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ハッピー★レッスンVSおねがいティチャー 世界が停滞する日

第1話 「最優先事項でお茶しましょ」







 ちゅ、ちゅう、ちゅる…じゅっ、ちゅぷ、ちゅっ、ちゅるる…

(………ん?)

 布団の中、ツクモは微かに鼓膜を震わせる囁くような水音で目覚めた。
 瞼の裏に感じる薄明かりと、鼻孔に流れ込むすがすがしい空気が朝の訪れを知らせる。
 うっすら目を開けると、そこは見慣れた居間の天井ではなかった。

(……そっか、昨日はやよいママの部屋で……)

 ツクモの脳裏にゆるやかに昨夜一緒に過ごしたやよいの温もりや甘い吐息がよみがえってくる。
白魚のような指、豊満な乳房、濡れた唇、そして―――自分を受け入れる熱く濡れそぼった秘唇。
それは湿り気を帯びていて、きつく、甘美で、自分の脈動に合わせて蠢く最高の器官だった。
 孤独と寒さ震えていた夜と比べれば、どれほど濃密で満ち足りた時間であったろう。

 決して一人ではない夜。そんな生活が当たり前になってから、すでに2ヶ月が経とうとしていた。
 長い間、家族との生活がどういうものか記憶の片隅に置き去りにしていたツクモの元に
押し掛けるようにして住み着いた5人の自称『ママ』たち。
 初めは慣れない共同生活に戸惑いを隠せなかった彼だが、今ではママたちに感謝しつつその幸せを享受している。
 もっとも教師と一生徒の間柄でしかなかった彼女たちと、これほどまでに親密な関係になるなんて考えてもいなかったが―――

 ちゅぷ、ちゅる、ちゅっ、ちゅっ。

 次第に身体が活動するため体内エンジンに火が入る。まどろみの中から抜け出そうと全細胞がアクセルをふかす。
 水音はまだ続いていた。それと同時に、布団による温もりとは違った熱っぽさが下半身に集まっていることに気付く。

(なんか…アレが暖かい…?)

 とたん、意識が集中する。跳ね起きるようにして身体を起こし、視線を下に降ろしてみる。

「――――はうっ!?」

 何となく予想はついていたけど―――やよいがツクモのペニスにしゃぶりついていた。
 男根に白い指が絡みついて、赤い唇が音を立てて滑り、黒い瞳が濡れたように輝く。
 寝間着にしている白い浴衣に赤い帯という色っぽい姿で、ツクモのパジャマのズボンを脱がし、
脚の脇に肘をついて頬の内側で擦るようにして肉棒をもてあそんでいる。

「あら、お目覚め?」

 からかいを含んだ笑みを口に浮かべ、やよいはツクモの顔を艶っぽい視線で見つめながらペニスを裏筋に沿って舐めあげた。
 ぬめる舌が青筋の浮いた肉棒に、心地よい温度と粘性を持った唾液を塗りつける。
 頭を動かす動作で、黒くつややかな髪が睾丸や太ももにかかり毛先がこそばゆかった。

「なッ、な……っ!…………何してるの……っ?」

 寝起きであることと、もっとも弱い部分を握られているため、ツクモは非情に情けない声をあげた。
 いつもしっかりしているように見えるやよいだが、こと寝起きに関してはだらしがない。
 毎朝「あと5分〜」とか言いながら、むつきに起こされるまで布団の中で安眠を貪っているのだ。
 それが、今日は信じられないくらいに早起きして、ツクモのペニスを吸っている。
 朝起きたばかりのなんの備えもない状態の性器を口に含まれ、ツクモは全身が弛緩していくような感触を味わっていた。
 頭は目覚めきっていないのに、感覚は鋭敏になっている。夜の間に補給された精液が根本から吸い上げられていくようだ。

