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君に再会(あ)えて良かった。
作・SSカキング
俺が愛と再会したのは、雨の日曜日のことだった。
その日、俺は宿題を片付けるため、町の図書館まで資料を借りに出かけていた。
いつも俺の行くところにくっついてくる結亜はあいにくの雨天に加え、苦手な図書館ということもあって家でおとなしくしていた。
帰路についたあたりからだんだんと激しさを増してきた雨に、俺もそうしたほうが賢明だったかと思いつつ本を濡らさないよう駆け出した。
ばしゃばしゃっばしゃっ
俺の歩調に合わせて足元がリズミカルに鳴る。
もう少し余裕があればそいつを楽しむことも出来たかもしれないが、今はただうっとうしいだけだ。
ついには前傾姿勢になって、足元だけを確認しながら歩かざるをえなくなってしまった。
幸い、勝手知った地元である。そんな不自然な体勢でも問題なく自宅前へと辿り着いた。
その時。
極端に狭まった視界の先に、女性の脚が映りこんだ。
その脚のラインに導かれるようにして視線を上げると、そこに彼女がいた。
土砂降りの雨のなか傘も差さず、雨に濡れるのも構わずにじっと俺の部屋を見つめている。
その横顔に俺は心の中で、何かがほどけていくのを感じた。
俺は彼女を知っている。
この横顔を。
きりりとした目元を。
その感覚が心の中でどんどんと膨らんでいって、疑惑は確信に変わった。
「愛………」
はじける様な感覚とともに、俺の心を戒めていた何かが音を立てて砕け散った。
そして俺は完全に思い出していた。
この孤独な魔法戦士との、短いけど濃密な共に過ごした時間を。
「!!」
俺の呼びかけに振り向いた愛の顔にまず浮かんだのは、信じられないという表情だった。
次いでそれは狼狽に変わり、そして泣き笑いの表情になったかと思うと、彼女はさっと身を翻す。
「待てよ。」
その手首を、俺は迷わず掴んでいた。
「…………………」
「…………………」
ガタタッ。
時が凍りついたように重苦しい沈黙は、俺が取り落とした傘が風に飛ばされる音で破られた。
「そんな格好じゃ風邪ひくだろ。俺の部屋に寄っていけよ。」
強引に愛の手を引く。
彼女が本気になればそんなものなど簡単に振り払われてしまうだろう。
けれども、まるで魂が抜けたかのように彼女は何の抵抗もせずに引っ張られるまま、俺の自宅の玄関をくぐった。
シュンシュンと音を立ててヤカンの湯が沸騰する。
俺は愛をまず風呂に入れてやることにした。
彼女の体は冷え切っていて、あのままでは本当に風邪を引いていただろう。
もっとも、異界の戦士が人間と同じように風邪を引くとしたらの話だが。
そしてその間、俺は愛に何か温かいものを飲ませてやろうと、台所でお湯を沸かしていた。
愛はまた過酷な任務についているのだろうか。彼女の表情に滲み出ていた疲労の色を見る限り、その可能性は高いだろう。
愛に再会できたことは嬉しいが、そう考えると素直に喜ぶことは出来ない。
ガチャ、バタン。
と、風呂場の扉が開く音がしたので、俺は用意しておいたタオルを持って脱衣所に向かった。
「愛、ここにタオルと替えの服置いと…く…か……ら…?」
俺は脱衣所から出てきた愛と危うく鉢合わせしそうになる。
そのとき何気なく見てしまった彼女の裸身に、俺は言葉を失っていた。
なぜなら、彼女の腹部は傍目にも分かるほどに膨らんでいたから。
「あ、ごめん。」
俺は慌てて手に持った物を置いて後ろを向く。
「見たの?」
その背中に、愛が問い掛けた。
「ああ。」
「そう……」
「あ、そうだ。温かい飲み物入れるからさ、早く着替えて来いよ。
そのままだと、湯冷めするぞ。」
愛の寂しげな声に、俺はわざと明るい声をあげた。
「聞きたくないの?」
「話したくないことなら、別に無理して話さなくてもいいよ。」
反射的に答えてから、慌てて付け加える。
「あ、でも、悩みってのは話したほうがすっきりするかもよ。」
「…ありがと。」
背中側で見られなかったが、俺の格好悪い受け答えに愛は少し和んだように思えた。
少しして、俺は愛を部屋のベッドに腰掛けさせた。
俺が入れたレモン漬け蜂蜜のお湯割のマグカップを、愛は大事そうに両手で持ちながら中身をすする。
その様子を見ながら、俺は愛のお腹に視線が向いてしまうのを止められなかった。
今、彼女は俺のTシャツとジーンズを身に着けている。
その服装だと、彼女の腹が膨らんでいる、いや、妊娠しているのだろう、その様子がよく見えた。
