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Private Room




 降り積もった雪が冷たい夜の町を白く浮かび上がらせていた。
 月明かりを反射して屋根やアスファルトにデコレーションされた白雪が輝き、深夜だというのに街灯などいらないくらい明るい。
 この時期は星空が一年の中でも最も美しい季節である。
 ごみごみした都会と違って、夜空を遮るビルディングもない空気の綺麗な師走町となればなおさらだ。

 正月に入っての浮かれ騒ぎも日が経つにつれ沈静化して、人々もそれぞれの日常を取り戻しつつあった。
 学生は短い冬休みも終わり、寒かろうと雪で電車が止まろうと学校に行かないといけないし、
お屠蘇気分の抜けないまま社会人はぼやきつつも各々の仕事場へと足を向ける。

 そんな切り取られた日常の一部でしかない、ごく平凡なある夜。白露家にて。
 ここには奇妙ないきさつから5人の『ママ』と暮らしている少年がいた。





 う゛ぉーんと耳障りな駆動音をあげてプリンターから問題用紙の最後の一枚が排出される。

「……やっと……終わりました……」

 きさらぎは自分の担当科目である化学のテスト草案の用紙をクリップでまとめてファイルに綴じた。
 そのままパソコンの電源を落とし、電気を消すと作業していた机からベッドへぽふっと倒れ込むように身を投げ出す。
 うつぶせのまま首だけを動かして時計を見れば、すでに日付が変わっていた。

 ―――さすがに疲れた。

 死んだ魚のようにぐったりしながら、きさらぎは枕に顔をうずめた。

 定期試験は教師たちにとっても気の重いイベントである。
 テスト前は質問に来る生徒や神経質になる生徒も増えるし、
試験範囲からどの問題を出すか割り振ってテスト草案を作成しなければならない。

 しかし、テストが始まる前の今はまだいい。
 テストが終わったら今度は、数十枚を越える答案を採点しなければならないのだ。
 数枚作った問題用紙がぶ厚い紙束になって返ってくる。
 綺麗な字、汚い字、多種多様な筆跡で書かれた様々な答案に、ひたすらマルとバツを書き連ねる機械的単純作業。
 生徒たちはテスト終了後の開放感に浸っているなかで、教師は新しく入る授業範囲の準備とテストの採点で忙殺されるのだ。
 そのことを考えると憂鬱になる。
 ほぅ、ときさらぎは小さな溜息を漏らした。

(今度……やよいさんみたいに……ツクモくんにテストの採点……手伝ってもらいましょうか……)

 去年の夏休みに入る前、やよいがツクモを自分の部屋に招き入れ、保健体育のテストの採点を手伝ってもらっていたのを思い出した。
 その話を聞いたうづきは、さっそく同じように美術のテストの採点をツクモに手伝ってもらっていた。
 羨ましかった。自分もツクモに頼んで、彼と同じ時間を共有したかった。短い間でも彼を独り占めしたいと思った。
 しかし、そのときは遠慮してしまう心がきさらぎを押しとどめた。自分の都合で彼に迷惑をかけてはいけないと思ったのだ。
 そんなこと気にする必要なんてなかったのに。
 他の4人のママたちはツクモに気負うことなく接しているのに、自分は1人で作りたくもない壁を勝手に作っている――――
 そんな気がして、少し悲しくなった。

 ふと、爽やかに笑うツクモの顔が、鮮やかな輝きを纏って脳裏をよぎる。

「あっ……」

 急にきさらぎの胸に、切なくなるような、押しつぶされるような圧力がのしかかった。
 同時にきゅん、と自分の奥まった部分が疼く。成熟した女性なら誰もが持つ性的衝動。
 目や肩は疲れているのに、下半身がぼうと熱を帯び始めている。

「……ん……」

 全身を駆けめくる甘い痺れをはっきりと感じつつ、足の付け根を内股にこすりつけるようにもぞもぞと動かしてみる。
 しばしベッドの上であれこれ体勢を変えて、触れるか触れないかの微妙な刺激に酔いしれる。
 きさらぎの内部は焦れらされるような摩擦に満足せず、さらに深い官能を求めてじんじん疼いていた。

