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罰当たりな水泳教室

作・横山 怜さん




「……他に何か……は……でしょ…か?」
「…近、プール………の……が………います。担当……はもっと丁……………下さい」

『ハイっ!』

「他に……質…は?」

 半ばお決まりになりつつある受け答えをBGM代わりにしつつ、この数分後に待っている一大イベントを思い描く。
 彼はどんな泳ぎが苦手なのだろう? その時自分はどうやって教えてあげようか?

 このこよみ学園に赴任してから早数年。水泳部の顧問として人並みの自信は持っているつもりだが、相手が相手だけにそれも揺らぎ始めている。
 いや、何よりも根本的な問題として…。

「…ここで『マンツーマン』てのがある意味ヤバイよなぁ」

「…生っ。五箇条先生っ!」

「うわっ、ビックリしたぁ…。何だよ?」
「先生の方では何かご意見はありますか?」

 隣に居た部長が尋ね返す。
 そう、今は確かミーティング中だったか。

「え? あー、オレの方からは特に何も…」

 と、いつもの調子で言いかけて訂正する。

「…そうだ。今日の塩素当番なんだけど、オレがやっとくから担当の奴は帰っていいぞ。…って言うか、今日はお前らプール付近でダベるの禁止」
「それはどういう……」
「いいからとにかく帰るっ! オレの方からは以上!」
「ハイ…分かりました」

 とりあえず納得してくれたようだ。
 危うく自分から計画を台無しにしてしまう所だったので、胸中でホッと一息つく。

「それでは、これでミーティングを終了します。…お疲れ様でしたっ!」

『お疲れ様でしたっ!!』

 部活動終了の号令。いつものソレは、今日に限っては始まりを告げるものでもあった…。





 ここはこよみ学園の室内プール。水泳部が真に活動できる唯一の場所にして聖域。
 部外者から見れば大げさだと思われるが、水泳を部活動とする者は皆、水を恐れ(=畏れ)敬うように教育される。
 少なくとも、こよみ学園や近隣の学校ではそういう習わしだ。

「なのにオレは一体何をしようとしてるんだろうなぁ…」

 そう呟きながら彼女―――五箇条さつきはバケツの中に水と塩素を入れて溶かしていた。
 別に塩素を撒く事が嫌だというわけじゃない。
 彼女が悩んでいるのは…。

「さつき先生っ、何やってんの?」
「消毒用の塩素を作ってる。一応『名目』は作っておかないとな」

 一人の男子生徒が近寄ってくる。
 水泳部員には付近に存在することも許さなかったのに、彼には若干緩んだ、いや傍目には“緊張”した表情でさつきは応える。
 もっとも、彼女は彼を呼ぶ為に人払いを行い、その私情でプールを使う事に後ろめたさを感じていたのだが。

「そっかー、先生もイロイロ大変だねぇ」
「お前なぁ…一体誰のせいで…っ!」

 その唇がもう一つの唇で塞がれる。

 突然の事なので、さつきは石像のように固まってしまった。

「だ・れ・の・せ・い・で、この一ヶ月間デートらしいデートができなかったのかなぁ? 今年の夏休みは僕すっごく楽しみにしていたんですけど…」

 あくまでにこやかに問い詰める男子生徒。
 それに対してさつきは教師らしからぬ表情で弁明しようとする。

「それはだなぁ、室内プールとは言っても水泳部の活動は夏中心な訳で、合宿やら大会やらでゴニョゴニョ…」

 学園では快活な教師で通っている彼女も、付き合っている相手の前では弱気になる時もある。
 特に彼女の場合、相手が相手なのだ。

「まぁとにかくプールに入ろ。室内とはいえ、もう夕方過ぎてるし」
「ああ…、そうだな」
「それじゃ、さつき『ママ』、僕はこれから着替えてくるから」

 そう、彼女の場合、“相手が相手”なのだ。





 その男子生徒とさつきが出会ったのは数ヶ月前―――彼がこよみ学園に転入してすぐの事だった。

 彼は両親が既に無く、それを知ったさつきが彼の家族となるべく家に押しかけたのだが、他にも彼の元に馳せ参じた女性が4人、
しかもさつきの同僚教師―――と、途中から少し頭の痛くなる紆余曲折の末、今に至る。