「だって、いっつもツクモクンだけ私の寝顔見てずるいじゃない?たまには私がツクモクンの寝顔を見ようって思って早起きしたら……」

 言いつつ、ちゅっと亀頭にキスをすると、ひとさし指と中指で傘のあたりを強く挟んで、敏感な場所であるくびれをゴシゴシと擦る。

「うっ、くあっ!」

 亀頭を根本から揺らす痛みにも似たダイレクトな刺激に、ツクモの背はのけぞる。
 指先だけで強い反応を示す少年にやよいは深い満足感を覚えた。

「ツクモクンのコレ、すっごく元気なんだもの。夕べだって私の中に何回も何回も出したくせに……」

 少し責めているような口調に、昨夜自分のモノがやよいに締め付けられる感触をリアルに思い出されてツクモは顔を赤らめた。
 数えてみれば、昨日はやよいの口に2回、膣に4回出している。それなのにまた勃っている。自分の身体ながら無節操だと思う。
 うっとりした顔でやよいはツクモのペニスを見つめて、ふーっと息を吹きかけた。とたんツクモの背の産毛がぞわっと逆立ち、身体中の力が抜けていく。

「こんなにパンパンにして……。ねぇ、出したいんでしょ?」
「う…うん…」

 囁くような声に、子供じみた仕草でうなずく。今、完全にツクモの支配権はやよいが握っていた。

「いいのよ…。ママのお口に出しても……ツクモクンのミルク、ママにいっぱい飲ませてね♪」

 妖艶な笑みを浮かべ、再びツクモのペニスがやよいの口の中に埋もれていく。
 亀頭や幹に軽く歯を当てたりしながら、ペニスの形状を確かめるように舌を絡ませ先走りを吸い、
やよいの舌は熱くいきどおった少年の肉茎を蹂躙していく。

「ちゅっ。んっ、ふっ。ンふ、んっ…」

 傘のくびれの部分に舌を割り込ませ悪戯っぽく内側を掻き出すように舌を一周させる。恥垢もカスも溜まっていなかったが、
肉棒の他の部位よりも少し塩辛い気がした。
 ツクモの弱いところを知り尽くしたやよいの口内愛撫は絶妙で、口自体が性器であるかのような錯覚を覚えるほどである。
 まさに天にも昇る心地よさだ。

「ァ、あァ…う…ぁ…っ!」
(ん、ふっ…んっ…ツクモクンの切ない声を聞いているだけで…濡れてきちゃう…)

 ツクモの喘ぐ声を聞きながら、やよいの秘芯もじんじんと熱くうずき始めていた。やよいにとっても少年が気持ちよさそうに呻く様は、なにより甘い快楽だった。
 小鳥のさえずりのように甘美に耳を打ち、媚薬のように身体を芯からとろけさせる。もっと少年の喘ぐ声が聞きたいと思う。
 少しサドっ気を起こして唇で亀頭をついばみ、ぎゅうっと引っ張りあげてみた。
 傘の部分を引っこ抜くように2,3回ペニスを伸び縮みさせて苛めてやると、少年はぴくっ、ぴくっと腰を動かし痛みと快楽の入り交じった声をあげる。

(ツクモクン、かわいい……うふふっ)

 少しばかり痛みを与えた後、今度はいたわるように太ももを優しくさすりながら陰嚢に手を伸ばした。手で包み込むようにして揉みしだいてみる。
 マッサージしているような手つきに、睾丸がするするっと手の中を滑るように移動する。
 一度口から肉棒を離し、左手で陰嚢を揉み込みながら右手の親指をカリに沿わせ、他の4本の指でペニスの上側を握りしめた。
 亀頭をツクモの腹に押しつけるようにぐいぐい押して、先走りに乗せて親指の平で尿道口を縦の線に沿って刺激する。
 陰嚢と竿を同時に攻められ、ツクモは性感帯を通して脳が揺さぶられるような感覚を覚えた。

「うふふ……こうしていると、本当に牛乳を搾り取ってるみたい」

 しゅっ、しゅっ、しゅっ。

 手の動きを加速させ性器全体を激しくバイブレーションさせる。わなわなと睾丸が収縮し、ひくひくと口を開け閉めさせる先端から
一滴の先走りがツクモのへその下にたらりと落ちる。

