「お散歩に行きませんか?」
という双樹ちゃんの提案で、俺たち(俺と双樹ちゃんと沙羅ちゃん)は昼下がりの公園にやってきた。
ひとしきりぶらぶらし、じゃあ休憩しようか、ということになり3人並んでベンチに座る。
ちなみに右から、俺、双樹ちゃん、沙羅ちゃんという形だ。
普通こういう場合は『両手に花』ってな感じになるんじゃないかと思うんだが、沙羅ちゃんが双樹ちゃんにくっつき、
双樹ちゃんが俺にくっつくので、いつも結局、双樹ちゃんを俺と沙羅ちゃんで挟むような格好になる。
まぁそれはそれで良いんだけどさ。・・・・・・口惜しくなんかないやいっ。
ベンチにもたれかけて空を見上げると、突き抜けるような一面の青。その中を綿菓子みたいなぽわぽわした雲が流れている。
爽やかな初夏の風が、なにやら甘い香りを運んできた。これは・・・・・・クレープだな。どこかに店が出てるんだろう。
「あ、あの、お兄さん」
どうやら双樹ちゃんも気がついたみたいだな。急に落ち着きがなくなってる。
「あ、あの、喉、渇いてませんか? 双樹、何か買ってきます」
俺が行ってくるよ、とは言ってみたものの、双樹ちゃんが自分で行くと言って聞かなかったので、じゃあコレを、と多目にお金を渡す。
双樹ちゃんは遠慮したけどこれくらいは甲斐性だし、俺らの分もいっしょに好きなもの買ってきて、といって送り出した。
残った俺と沙羅ちゃんは、しばらく黙って双樹ちゃんの帰りを待つ。と、
「おい、・・・・・・ちょっと、いいか?」
不意に沙羅ちゃんが口を開いた。
「なんだい?」
「・・・・・・あのな、いつも言ってるけど、私にとってオマエは、あくまで双樹のオマケなんだからな」
そう、沙羅ちゃんにとって、一番大事なのは双樹ちゃんだもんな。
「だ、だけど・・・・・・」
そこまで言って、沙羅ちゃんは俺から視線を外してうつむいた。
言葉を続けるかどうか迷っているんだろう、膝の上で自分の指を玩んでいる。
やがて、決心したのかグッと手を握り締めると、いつもより小さめな声で、ボソッと呟いた。
「オ、オマエにとっても私は・・・・・・双樹の、オマケなの・・・か?」
ぷぷっ。
いつものふてぶてしい態度はどこへやら。今の妙にもじもじしている様子は、なんというか・・・・・・すごくカワイイなぁ。
俺は左手を沙羅ちゃんの頭に伸ばして、クシャクシャっと少し強めに髪を掻き撫でながら言った。
「俺には、沙羅ちゃんも双樹ちゃんも、同じくらい大事だよ」
その言葉を聞いた途端、沙羅ちゃんの顔が真っ赤に染まった。
「そ、そんなこと言っても、わ、私は、う、嬉しくないからな! そ、それに、気安く髪に触るな。わ、私の髪に触っていいのは、双樹だけだっ!」
「まぁいいじゃん。沙羅ちゃんの髪、さらさらしてて気持ち良いよ」
「う、うるさいっ」
なんて感じでじゃれ合っていると、
「ああ〜っ、二人ともずっるーいっ!」
と声がした。
声の主はもちろん、両手いっぱいにクレープと飲み物を抱えた双樹ちゃん。
「双樹も沙羅の髪に触る〜」
そう言いながら手に持ったクレープ等を沙羅ちゃんに押し付け、隣に座って髪に頬ずりする
「はぁ〜、沙羅の髪って、気持ちい〜」
「だよね〜」
「こ、こら、双樹止めろ! オマエも調子に乗るなぁ!」
しかし両手をふさがれ抵抗できない沙羅ちゃんは、しばしされるがままになるしかなかったのであった。
・・・・・・と、そんなこんなで今日もまた、のどかに一日が過ぎていくのであったとさ。
【終】
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