 即ち、彼は生徒であり息子、彼女は教師であり母親。

「あ、やっぱり今なんか頭痛くなってきた…」
「偏頭痛? そんな時はやよいママに薬でも貰った方がいいよ」
「あのなぁ…、学校で『ママ』って呼ぶのは禁止だろ。むつきにも注意されたじゃねーか」

 彼にバタフライの型を教え込んでいたのを止めて注意するさつき。
 『教師と生徒』という間柄での恋愛だけでも十分にマズイが、もし仮に『ママと息子』な関係がバレたら辞職・退学どころでは済まない。
 新聞やネットの三面記事で採り上げられ一部の人間に善からぬ想像を掻き立ててしまうだろう。

「まぁ、ソレはこの際考えないことにして。だって今このプールとその周りは無人だよ? 着替える時にちゃんとチェックしたし」
「そういう問題じゃなくてだなぁ…」
「あ、それともアレかな? こういう時は一人の『女』として見てほしいと」
「な!? いや、それはまぁ、そう思わないなんて事は未来永劫ありえないと言えない事も無いわけで…」

 途中から半分意味不明な言語の羅列になってしどろもどろになる。
 ちなみに、彼はさつきのそういう『男っぽいように見えて実は女の子』な所に惹かれたらしい。

「…もうっ、そんな事言わないでくれよ。で、次は何を教えてほしい?」
「平泳ぎかな。蹴り方がいまいち分からなくて」

 不自然な話題転換と異様な順応性で場面は急激に変わる。
 彼と彼女、そして他のママ達にとっては、いつもの事だ。

「ブレのキックか。じゃあ、そこに掴まってやってみ。おかしい所があったら直すから」
「先ずは『先生』からお手本を」
「しょうがないな…」

 生徒に請われて手本を示さない訳にもいかない。

 さつきはプールサイドの縁に掴まり、彼に背を向けてゆっくりと足だけの平泳ぎを始めた。
 普段ものすごい勢いで泳いでいるので誤解されがちだが、本来のさつきのフォームは非常に整っており、どの視点で見ても有用性に溢れている。
 実際、本物の水生生物のような動きを見れば、彼女が水泳部の顧問をやっているというのも頷ける話だろう。

「…………」

 しかしその時、彼はさつきの動きに何かを感じてしまった。
 そう、そのフォームを後ろから見たことのある者なら誰もが気付く事。

「…ちょっと下から見させてもらうね」

 かすかに震える声でそう言うと、彼は間髪入れずに水中に潜り込む。


 予想通り水中は凄いことになっていた。

 ゆっくりとした動きで両足が大きく開かれる瞬間、中心である股間が最大限にクローズアップされているのだ。
 スッと両足が水を押し出せば、お尻が若干上下する。
 更に下から眺めると、最低でも80以上はあるバストがかすかに揺れていた。

(コレって実は物凄くイヤラシイ泳法なんじゃあ……)

 考えてみれば、男子と女子では合同で水泳の授業があったとしても、一緒のコースに入って泳ぐという事は無かった。
 つまり、男女混合でやるとこういう構図が成り立ってしまうのだ。
 今まで気付かなかった事実を目の当たりにして、彼は急激にある衝動に襲われる。
 彼は暫く肺が酸素を求めているのも忘れて沈思するが、結局それを実行することにした。