「ツクモ……くん……」

 渇いた唇を舐めて湿らせ、舌の上でその名を転がしてみる。
 包み込む優しさと、どんな苦境も乗り越える力強さ、それなのにどこか脆い部分を持ち合わせた不思議な少年。
 天涯孤独の自分たちの息子。
 しかし、この家に来てから数ヶ月。恋愛経験のまったくないきさらぎはいつしか彼のことを息子として見れなくなっていた。

(ツクモくん……)

 初めは自分と同じように家族を失った彼に同情しているのだと思っていた。
 けど、気付かないうちに人を寄せ付けなかった自分の心にツクモはするりと入り込んできていた。
 彼のことを考えるだけで胸が苦しい。彼の嬉しそうな顔を見るだけで自然と頬がゆるんだ。
 自分はもう心の底から笑う事なんてできないと思っていたのに。
 それが恋なのだと気付いたのは、きさらぎがツクモの家に来てずいぶん経ってからのことだ。

「は…ン…」

 きさらぎは股の間に腕をぎゅっと挟み込むようにして悶え、さざ波のような快楽に身体をくねらせる。頭に白いもやがかかっているかのようだ。
 シーツはもう、くしゃくしゃになっていた。間接的な接触では足りなくなってきている。
 きさらぎはぴったりフィットしている黒いパンストに手を潜り込ませ、
お気に入りのショーツの上から縦割れのくぼみをゆっくりとなぞり、隠された丘を手のひらで包みこむようにして揉みしだく。

「ン……っ……」

 ショーツ越しの愛撫に秘所はじっとり汗ばんでいた。下着の中が蒸れる不快感と身体を浸す恍惚感がまぜこぜになる。

(ほんの……少しだけ……)

 物足りなくなったきさらぎはパンストを太ももまでずらすとショーツの中に手を突っ込み、淡い草むらを掻き分け熱くなった秘唇に触れてみた。

(やだ……っ、私……濡れて……)

 そこはすでに泉から溢れ出す愛液で潤っていた。焦るようにショーツを押し下げる。
 トイレで排泄するときのようにパンストとショーツがずり降ろされ、白い太ももと形のよいヒップが露わになる。
 肌の白さの中で映えるピンク色の肉襞は、濡れ光って淫猥にその口を広げていた。

(最近……してなかったから……)

 きさらぎは口に指を含み唾液で浸すと、滑りやすくなった指でシュッとクレヴァスを撫で下ろす。
 少し遅れるようにしてチュクッと奥から透明な粘液が染み出してきた。

「………ん…んぅ」

 ひとさし指で肉びらをかき回すになぞり、肉壁を押し開いて膣へずぶずぶ埋没させていく。
 少しずつ埋まっていく指を確かめるかのように、きさらぎの目元を綺麗に縁取る長い睫毛(まつげ)が、ふるふると震える。
 久しく性器としての役割を果たしていなかったヴァギナは、待ちわびていた刺激に歓喜のよだれを垂らした。
 指を中程まで挿入すると指をくっと曲げて、内側を掻き乱すようにくにくにと蠢かせる。
 膣からとろとろ溢れる蜜がきさらぎの指を、手を濡らしていく。

「っん…、あふぅ……」

 少しづつ荒くなってゆく息づかい。指の腹で秘裂を縦にこすり、包皮から顔を覗かせているクリトリスに愛液を塗りつけ、人差し指と中指でキュッと摘んだ。

「ァあっ!」

 びくっ、ときさらぎの身体が跳ねた。電流のような刺激に一瞬頭が真っ白になる。
 半脱ぎになった下半身がしっとり桜色に色付く様は、自分の目から見てもエロティックだ。
 いつからこんな風に自分を慰めるようになったのだろう――――
 それまできさらぎはほとんどオナニーをしたことはなかった。
 ときおり夜眠る前、火照った身体を静めるため、太ももの間に毛布を強く挟んで圧迫感に悶えるくらいだった。
 怖くてクリトリスなんていじったこともなかった。