「このままツクモクンのお腹に出しちゃおうかしら?……ふふっ、冗談よ。そんな顔しないで」

 しゅっと指先で先端をひとなでして、尿道口に溜まった淫液の雫を決壊させる。白い指がねちゃりと透明な糸を引いた。

「一滴もこぼさずママが飲んであげるから……」

 苦笑を浮かべつつ、やよいがまたペニスを口の中に入れる。
 どうやら自分はやよいが飲んでくれないと聞いて、ものすごく残念そうな顔をしていたらしい。

 じゅっ、じゅる、チュう、ちゅルる。

 頬の内側をすぼめ、頭を前後に揺らすようにしてペニスの中程を唇で愛撫し、尿道口を舌先でくりくりと擦り上げる。

「やっぱり、目が覚めるとお汁の出が良くなるわね〜…ちゅっ、ん、ン……」
「くっ…、ぐ…ぅ!」

 意識せずしてツクモの口から声が漏れてしまう。
 今度は舌を使って重点的にカリの辺りを攻めてきた。両手で肉棒をつかんで固定し、亀頭と裏筋の細いつなぎ目に沿わせて
舌をぴちゃぴちゃと音が鳴るほど活発に上下させる。唾液がやよいの口の端から垂れて、たまらなくエロチックだ。
 やよいの口内に広がる先走りの味に、じょじょに苦みが深まってきた。ツクモはそろそろ限界に近いらしい。

(だめ…っ、出ちゃう……!)

 下腹部からはげしい射精感がせり上がってきた。頭の中に放出のイメージが焼き付くほど鮮烈に広がる。
 しかし、ツクモが達する寸前、やよいは突然ペニスからちゅぽんと口を離してしまった。

「あ…どうして…?」

 大好きなオモチャを取り上げられた子供のような顔をするツクモに、やよいは妖しく微笑む。

「うふふ、まだイッちゃだめよ。ちゃんとママにお願いしてご覧なさい」
「お、お願い?」
「そう、『ママのお口でボクのおチンチンをじゅぽじゅぽ吸ってください』って、おねだりするの。……簡単でしょ?」

 そう言って、今にも達しそうな亀頭を人差し指で押さえて、からかうように竿をグリグリと回転させる。
 熱に浮かされたような頭でツクモは息を呑んだ。こう見えても、やよいはなかなかの悪戯好きだ。
 ツクモが言わなければ、本当に生殺しのままにするだろう。

 抗う術なんてあるわけがなかった。

「やよいママの……」
「私の?」

 意地の悪い笑みを浮かべ、やよいは聞き返してくる。

「やよいママの…お、お口で……」
「私のお口で?」

 羞恥心で顔が真っ赤になるのが自分でもわかる。しかし、ここでやめられたら、と思う恐怖が恥じらいを上回った。


「……ボクのおチンチンを……じゅぽじゅぽ吸ってください……」


「それじゃダ〜メ。もっと大きな声で言ってごらんなさい」

 からかわれている、と思う。わかってはいるのだが、全主導権を握られているツクモは言わざるを得ない。

「ボクのおチンチンをじゅぽじゅぽ吸ってください…」
「聞こえな〜い。もう一回」
「ママのお口でボクのおチンチンをじゅぽじゅぽ吸ってください!」
「はい、あともう一息」

 やよいは亀頭に触れるか触れないかのところで舌をチロチロと動かす。
 プライドと倫理観が音を立ててボロボロと崩れていく。ただ、やよいの口でイきたい。それしか考えられない。
 激しく高鳴る鼓動に合わせ息を吸い込んで、言った。



「やよいママのお口でボクのおチンチンをじゅぽじゅぽ吸ってください!!!」



 言ってしまった。
 恥ずかしさで顔から火が出そうになる。
 耳たぶが燃えるように熱い。
 ちらりと上目使いにやよいの目を見る。

「いけないコ……他のママたちに聞こえたらどうするの?そんな悪い子にはママ、してあげません」

 やよいはつんと顔を逸らし、ペニスから手を離してしまった。

「えっ?だって……やよいママがそうしろって……」

 困惑したツクモはすがるような眼差しでやよいを見た。
 どうしたのだろう。何か間違ったことをしてしまったのだろうか。じわっと焦燥感が胸の内に広がっていく。
 やよいはしばらくツクモと目を合わせようとしなかったが、