「おーいっ。そんなにもぐって…って、ちょっ…、オマエ何してるんだよ!?」

 結局の所、導き出された解答は性欲の発散だった。
 本来ならその衝動は抑制されて然るべきだが、状況が自分にとってあまりにも有利な為にタガが外れてしまっている。

「ごめん、さつきママ…。あんまり股を開いたり閉じたりして挑発するから、もう、我慢できない…」

 彼はさつきの腰を後ろから掴み、下腹部を彼女の股間に押し当てていた。


「バカッ、今ス…ァっ……ヤ、やめろ…止めろってば」

 必死で逃れようとするが、水面にうつぶせ状態で下半身を押さえられては手が離せないし、蹴り飛ばす事も出来ない。
 さつきの抵抗を余所に彼はさつきを後ろから抱き寄せ乳房をむんずと掴む。
 何度か身体を重ねてはいたが、濡れた水着に包まれている胸の感触というのはとても新鮮だった。

「…もう勃ってる。さつきママってばエッチなんだぁ」
「ぁ、ち…違っ……アっ!」

 化繊の生地の下から浮かび上がる豆状の物体を摘ままれて声を上げるさつき。
 長時間水に浸かり体温が低下していている為だ。
 おそらく今日この瞬間ほど、ニプレスを用意し忘れたことを恨んだ事は無いだろう。
 今後は女子部員にも指導を徹底しておかねばなるまい。もっとも…。

「水着プレイなんてなかなか機会が無いんだよねぇ。ほら、もっと楽しまないとさつきママ。ココがお留守だよ」

 今度はさつきの恥丘に手を伸ばす。
 いかなる技を使ったのか下に付けていた筈のサポーターは引き千切られており、彼女の股間を守るのは本当の意味で水着だけになっている。
 そうした上でわざわざ水着の上から撫で回すのだから、彼はかなりの好き者と言えるだろう。

「…っ、ふぅっ……くぅん…」

 競泳用の水着はサポーター無しではあまりにも不安定で、限りなく直接的な愛撫は股間の一点を次第に浮き上がらせる。


「可愛いよ、さつきママ…」

 変化が彼に訪れる。今まで余裕綽々だった表情が鳴りを潜め、その代わりに息を荒げ、目を血走らせ、体温を急上昇させている。
 水着の上から弄くるのに満足できなくなったのか、今度はさつきをプールの壁に押し付け、水着の中をまさぐり始めた。
 収縮性に富んだ生地とさつきの完成された肉体の狭間で蠢く彼の手は、まさに密林の中の蛇そのものだった。

「あ、ぁ…ぁ……」

 さつきはもう抵抗も反論もせず、ただゆっくりと感じ始めている。
 全身を弛緩させ今や自分一人で立てるかどうかも怪しいところだ。
 自分でも大きいと思うバストをひしゃげさせ、勃起したクリトリスを弄りまわされてもなお、身体の火照りは止まらない。
 もう少しこのまま感じていたいし、決定打を放ってほしいとも思う。

「さつきママ、そろそろ挿れるよ」

 彼の方から最後通告が来る。どちらでも良かったさつきは答えない。
 それを了解と受け取った彼は水着を下ろし、ペニスを押し当てる。
 そして右手で股布を引っ張るとゆっくりと、確実にさつきのヴァギナとの接続を始めた。

「あっっっっ…! はぁぁぁ………っ」


 開かれた門は彼の一部を受け入れはしたが、その内部はひどく収縮している。
 原因は同時に侵入してくる水にある。
 水中での性交が謀らずも、さつきの膣口を『水門』にしていたのだ。

「アッ…止め、止めてっ! 水が、水が………ぁっっっ!!」

 せっかく愛撫で体温を上昇させて身体をほぐしても、体内をダイレクトに冷やされては敵わない。
 その落差がさつきには未だ耐え難い刺激になっていたが…。

「良いよっ、さつきママ…。締め付けがスッゴク良い……っ。お尻でやった時よりずっと楽だよっ」

 黄色い救急車に運ばれる人みたいな瞳で見つめながら、彼はさつきを犯す。
 彼女が背中に爪を突き立てようと、ビクビクと痙攣していようとお構い無し。

 いや、気付いてすらいないのかもしれない。


 さつきの抵抗で自身を突き入れるのはかなり困難かと思われていたが、水中で体感重量が軽減されて±0。

 絶頂に達する途上での障害は、無い。

「はァっ、あぅっ、ぅっ、っ……ヒくっ、イくぅぅっ…!」
「さつきママ…っ、僕もそろそろ、出るっ」
「ナカでっ、膣内で出して…っ、水、汚したくない…っ!」
「そっか……それじゃ!」