 だが、自分がツクモに恋をしているのだと気付いてから、きさらぎの頭の中は日に日にツクモのことで占領されていった。
 ツクモに触れたい。ツクモに触れて欲しい。
 すぐ近くにいるのに何もできない自分がもどかしく、長年抑圧されていた性衝動を解放するかのようにきさらぎは毎晩のごとく自慰に耽った。
 暇があったらパンツの中に手を潜らせ、指がふやけるまで秘所を弄り通した。
 そうでもしないと、胸の内の空虚さを癒すことはできなかったから。
 今夜は……指だけでは、足りない。ツクモが欲しい。ツクモの新鮮で生きのいいペニスを受け入れたい。
 熱く脈打つ肉棒をこの身に突き立て熱い精液を力一杯注ぎ込んで欲しい。
 はっきり言ってしまおう。きさらぎはツクモに犯されることを望んでいた。

アぅン………」

 いったんきさらぎは指を動かすのをやめ、愛液で濡れるのも構わずショーツをはき直し、自分の部屋から出た。
 すぐにきさらぎは部屋に戻ってきた。その手には男物のトランクスが握られている。
 洗濯機から持ち出してきた洗う前のツクモのトランクスだ。
 再びベッドにうつぶせに倒れ込むと、顔にトランクスを押しつけて犬のように鼻をひくつかせ、その匂いを嗅いだ。
 洗濯機の中で染みついた女物の下着の匂いとは別に、若々しい汗臭さが残っていた。
 トランクスを裏返すと、おそるおそる普段ツクモの性器が当たるであろう布地に舌を伸ばし舐めてみる。
 別段何かの味が残っていると言うこともなかったけど、ツクモのペニスを想像しながら舐めるトランクスは少し塩辛い気がした。

(ああ……私、ツクモくんのパンツの……匂いをかいで……おチン×ンの当たる部分を舐めたりして……まるで変態みたい……!)

 頭ではいやらしい変態的行為だとわかっている。しかし、身体を突き動かす衝動を押さえる術はなかった。
 義理の息子に欲情する背徳的な刺激に、全身が激しく脈打つ。
 自分は猫のように発情してしまったのかもしれない。ツクモの下着をよだれでべたべたと汚し、指でくちゅくちゅと蜜壺をかき混ぜ愛液を溢れさせている。

 トランクスの一端を口に含みながら、挿入する指を二本に増やした。
 人差し指と中指を蜜壺の中で擦り合わせるように愛液をかき混ぜ、
熱くなった秘唇にずぷずぷ出し入れさせる。
 指の動きに加え、腰もうねり始める。前後に動く体に合わせて、ベッドのスプリングがぎしぎし揺れた。
 熱い。焦がれる。ツクモツクモツクモツクモツクモツクモ―――
 自分がこんなことをしてるなんて知ったら彼はどんな顔をするだろう?軽蔑して二度と話してくれなくなるだろうか。
 それとも、自分のことを哀れんでこの火照りを静めてくれるだろうか。

(ツクモくんなら……きっと……こんなふうに……っ)

 ずちゅっ、ちゅっ、ずちゅ、ぬちゅっ。

 ツクモが自分の秘所をいじくる様を想像しながら指のバイブレーションの速度を上げていく。
 淫猥な水音があふれ、染み出した愛液は太ももまで垂れて汗とともに黒のパンストを肌に張り付かせていた。

「ああっ……ダメッ……!」

 ガクガクと膝を震わせ、めくるめく官能の渦にきさらぎは甘い呻きをあげた。





 さて、きさらぎの部屋から数枚の壁を隔て、時計の針が小刻みに時を刻む以外冷たい静寂が支配している室内。
 ママたちが寝静まった頃を見計らって動き出すひとつの影があった。