「うふふ…っ、ゴメンなさいね。ツクモクンがあんまりかわいいからイジワルしたくなったの」

 と、柔らかく微笑みかけて、

「ツクモクンのエッチなお汁、ママが全部飲・ん・で・あ・げ・る(はぁと)」

 ぴくぴく反りかえるペニスを喉に突き込むような勢いで一気に呑み込んだ。
 ストローを吸うように先走りを強く吸い上げ、舌で尿道口からカリにかけて何度も何度も撫で下ろす。
 今度はいっさい手加減するつもりはないらしい。
 唇で痛いくらいに傘の内側を挟み込み、大木を鋸(のこぎり)で引くように上下の唇を交互に動かし執拗に擦りつける。
 真空パックするかのごとく強く吸引し、本当に空気と粘液でじゅぽじゅぽ音がしそうなくらい激しく頭を前後に動かす。
 ぬめぬめとした液体でてら光りする肉棒が、やよいの口内に消えては現れ、消えては現れを繰り返す。

 焦らされ続けたペニスは歓喜に打ち震えた。

「んっ!んッ!ふっ!」

 乱れた髪が、潤んだ瞳が、ねっとりと糸引く柔らかな感触が高みへと導く。
 息も荒く口淫奉仕をするやよいの顔は、こんなときまで美しかった。咥えることで興奮しているのか、やよいの頬も色っぽく朱がさしている。
 ちゅるんと唇が傘の内側を滑り、舌が先端を往復して、溢れるごとく分泌されるカウパー氏腺液を次から次へと舐め取る。
 舐められ、吸われ、咥えられ、熱くなったペニスがビクッと跳ねた。いまにも引き金を引いてしまいそう。
 頭の中はもう真っ白だ。ツクモの手がシーツを握りしめた。

「あっ、あっ……………出る!出るよっ!」
「ンっ、んふっ、ん!出してぇ……ママのお口にどろどろ濃いの、いっぱい飲ませてっ!」

 ぶるぶると背筋に震えがはしる。
 ばちん、とツクモの中で何かが弾けた。
 精巣から精液の充満した尿道がはぜ、真っ白な噴出がやよいの口内にほとばし―――



「やよいちゃん、ツクモちゃん、おっぱよ〜〜〜ん!!」



 ―――る寸前に、ドアを開き、跳ね周りそうなくらいとびっきりに明るい声が耳の中に飛び込んできた。

 ツインテールの美少女―――本当は美女って言うべき年齢なんだけど、どうみても高校生くらいにしか見えない―――
うづきはやよいの部屋を見渡して大きな瞳をくりくりと動かした。

「あれぇ?まだ、二人ともおねんねしてるのぉ?」
「起きてる起きてる」

 やよいと共に布団を覆い被さったツクモが手だけで答える。うづきの側からはツクモたちの身体は布団で見えない。
 下半身丸出しのツクモと、慌てて布団の中に飛び込んだやよいが見つかったらどエライことになる。

「むつきちゃんが朝ご飯できたから二人とも呼んできて、だってぇ」
「ごめん、すぐに行くから先に行ってて」

 寝たままの姿勢で手を挙げてツクモが返事をする。

「うん!みんなもう来てるからツクモちゃんたちも早く来てね〜」

 陽光の中でも輝くような笑顔残し、うづきはぱたんとドアを閉めた。

 ―――大丈夫。気付かれていない。

 のそのそとツクモは布団の中から這い出る。時計を見ればもう7時半過ぎだ。
 達する寸前だったペニスはまだ直立しているものの、驚かされて中断されたため射精寸前の勢いはない。