 そう言うや否や彼はこれまでの動きをより一層激しくする。
 どうやら、さつきを早めにイカせるつもりらしい。

「ハァッ、あッ、ハッ、はァっ、あっ…ぁぁぁぁッッ!」

 結果として、さつきは先にイッた。
 そしてその瞬間、水着内の下腹部から胸部にいたる範囲で生暖かいモノが掛かるのを感じた。

「…ァ…ハァ……ハァ…………?」

 絶頂を迎えたばかりで頭が上手く働かず、それが何なのか分からない。
 とりあえず今は余韻に浸りたかったので、身体を彼に委ねるつもりで後方へ寄りかかる。
 が、傍にいる筈の彼は忽然と姿を消しており、代わりにシャワー室に向かって駆け出す姿が確認できた。

「まさか……!?」

 さつきはある事に思い至ってプールサイドへ上がると、水着を引っ張って中を確認する。
 中身はさつきの予想通り。直後、松田○作の某台詞がプール内に響き渡ることとなった。





 ここはこよみ学園の室内プール。水泳部が真に活動できる唯一の場所にして聖域。
 この地域で水の中を泳ぐ者は皆、水を神聖視するように教育される。

 その習わしは少なくとも、学校制度が取り入れられるずっと以前から存在していた。

「なのにオレは一体何をやってるんだろうなぁ…」

 そう呟きながら彼女―――五箇条さつきはスポンジ台の上で仰向けになって浮かんでいた。
 もし第三者がその姿を目にしたらギョッと驚くことだろう。
 証明に照らされている彼女の身体は、一片の布切れも纏っているようには見えないのだから。

「どうしたの? そんなに気だるげな表情で」

 彼はというと、平泳ぎの練習をしていた。
 先程のレッスンで教えられた通りのフォームを維持しているようだが、無理やり顔を上げて会話しているため動きがぎこちない。

「いや、どっかの馬鹿が水着を駄目にしちゃったから恥ずかしくて泳げないんだよ」
「あははは、ゴメンねー。だったらさ、いっその事そのままの格好で泳いでみない? 結構気持ちいいからクセになるかもよ?」

 そのまま彼はスイスイと擬音が付きそうな勢いで平泳ぎを再開する。
 もし第三者がその姿を目にしたら警察に通報していることだろう。
 水面から覗く彼の身体も、何かを着ているようには見えないからだ。

「なぁ、何で膣内に出さなかったんだよ」

 さつきは彼に訊ねる。

 ついでに言えば、水着が破けたり精液まみれになっていないのにどうして裸でいるのかも気になったが、それはこの際置いておく。

「いや、ほら、別にそれが好きってわけじゃないけどさ、そうしないとあの場合プールにアレが撒き散らされて、その…」

 自分で言った事に自分で恥ずかしくなり、そのままゴニョゴニョとどもる。
 それに対して彼は、若干の沈黙の後にこう答えた。

「…優先順位の違いかな。さつきママはこのプールを第一に考えた。僕はさつきママの身体を第一に考えた。そういうものだと思う」

 言葉そのものは不確かだが、ハッキリとした物言い。
 彼の目は真剣そのもので、おそらく虚言など一つとして含まれていないのだろう。
 さつきもその事を踏まえた上でコメントすべきだった。

「…けどな、それだったら、そもそも最初からここでするなぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 直後、必殺の一撃が炸裂して水柱が一つ生まれた。





 こうして、夏休み終盤に起きた風変わりな個人授業は終わりを告げる。

「来年の夏は、もっと一緒に過ごそうな」


 …最後に恥じらいを含んだ誘いの言葉を残して。



【終】



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