コトリ。
やがて、マグカップの中身を飲み終えた愛は俺から視線を外しながら訥々と語り始めた。
「あのね、秋俊。
私もう戦士じゃないの。」
愛が妊娠していることに気付いたのは、異界に戻ってしばらくした後だった。
彼女の体調がすぐれないのに気付いためぐさんの検査で発覚したのだという。
異界の上層部は彼女に堕胎を迫った。
なぜならば、彼女は戦士だから。彼女は戦士として異界に貢献してきた。
それは裏を返せば戦士でなくなれば、異界にとって彼女の存在価値は無いということだ。
そして、妊婦は戦士たりえない。
ならば彼女に堕胎を迫るのは、上層部としては当然の判断であったといえる。
だが、愛はそれを拒否した。
一つには、自分がまだ生命を宿せる体であったことが嬉しかったからということがあった。
過酷な任務の連続で傷付いた彼女は、自分は妊娠することなど出来ないと思っていた。
それだけになんとしても産みたいという気持ちを押さえることが出来なかった。
そして、もう一つ。
「俺が………父親なんだな。」
はっきりと言った訳ではない。だが、愛の言葉の端々からそんなニュアンスが読み取れた。
はたして、愛はコクリと肯く。
あの時。俺が愛と結ばれたあの時。俺は避妊に気をつけて外で出したつもりだった。
だが、抜くのが僅かばかり遅れたのだろう。一部が彼女の中に放たれ、受精し、着床した。
それはどれほどの確率だったのだろう。いっそ奇跡とも言えるほどの僅かなものだったに違いない。
だが、その奇跡のおかげで俺は彼女と再会できた。
「ごめん、秋俊。 あなたに迷惑かけるつもりは無かったの。
ただ、戦士としての任務を放棄してこっちに逃げてきたとき、無性にあなたの顔が見たくなって……」
最後は嗚咽となっていた。
「じゃ……」
言って立ち上がる愛を、俺は抱きしめていた。
「秋俊?」
驚いたような愛の声。俺は構わずに唇を重ねる。
「むむっ」
強く、強く抱きしめる。ここで離してしまったら、二度と会えない気がした。
愛がそのまま消えてしまうような、そんな恐怖感に駆られて俺は彼女の唇をすう。
「ぷはっ。
あ、秋俊?」
戸惑ったような声をあげる彼女を、俺はもう一度強く抱きしめた。
「愛、どこか行くあてでもあるのか?」
「…………」
案の定、沈黙する彼女。
「一人で産むつもりだったんだな?」
「………………うん。」
俺はいったん手を緩めて、彼女の顔を正面から覗き込んだ。
「俺じゃ、頼りにならないか。」
「だって、秋俊に迷惑かけられないから……」
愛は頬を上気させながら答える。
「馬鹿だな。迷惑だなんて思うわけが無いだろ。」
「秋俊…そう言うと思った。
秋俊は関係ないことなのに。
だから……だから……」
ついに、その瞳からぽろぽろと涙がこぼれ出した。
俺はそっと、それを拭ってやる。
「秋俊?」
その瞳は迷いに揺れているように俺には見えた。その迷いを拭い去るため、俺は覚悟を決めた。
「愛。関係無い訳が無いだろう。
だって、俺たちの子供の事なんだぜ。」
「秋俊……」
「なぁ、俺じゃ頼りないかもしれないけど、一人で産むよりかはましだろ。」
「……………………」
「愛?」
「…いいの?」
「え?」
「秋俊は……いいの?私で。
こんな…こんな私なんかで。」
俺は返事の代わりに愛をベッドに押し倒した。
「きゃっ。」
Tシャツを捲り上げると、小ぶりだが形のいい双丘があらわになる。
「当たり前のことを聞くなよ。」
そう言って、愛の乳首をつまむ。
「ひゃんっ。」
「愛のここ、こんなに固くなってる。」
愛の乳首はぴんと尖って、それをつまむ俺の指に心地よい弾力を感じさせてくれる。
「だって、だって、秋俊の……」
「俺の?」
「秋俊の服着てるから。
秋俊の匂いに包まれて、優しくされて、私……」
顔を真っ赤にさせて答える愛の、その言葉といじらしさに俺は心からの愛おしさを感じる。
「愛。
もう離さない。」
「秋俊ぃ………
えっ、えぐっ、ぐすっ。」
再び嗚咽をはじめた愛の唇に優しくキスをする。
「ん、くちゅ。」
今度は愛も積極的に舌を絡めてきた。
クチャ、クチャ、クチャ
お互いの全てを貪りあう様な貪欲なキス。それは、愛の中にあった迷いが吹っ切れた証なのだろう。
「あひとひぃ。ん、クチュ。」
俺は愛の舌を舐め上げながら、同時に乳首を愛撫する。
「あふっ、あふはぁ。」
切羽詰ったような切ない喘ぎが、キスの合間にもれる。
「あ…い?」
「あぁぁぁぁぁ」
その声音に、愛が限界に近付きつつあることが分かった。