「残念、朝ご飯の前にツクモクンのミルクが飲みたかったのに〜」

 ほうと溜息をついて、後ろ髪を軽く手で梳きながらやよいが起きあがる。すでに髪や衣服の乱れは整えられ、
口の周りに付着していた唾液や先走りは拭き取られていた。

 気勢を削がれ、なんとなしに二人、視線が重なる。

「……朝ご飯、食べましょうか?」





『いただきまーす!』

 食卓に並ぶ目覚ましい料理の品々に五唱和音が鳴り響く。

「今日のお味噌汁はしじみ貝とわかめにしてみました」

「あ〜〜!さつきちゃん、うづきのウインナー取ったぁ〜〜〜っ!」

「しじみに含まれるアラニンとグルタミンは……酵素を活性化させるため……肝臓に効果的です……」

「むつきさん、お茶っ葉ときゅうす取ってくれない?」

「いいじゃねぇか、一本くらい!ほら、変わりにニンジンやるからさ」

「あ、はい。今朝は緑茶にしますか?それともほうじ茶?」

「ニンジン、いらないよ〜〜」

「ダメよ、うづきさん。ちゃんと野菜も食べないと」

「むつき、オレ、ほうじ茶が飲みたいっ」

「今日の降水確率は……0パーセント……いいお天気です……」

 白露家の食卓はいつも賑やかだ。妙齢の女性が5人もいれば、姦しさも1,5倍以上に跳ね上がる。

「ん、どうしたツクモ?元気ないぞ。風邪か?」

 さつきが箸を休めて、テーブルに身を乗り出しツクモの顔を覗き込んだ。
 今日の彼女は黒のキャミソールの上にYシャツを引っ掛けただけの姿―――まあ、つまりはアニメ版の方の格好―――なので
 胸の谷間が視界いっぱいにズームイン!ツクモはさりげなく目を逸らさなければならなかった。

「大変!また倒れたりでもしたら……」

 と、側に寄ったむつきがツクモの額と自分のおでこに手を伸ばして熱を比べる。

「……ん……熱は……ないみたいですね」

 何気ない仕草なんだけど、柔らかくて優しい手に、エプロンドレスの裾から覗く白い二の腕に、ちょっとドキドキしてしまう。

「元気が出るお薬……うちますか?」

 注射器片手にきさらぎが言う。心配してくれるのは嬉しいけど、きさらぎママ、元気が出るお薬っていったいなんですか?

「ううん、昨日ちょっとよく眠れなかっただけだから。心配しないで」

 答えてツクモはやよいの煎れてくれたほうじ茶に口を付ける。こうやってママたちから心配されるのはなかなか嬉しかったりするのだが、
ときにそれがエスカレートしてしまうとこちらの身が持たないことをツクモは知っていた。

「……眠れないようでしたら……このお薬を……」

 きさらぎはテーブルの下からゴルフボールくらいの錠剤の詰まったビンを取り出し、どんと置いた。(何故か用意してあったらしい)
青い液体にひたされ中いっぱいに丸い錠剤の入ったそのビンは、薬品と言うより梅干しを漬けているような印象が強い。

「きさらぎママ、また怪しい物体を……」

 飲んだらそのまま永遠に目覚めないんじゃないだろうか。
 毒リンゴでも見るような胡乱げな目でビンを見ていると、うづきが突然思いだしたかのように言った。

「そういえばうづき〜、昨日の1時過ぎくらいにおトイレ行くときぃ、やよいちゃんの部屋の前通ったら何か声が聞こえたような……」

 何してるか気になってぇ、もし遊んでるんだったら一緒に混ぜてもらおうと思ったけど、
眠かったからすぐお部屋に戻って寝ちゃったのぉ〜と付け加えた。
 この人はときどきこうやってなんの脈絡のない話を始めます。

「ツクモさん、そんな遅くまでやよいさんと二人で何してたんですか」

 むっ、とした顔でむつきが問う。メガネの奥で嫉妬がきらりと剣呑な光を発している。

「それは〜…え〜と……」
「まさか、おまえら二人でエッチなことしてたんじゃないだろうなぁ」

 冗談交じりに言ってさつきがあっはっはっと笑う。冗談ではなくて事実は全くもってその通りなのだけれど。
 ツクモの顔が面白いくらいに青ざめてゆく。

 ど う 誤 魔 化 せ ば い い ん だ 。

「昨日はやよいママと腰が痛くなるまでセックスしてて6回射精しました」なんて言えるわけがないし。
 ツクモはウソが付くのが苦手だった。おまけに女性にはてんで弱いときている。
 むつきに問いつめられ、さつきにからかわれ答えに窮しているとやよいが助け船を出してくれた。

「さつきさんったら。そんなわけないじゃない。ツクモクンがよく眠れるように私が子守歌を歌ってあげてたのよ」

(うわぁ、やよいママ全く顔色変えずに……)

