのは。
彼女は変わっていた。まず私の家の資産に全く興味を示そうとしなかった。
私はそんな彼女の態度に新鮮な気分になり、順調に彼女との親交を深めていった。そして私はある日、サラにプレゼントをした。価格6千万ジェニーの最高級の指輪だった。するとサラは寂しそうな顔で私を抱きしめてこう言った。
サラ
「あなたはまるでおもちゃ売り場で駄々をこねて泣き続ける子供ね。子供にとっての泣き声があなたの家の財産なんだわ。欲しいおもちゃが手に入らないから子供はいつまでも泣き続ける。そうすればいつか必ず手に入れられると信じてる。あなたも同じ。お金さえ与え続けていれば皆自分の思い通りになると信じてる。皆自分の物になると信じてる。・・・・・でもね、本当に大切な物や大切な人は決してお金では手に入らないの。・・・そりゃあ、私だって女だもの。高価な指輪は欲しいわ。でもそれよりも本当に欲しいものが1つだけあるの。だから私はこの指輪はいらない。こうやってあなたと触れ合ってるだけで十分。もしまた寂しい気持ちになったら私に言ってね・・・何回でもこうやって抱きしめてあげるから・・・・・」
途中から私はサラの顔がぼやけて見えなくなった。
泣いていた。ただひたすらに。無意識の内に。次から次へと涙が止まらなかった。
後日、私は再度サラにプレゼントをした。今度は手作りの写真立てを送る事にした。自作の為正直不安だった。嫌われるのでは?疎ましく思われるのでは?と。しかしその考えは杞憂に過ぎず、サラはその拙い自作の写真立てをとても喜んでくれた。上手くは言えないが、私はその時金では決して手に入れる事ができない何かを手に入れる事ができた・・・・・そんな気がした。
その後はサラとの結婚も決まり、幸せな時を過ごした。人生最良の時だった。そして結婚式の前日にサラから電話があった。内容は特に何もなく、ただ私の声が聞きたかっただけだと言い二言、三言世間話をして会話は終わった。そして最後にサラはこう言った。
サラ
「私が本当に欲しかったものが明日やっと手に入るわ。それが何なのかは式が終わった後であなたにも教えてあげる。じゃあ、もう遅いから切るわね。
         愛してるわ。バッテラ。            」
私が彼女の声を聞いたのはそれが最後だった。彼女の本当に欲しかったものが何なのかは・・・・・・・・・・・・・結局わからずじまいだった。


私は今ヨークシンシティに来ている。去年の9月にこの街で起こった盗賊団によるテロ災害の復興支援をするためだ。半分になったバッテラ家の総資産を投げ打って。親族一同には猛反対を受けた。マスコミは私を「前代未聞の偽善資産家」として面白おかしく取り上げた。だが私は本気だった。

私がその手紙を発見したのは全くの偶然だった。最愛の恋人に死なれ、絶望した私にはG・Iのクリアなぞ最早どうでもいいことだった。ツェズゲラ達に違約金を払い、その足で彼女との想い出に導かれるまま彼女の生家に向かった。
そして彼女の家をうろついている時に一通の手紙を発見した。ずいぶん古ぼけた手紙だった。宛名は無かった。私は気になって封を開けて中の文を読んでみた。そこには見覚えのある懐かしい筆跡でこう書かれていた。
「〜親愛なるあなたへ〜
この手紙をあなたが読んでいるという事は、私は本当に欲しいものをあなたから受け取った後なんでしょうね。面と向かって言うのは恥ずかしいから手紙で伝える事にします。私が本当に欲しかったもの・・・それは「あなた自身」です。あなたは私と違って何でも持っていた。財も地位も名誉も権力も・・・・でも私があなたを初めてみた時、あなたは泣き続ける子供にしか見えなかった。どうでもいいものばかりは何でも手に入れられるのに、本当に欲しいものが手に入れられなくて泣き続ける子供。・・・・・私は正直、あなたが私の事を気に入ってくれるとは思いませんでした。私にはあなたほどの財も地位も名誉も何も無かったから。私にあったのはあなたを想う気持ち・・ただそれだけ。だから指輪の贈り物を断った時、私はすごく後悔しました。彼は私の事を想ってあの指輪をプレゼントしてくれたのに、何でその気持ちを踏みにじる様なことをしちゃったんだろうって。でもあなたは、そんな私を許してくれた。受け入れてくれた。私はその時自分の選択が間違っていなかった事を改めて認識しました。これからも色々あるでしょうけど、2人でがんばっていきましょうね。                〜あなたのサラより〜」
途中からなぜか文がぼやけて見え出した。私は軽い既視感を覚えた。
この感覚を私は知っている。そう・・・彼女に遠い昔抱きしめられた時だ。
あの時と同じく私は無意識の内に泣いていた。ただひたすらに。
おもちゃ売り場で泣き続ける子供の様に。私は理解した。
彼女がまた私を抱きしめてくれた事を。私が寂しがらない様に。 
自分が死んでも私が前を向いて強く生きていける様に。
彼女はずっと私を抱きしめていてくれたのだ。私はそう・・・理解した。


ヨークシンシティが完全復興するまではまだだいぶかかるだろう。復興費用もどれだけかかるか皆目見当もつかない。だが私は決して諦めない。
これから先どんな困難が待っていようと私はこれからの人生を前向きに生きてみせる。
     彼女に・・・サラに抱きしめられたあの温もりを信じて。
幻影旅行








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