俺の腕の中で甘えた声を出す彼女が可愛らしくて、俺はついいたずら心を出してその乳首を軽くはじいた。
「ひゃふぅ。」
途端に愛の体がぴくりと震え、そして脱力した。
「イったの?」
愛は黙って俺の胸に顔を埋めてうなずいた。その背中に手を回すと、彼女もまた俺にしがみついてきた。
愛の吐息が、鼓動が俺のそれと区別つかないほどに密着して聞こえる。
いや、もしかしたら、俺たちは一つの存在になってしまったのかもしれない。そんな幸せな幻想さえ感じられた。
どれだけそうしていただろう。
呼吸を落ち着かせた愛が、俺を上目遣いに見上げる。
「ねえ、秋俊。
最後までシテくれる……かな?」
顔を真っ赤にして照れながらではあったが、その瞳には真摯なものがあった。
「…いいのか?」
「うん。だって、秋俊と一つになりたいから。
それとも……」
愛がそれ以上言う前に、俺は再びTシャツを捲り上げた。
「あっ。」
そのままバンザイをさせながら脱がしてやる。
「秋俊ぃ。」
そして、下も同じように優しく脱がす。
露になった愛の裸身は、前に見たときよりも丸みを増したようであった。
「私の体、やっぱり変かな。」
膨らんだ腹をかばうような体勢で愛がポツリとつぶやく。
「そんなこと無いさ。」
「本当?」
「その証拠に、ほら。」言いながら、手早く服を脱ぐ。
「愛の裸を見てこんなに興奮してる。」
「……もう。」
少し怒ったような、拗ねたようなそんな声音で文句を言って、愛は視線を逸らした。
「でも、嬉しい。」
はにかむ彼女のアソコに手を伸ばす。
「あっ。」
「もう濡れてる。」
「だって、だって……」
ニチャ、ニチャ、ニチャ
「あぁん、あはっ、ああ……」
軽く愛撫しただけで、愛は切ない喘ぎ声をあげはじめる。
「愛は相変わらず感じやすいな。」
「だってぇ、だってぇ。秋俊にシテもらってるんだもの。
ねぇ、秋俊。」
「何?」
「指じゃ嫌。
秋俊ので、秋俊のあったかいのでイキたいの。」
「愛…」
俺は愛の求めに応えるため、彼女を横向きに寝かせた。
「秋俊?」
「この体勢ならお腹に負担がかからないって聞いたから。」
そう言って、俺は愛のアソコに自分のモノをあてがった。
「愛。いくよ。」
「うん。きて。」
ヌジュ
音を立てて、愛は俺を受け入れた。
「うくっ。」
「あぁぁ……」
愛のそこはまるで搾り取るかのように俺のモノを奥へと導いていく。
「秋俊…き・気持ち良い?」
「あ、ああ。すげぇ、きつくて気持ち良いよ。」
「良かっ……た。」
「愛は?」
「私も、凄く…
まだ、動かしちゃだめぇ。」
ヌジョ
俺は軽くピストンしただけなのに、それだけで愛は絶頂を迎えたらしい。
「あぁ…」
「愛?」
「凄いの。秋俊が気持ち良すぎて。」
「大丈夫か?」
「うん。ごめんね。
もう大丈夫だから。」
そう言ってこちらに伸ばしてきた右手を、俺はぎゅっと掴んだ。
「じゃ、動くよ。」
「うん。」
愛もまた、俺の手を握り返してくる。
ヌチュ、ネチョ、ニチュ
俺はゆっくりと、愛を気遣いながら動き出した。
「あっ、凄いあきとしのっ……」
それでも愛は華奢な体を仰け反らせて悶える。
「愛っ。愛っ。」
「こんな、前よりもじゅっと、じゅっとひもちひひぃぃぃ。
あひとしぃぃぃぃ」
呂律すら怪しくなりながら、それでも必死に俺を求める愛。
ジュプッッッジュプッ
何度か軽くイッたのだろう、時折彼女の体がぴくぴくと震え、そのたびに俺のモノがキュッと締め付けられる。
「愛。俺、もう。」
「うん…き……て……
私の……なか、あきとしを…ちょうだい」
愛のその一言に、俺は限界に達していた。
ドプッ、ドプッ
「うぅ、」
「あぁ、入ってきてる。
秋俊が、秋俊がいっぱい。」
「愛……」
満足気な吐息をもらす愛に寄り添う。
「嬉しい……」
愛の幸せに満ちたその呟きに、俺もまた満たされていくのを感じた。
「秋俊?まだ起きてる?」
「ああ。何。」
「何でも無いの……
ただ……」
(……ただ幸せすぎて眠れない。)
「俺もそうだよ。
愛。ありがとう。」
「え?」
「俺に出会ってくれて。
そして、また会いに来てくれて。」
「そんな……」
「明日、みんなに愛のことどう説明しようか。」
「秋俊……」
(私も、私もあなたにあえて良かった……)
愛の小さな呟きを聞きながら、俺は眠りに落ちていった。
…………………こうして、俺と愛との奇妙で楽しい共同生活が始まった。
君に再会(あ)えて良かった。 〜FIN〜
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