 こういう事態には女の方が強いらしい。ナチュラルな表情で涼しげにウソをつくやよいが、ツクモにはちょっぴり怖かったりする。

「まぁ…ふふっ、やよいさん優しいんですね」

 にっこり笑って疑いもせずにあっさり信じてしまうむつき。本当にいい人だよなぁ。

「よーし!今度一緒に寝るときはオレも子守歌を歌ってやろうかな。ねぇむれぇ〜 ねぇむれぇ〜 寝ないと目ん玉ー ほじくぅるよー♪」

 さつきは子守歌らしからぬ歌を楽しげに歌っていた。





 全員が朝食を食べ終えると食器の片付け、戸締まりとガス栓の確認のあとそれぞれ登校となる。

「やよいママ、あの……」

 家を出ようと赤いヒールに足を入れたやよいに、声をかけた。
 ツクモとママたちは全員で一緒に学校に行くと他の生徒などに怪しまれるので、微妙に時間をずらして家から出る。今朝はツクモとやよいがしんがりで鍵閉め当番だ。

「さっきの続きなんだけど……」

 恥ずかしそうに切り出すツクモに、やよいはすまなさそうにぽんと手のひらを合わせる。

「ごめんなさい、今日は2年生の健康診断があるから、保健室使えないのよ。今日一日は我慢してくれる?」
「ええっ、出してくれないの?」

 ローテーションをくんでそれぞれのママの部屋に日替わりで寝ているツクモにとって
自宅で欲望を吐き出すチャンスはトイレかやよいと一緒に寝る日だけだ。やよいの部屋に寝泊まりするのは来週のことになる。
 これではあまりにつらいので、急に性的欲求がつのったときには保健室を使ってやよいにしてもらうこともあったが、
今日がダメだとなると早くても明日学校に来るまでツクモは射精する機会がない。
 トイレでのオナニーは「もったいない」と言う理由でやよいに禁止されているのだった。

「…………」
「我慢できないの?もうっ…、しょうがないコね」

 無言のまま立ちすくしていると、困ったような笑みを浮かべやよいはしょぼくれた顔したツクモの耳元にそっと囁く。

「放課後、神社で待ってるから…………」

 こみ上げてくる嬉しさと艶っぽい吐息が耳にかかって、ツクモはまた勃ってしまった。





「ツクモクン、おはようっ!」
「ふみつき、おはよ〜〜〜」

 教室に入ったツクモに、クラス委員長の七転ふみつきが声をかけてきた。

「今日も眠そうな顔してるわね?」

「朝は弱いんだよ」 と、答えてしょぼついた目を擦る。
 ふみつきとツクモの席は隣同士で窓際の一番後ろだ。
 二人で一緒に席に着くと、ふみつきはさりげなく周囲を見渡して近くに他の生徒がいないことを確認して小声で言った。

「―――先生たちと夜遅くまで不潔なコトしてたんじゃないの?」
「いっ!?」
「な〜んて、そんなわけないわよね〜」
「あ、当たり前だろっ」

 一瞬ヒヤッとしたが冗談だったらしい。
 彼女とはツクモがこの学校に転校してきて以来、友達以上、恋人未満の仲を保っている。
 ふみつきは思いこんだらとことん突っ走るタイプで、人に言えない秘密を持っているツクモにたいして一時はストーカーまがいのことをしていたこともある。
 その甲斐あって、というわけではないが、ふみつきにママたちとの同居がバレてしまい一悶着あったが、
ツクモの誠意の説得により一応は同居を黙認してくれることになった。今ではクラスでツクモたちの同居生活を知る唯一の理解者である。

「まったく、お母さんがほしいんだったらツクモクン、私の家の養子になればいいじゃない」
「えっ?ふみつき、それって……」

 何気ない一言のつもりだったが、全くの悪意のない視線にふみつきの顔が一瞬にして紅葉する。

「かかか勘違いしないでよね!別に私とけけけ結婚してほしいとか、そういうことじゃなくて……」

 何か笑っとるようにも聞こえる。

「それじゃ、義兄妹になれってこと?」
「でもなくて!あの、その、」

 ふみつきは言葉に詰まって意味もなくぱたぱたと手を動かしてから、

「ただ一緒に住めたら私も先生たちみたいにツクモクンと一緒の布団で眠ったり、
お風呂に入って背中流してあげたりできてうれしいかな〜って思っただけで……って、女の子に何言わせるのよ!バカぁっ!」
「じ、自分から言ったんじゃないかっ!」