「トイレ、トイレっと……」

 このSSの主人公、ツクモである。
 いつも着ている寝間着の上に毛布を引っかけ、ウサギを模したスリッパを履きぺたぺたと暗い廊下を歩いている。

「さすがにこの時間は冷えるな…」

 ひんやりと張りつめた空気が布団から抜けだした身体にある種の緊張感を促す。
 ツクモは決して用を足すためにトイレに行くのではないのだ。
 一文字むつきを初めとするこよみ学園の教師たちが『ママ』として白露家に来て以来、
ツクモが生活するに当たってどうしても避けられない問題があった。
 ママたちが部屋を占領してしまったためにツクモは自分の部屋を持たず、居間のソファで寝泊まりしている状態である。
 したがってツクモにはプライベートな空間というものがない。
 つまり、だ。ツクモは溜まってしまった性的欲求を自分で処理するスペースがないのだ。

 なんだそんなこと、と軽く見ることなかれ。

 これは精神的にも肉体的にも重要かつ深刻な問題である。ただでさえ、妙齢の女性たちと同居している身だ。
 物干しを見れば色鮮やかなブラジャーやショーツが風にはためいているし、
 風呂に入ろうとしてバスタオル姿のママと遭遇することもある。そのうえ、ママたちはツクモを本当の子供のように扱い、
抱きしめるわ、添い寝するわ、ツクモが入浴中に風呂に入ってきて背中を流すわで、
ツクモはいつ暴発してしまうかわかったものではない。これでも健全な高校三年生なのに。
 風呂にさえ入ってくるママたちに対して、ツクモが一人で安心して孤独な作業に打ち込める場所は唯一トイレだけ。
 便器に腰掛け、昼間見たママたちの肢体を思い浮かべながら手淫して、
トイレットペーパーで手に付いた白濁液を拭き取るのはかなり情けないとも思うが、これも平和な家庭を守るためである。

(今日は誰にしようかな…。こないだはさつきママのお尻でしたし、やよいママの胸はもう何回もしたしな)

 いつもはママたちを欲情の目で見ないように自制しているが、このときばかりは別である。
 妄想の中でママたちの身体に触れ、奉仕させ、熱い肉棒で貫き思う存分よがらせてやるのだ。
 ツクモは自分の家にやってきたママたちを愛するとともに人間としても尊敬していた。
 そのママたちを使ってオナニーしてしまうという背徳感たっぷりの行為が、よりいっそうの興奮をあたえてくれる。
 家の中でも吐く息が白いほど寒いのに、すでにパンツの中は微妙な発熱を催していた。


   ………っ……は………


「―――ん?」

 きさらぎの部屋の前を通りかかったときだ。かすかに中から声が聞こえたような気がした。

(きさらぎママ、まだ起きてるのかな?)

 気になったツクモは少しだけドアを開け、そっと中を覗いてみる。そこには―――

「!!?」

 一瞬、ツクモは我が目を疑った。

「あはァ…んっ、ン、んふっ、あンっ…」

 カーテンが引かれ外からの灯りが届かない薄暗い部屋の中。白く飾り気のない質素なベッドの上。

(きさらぎママ…?!)

 いつもの黒ナース姿で犬のように四つんばいになって尻を持ち上げ、
黒のパンティストッキングと意外に可愛らしいピンクのショーツを太ももまでずりおろし、
右腕を両脚で挟み込むようにして自分の秘所をまさぐる、きさらぎがいた。

 ちゅく、ちゅぷ、くちゅ、ちゅ、ちゅぷ……

 ちょうどツクモの位置からは、白くて丸いお尻をわずかに揺らしながらひとさし指と中指が秘肉を押し分けぬめったクレヴァスの中で蠢く様が丸見えだった。
 きさらぎはツクモが見たこともないような上気した顔をシーツに突っ伏しくねくねと体を動かして悶えている。
 てらてらと濡れ輝く指がちゅぷちゅぷと淫猥な音を立て、クレヴァスの中心に没して引き抜くピストン運動を繰り返していた。
 指と肉ひだが繰り広げる摩擦でシーツの上にとろりと垂れた白っぽい粘液がポツポツと染みを作る。
 ぬるぬる染み出す愛液を潤滑油にして綺麗なピンク色の亀裂を上下に擦り、
挿入した指でぐりぐりと内壁をかきまわし一定のリズムを持って息を吐き出す。