 言い返していつものパターンで顔を真っ赤にしたふみつきと、他愛もない口喧嘩が始まる。
毎朝のように繰り返される慣れ親しんだ風景。それを心の底でとても楽しんでいる自分がいるのにツクモは少し驚いていた。

(いいよな……こういうの)

 家族がいて、友達がいて、当たり前のことが当たり前に起こる日々が楽しくて楽しくてしょうがなかった。ほんの数ヶ月前までは想像もしていなかったことだ。
 赤くなって怒る顔が可愛らしく、可笑しくて、ツクモはふみつきにバレないよう窓の方を向いて苦笑した。
 窓から射し込む光は限りなく透明で、6月の空は青く、果てしなく続いている。

 夏はもう、すぐそこまで来ていた。





 さて、ツクモが見上げる空のはるかむこう。無限に広がる大宇宙―――
 一度使ってみたかったんだよなぁ。このフレーズ。では、改めまして……

 無限に広がる大宇宙。ありとあらゆる可能性が存在し、現在も膨張し続ける星々の海。
 いくら知的生命体が発生しうる条件が希少とはいえ、この宇宙はあまりに広大である。
 暗黒の荒野を舞台にいくつもの文明が生まれ、そして滅びていった。
 しかし、そうした幾万、幾億もの想いを飲み込んだ興亡も、この大宇宙の営みに比べればほんの一瞬の瞬きに過ぎないのだ。

 銀河連盟は、“大戦”と呼ばれたはるか長い宇宙戦争の末に創設された、二百余りの惑星からなる銀河系最大の統合組織である。
 各惑星から選ばれた代表者たちで議会を開き、厳しい試験を合格した様々な分野のエキスパートたちが集い国家を越えた問題にあたっている。

 その至上とする目的は、銀河の秩序維持と安定。

 戦争こそが文明を発達させる。血で血を洗う争いの中、発展と革新を繰り返した人々の技術力は
ひとたび戦争が起これば一つの星系を軽く消し飛ばすことができるほどの兵器を作り出すまでに達した。
 もし、ふたたび惑星間での戦争が起これば、幾つもの星が黒い海の藻屑と化し、銀河文明全体に及ぶ深刻な被害をもたらす可能性がある。

 それゆえに銀河連盟は銀河の平穏を保持するため、あらゆることに尽力してきた。
 アカデミーによる技術管理、凶悪兵器の封印と廃棄、微にいり細を穿った惑星間におけるミリタリーバランスの徹底した調整。
 その成果により、ここ数百年は大きな火種もなく銀河は概ね平和である。

 そうした彼らの試みの一つに、“辺境惑星の監視”があった。まだ宇宙に進出する前の文明を監察し、
未成熟な生命体が他の惑星に影響を与えるほどの技術を持たないか、またその使い方を誤って自滅したりしないかと目を光らせているのだ。
 また、早い段階での異星人との接触により独自の文化の成長を妨げぬよう異文明と交流しえる時期を慎重に見定めることも目的である。

 うむ、SFっぽい説明でたいへんよろしい。





 衛星軌道上。地球のあらゆる観測機器にも捕らえられない偽装フィールドに身を包んだ一隻の宇宙船があった。

「あれが地球…。お父さんの生まれた惑星(ほし)…」

 ブリッジに立ち、正面のスクリーン越しに青の溢れる惑星を瞳に写し、銀河連盟所属・惑星駐在監視員、風見(かざみ)みずほは感慨深げにつぶやいた。
 地球年齢で言えば23歳くらいか。やや垂れがちな目と、ぽってりした唇。腰まである艶やかな髪をストレートに垂らし、
腕と肩を露出したレオタードを思わせるぴったり身体にフィットした黒いボディスーツを着込んでいる。
 少し童顔のきらいがあるが、ボディスーツを押し上げる胸は肩幅ほどもあってつんと上向きに形の良い丘陵を描き、
一条の深い谷間をたたえている。小振りのメロンかと思うほどグラマラスだ。
 腰のくびれや肉付きのいい太腿もそれはそれは見事なもので、
顔立ちは日本人に近いものなのに、出るところはロケットのように飛び出て、締まるところはキュッと引き締まっている黄金のプロポーションだ。

「こんなに綺麗だなんて、思わなかった…青くて眩しいくらい…」

 好奇心と駐在監視員としての使命感を同居させた瞳には、わずかばかり涙が浮かんでいた。この日のためにみずほは血のにじむような努力をしてきた。
 みずほの父・風見志郎はみずほが幼い頃、宇宙放射線病にかかって他界している。
 志郎はその名の通り地球人だ。有人火星探査船のクルーだった彼は事故にあって探査機ごと宇宙を漂流していたところを
銀河連盟の所属の宇宙船に保護され、そこでみずほの母と出会い、恋に落ちた。そして生まれたのがみずほである。
 みずほは父の生まれ故郷を知りたくて、父が感じていたことを自分も感じたいと思って、
駐在監視員の資格を取るために勉強一筋に打ち込んできた。忙しさの余り、恋愛してる暇もなかった。
 その苦労も実り、みずほはトップクラスの成績を取り続け、最年少で連盟の駐在監視員の免許を取得した。
 そして地球行きの許可も降りて、ついに夢にまで見た蒼い惑星の土を踏むときが来たのである。

「予定ではそろそろ降下を始めなければいけない時間ね…。でも、もう少しだけここで、あの水に溢れる星を見ていたい…」

 これから自分はあの惑星(ほし)で人々と交じり合い暮らしていくことになる。どんな人と出会えるだろう?
 あの美しい星で、どんな出来事が自分を待ち受けているのか。みずほの胸は期待と不安で高鳴った。



 ズガガガガガガガガガガガガガガガがががががががッッッ!!!



 静寂は突然の衝撃と耳をつんざく轟音に打ち破られた。
 物思いに耽っていたみずほは思いっきり体勢を崩し、悲鳴を上げて床に転ぶ。
 モニターのそこかかしこに銀河汎用語で、地球の英語で言うところのEMERGENCYの文字が赤く踊る。

「まりえっ!?何があったの!?」

 船の制御システムに声をかけ、慌てて立ち上がったみずほの目の前に次々と平面モニターが展開され船体の状況を知らせる。

「後部に高質量体が衝突…?航法システムにエラー、メインエンジンに異常!?うそっ!?どうしてこんな近くに来るまで気付かなかったの!?」

 みずほの指がピアニストのように動き、それぞれのモニターに映し出された情報を流し読みにする。
 モニターに映された船体図によると、衝突した物体はフィールドを突き破って船体に食い込み、
運動エネルギーを譲渡された船は慣性に流されさっきまでいた位置から大きく移動していた。

「隔壁3番と23番を閉鎖!航法システムをグリーンから緊急モードに切り替えて!」

 そうこうしているうちにスクリーンの青がどんどん面積を広げている。
 今の衝撃で後ろから押された船体が、地球の重力に足を捕まれ引きずり込まれようとしているのだ。

「現地の人たちに見つかったら大騒ぎよ!まりえ、ステルスレベルを最大に上げながら、人気のない不時着できる場所を探して!最優先事項よ!」

 衝撃に備えスクリーンに耐熱シャッターが降ろされる。
 演算ユニットが大気圏突入時の軌道をすさまじいスピードで割り出し、機体のダメージが最小になるよう突入角度を修正。
 何度も訓練させられていたため、毎朝服を着替えるかのような自然な動作で銀河連盟から支給されているスペーススーツを着込むことができた。

(せっかく地球に着たのに、事故でなんか死ねないもの……)

 みずほはぎゅっと唇を閉めると、衝撃に備え身体をベルトに巻き付けシートに固定する。
 とたんに横殴りの衝撃が打ちつけ船体が大きくきしんだ。目を閉じて、衝撃で失神しないよう強く拳を握った。



 大気との摩擦で赤い炎を上げながら宇宙船は加速していく。

 銀河の、辺境の、地球の、島国の、師走町に向かって。





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