「はぁ…はぁっ、ふっ、んっ、あぅン…」

 そのたびに小さなお尻がびくっ、びくっと震えた。
 ツクモはドアの隙間から息を呑んでその光景を見ている。

 ――まずい。早くドアを閉めてなにも見なかったことにしてベッド代わりにしている居間のソファに戻らなければ。
このことは胸の奥にしまって、暖かい布団でぐっすり眠って、明日きさらぎに会ったら、なに食わぬ顔で「おはよう」って言ってやればいい。
 頭ではそう理解しているのに、ツクモはどうしてもきさらぎの痴態から目を逸らすことができなかった。
 高まってきているのか、きさらぎの肌はほんのりとピンク色に染まり、左手は服の上から乳房を揉みしだき、
口元からはだらしなくよだれを垂らしている。
 目を閉じて、顔を歪ませ喘ぐその表情は『母親』でもなく『教師』でもなく、ツクモが初めて見るきさらぎの『女』の貌(かお)だった。

「はぁッ、ンあっ……ツクモくん……っ」

 電流が走ったようにツクモの身体がびくりと震える。

(見つかった!?)

 いや、違う。
 きさらぎの目はツクモではなく、しわになったシーツの上に載せられた一枚の写真に向けられていた。
 その写真には五人の水着姿の女性と、中央で幸せそうに微笑む少年が写っている。

(あの写真は…去年の夏の…)

「ツクモくん、あっ、ツクモくん……あっ、はぁッ…ツクモクン、んんッ!」

 切なげな声を上げてきさらぎはツクモの名前を連呼している。
 その名を呼ぶごとに背筋をピンと伸ばし、お尻を突き出し、身体を前後に揺らして、
濡れそぼった秘唇に細い指をさながら後ろからの体位で突かれているかのように強弱を加えながら突き込んでいる。

(きさらぎママ…ぼくのことを考えながらオナニーしてるんだ……!)

 ツクモはきさらぎが自分と同じようにして自慰にふけていたことに衝撃を受けていた。
 ママたちを敬愛するあまり、彼女たちも性欲を持つ生身の女性であることを失念していたのだ。
 おそらく、きさらぎは自分の指をツクモの剛直に見立てて貫かれることを想像し秘部をかき回しているのだろう。

 ダメだ。ここにいては自分の中でなにかが終わってしまう…!

 ゆっくりと、きさらぎに気付かれないように。ツクモはドアを閉めてその場を離れようとする。
 が、冷気で完全に感覚のなくなった足は思い通りに動かず、うかつにも床の軋む音を立ててしまった。

「誰……!?」

 ばっときさらぎは顔を上げて、ドア越しに声をかけてきた。

(ああ、ドジっ!……くっ、出るしかないか……)

 一瞬の逡巡のあと、ツクモはおそるおそるドアを開いた。

「ツクモクン……」

 すまなげに立っているツクモを見てもきさらぎは別段驚いたような様子もなく、
いつもの深い静かな瞳で見つめていたた。すでに衣服の乱れは整えられている。

「ごめん、中から声が聞こえたから、つい…」
「ずっと……見ていたんですか……?」

 囁くような声はツクモのことを非難している含みもなく、純然たる問いかけであった。

「……うん。で、でも気にしなくていいよ。別にきさらぎママがそういうコトしてても変じゃないと思うし」

 ツクモはきさらぎと目を合わせることが出来ず、心持ち視線を上向きにして口早に言った。

「それじゃ、もう遅いから寝るよ。おやすみ…」
「待って!」

 慌てて部屋を出ようとするツクモにきさらぎが制止の声を上げた。

「あ、大丈夫だよ。今のことは絶対に誰にも言わないから」
「……そうじゃなくて……今日は……い、一緒に寝ませんか……?」

 胸の奥にためこんだ勇気を振り絞るように言って、きさらぎは陶磁のように白い頬を赤く染める。

「ツクモクンの身体……寒そうに震えています……。そのままだと……風邪を引いてしまいますから……」

 きさらぎの言う通り、身体が冷え切っていることは確かだ。ずっと寒い廊下で突っ立っていたのだから。
 かじかんだ指がまともに動かないのも無理はない。きさらぎの誘いは耐え難い誘惑と言えた。
 だが、いいのか?きさらぎは気にならないのだろうか。息子とはいえ、つい今ままで自慰していた部屋に男を連れ込むなど―――

「っくしゅ!」

 考えているうちにくしゃみが出た。背筋がゾクゾクする。指だけではなく腕にまで冷気が浸透し、
流れる血液まで冷たくなっているようだ。そういえば少し熱っぽいような気もする。
 きさらぎが「ほら、言わないことじゃない」というような顔をしている。
 迷うまでもなく、これから居間に戻ってソファの冷えた布団で眠るのは避けたかった。

「そうだね。じゃあ、一緒に寝よっか」

 ツクモは緊張しながら、きさらぎの部屋に入った。





 きさらぎのベッドは二人で寝るにはせまく、ツクモはきさらぎの身体に密着しなければならなかった。

「きさらぎママ、着替えなくていいの?」

 何故かパジャマに着替えず黒ナース姿のままのきさらぎに聞く。

「今日は……これでいいんです……」

 肩に肩が触れ合う無防備な距離。
 すぐ目の前には短い髪を手櫛で直したきさらぎの濡れたような瞳がカーテンから漏れる明かりを反射して柔らかく輝いている。
 寒さと緊張で身を縮こませたツクモは、はやる動悸を押さえようと努力していた。

(さっき、このベッドできさらぎママ…その…してたんだよな…)

 ベッドには甘酸っぱいきさらぎの匂いが残っていて、ツクモは眠るどころかますます目がさえてしまう。
 不意に、

「ツクモくん……ごめんなさい……」
「え?」

 疑問の声を上げる間もなく、ツクモの唇にいきなりきさらぎが唇を押しつけてきた。

「んむぅ?!……むぐ、ん…っ」

 口移しに錠剤のようなものが送り込まれ、きさらぎの舌が後押ししてツクモはそれを飲み込んでしまう。
 きさらぎはそのまま舌を絡めてきた。ツクモの口を犯すように執拗に攻める。
 木琴を奏でるかのごとく歯をひとつひとつなぞり、頬の内側を舐め上げ、唾液を混ぜ合わせるように舌を回転させる。
 きさらぎの舌は弾けるように熱く、甘かった。
 ちゅくちゅくとお互いの舌がこすれ合い、唾液でツクモの口の中が白く泡立つ。
 舌と舌の間に透明な糸を引いて、ツクモはきさらぎから顔を離した。

「き、き…さらぎママ…何を飲ませ…うあっ」

 とたん全身を激しい痺れが襲う。仰向けになったまま、ツクモは指一本動かすことが出来なくなった。
 と、同時にトランクスを押し上げ痛いくらいに自分の性器がそそり立つのを感じた。
 睾丸が自分の意志とは関係なく精液をどばどば製造し、海綿体が強制的に硬質化させられているかのようだ。

「身体の自由を奪う代わりに……性感を増幅させる……超即効性のお薬です……」

 頬を赤らめうっとりとした顔できさらぎは言う。

「なんで…こんな事を……」

 どうにか口だけは動く。動かない首のかわりに目だけを動かすと、
布団から起きあがったきさらぎは熱っぽい目でツクモの身体を舐めるように見ていた。

「ごめんなさい……でも、私……どうしてもキミのすべてが……知りたいんです……」



 Private Room 〜その2へ続く〜




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