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125 :例えばこんな愛し方・1:2006/04/05(水) 02:17:49 ID:TxCZEPZZ
 算盤を弾く音が室内に響く。時々ペンの走る音も聞こえ、それが止むと再び算盤を弾く音がする。
 規則的な二つの音を奏でながら、まゆらは会計帳簿と睨めっこをしていた。
 毎月毎月、膨大な予算不足に悩まされていたが、ここ最近は予算に余裕が出来た。
 特に隠密に関しては、ほとんど支出がなく、寧ろ謝礼を貰うような仕事が続いていて、まゆらは上機嫌だった。
 理由は簡単な事で、隠密の統括である久遠と付き合いだしたからだ。
 遊撃とは比べ物にならないような金額を許可も無く使用していた頃が懐かしく感じるくらい、久遠の態度は変わった。
 何か大きな仕事の前には、きちんとまゆらに相談するようになった。
 始めは訝しげにしていた他のメンバーも、今ではそれを手本とするように、予算に対して模範的になった。
 会計としては、これほど嬉しい事はない。
「…よし、これで今月も予算足りそうね…」
 一通りの計算を終えて、まゆらはペンを置いた。
 二月ももう終わる。このままいけば、残った多くの予算を来月に回す事が出来そうだ。
 もう一度帳簿を見直してから、まゆらはそれを金庫に戻した。
 もう夜も遅い。後はお風呂に入って寝るだけだが、ここで問題が起きる。
「…それにしても、久遠さん、お風呂長過ぎ…」
 ちらりと浴室の方に視線を向ける。
 久遠が浴室に向かってからもう三十分近くが経過している。
 これも最近の習慣のようなものだった。
 二人が付き合いだしてから、久遠は頻繁にまゆらの部屋に泊まりにきている。
 最初こそ戸惑いがあったが、今では一緒にいない方が不自然に感じるほど、まゆらは久遠と過ごす時間を嬉しく思っていた。
 幅のないシングルベッドで二人で寝る事にも慣れてきたが、久遠の入浴時間の長さにはどうにも慣れない。
 日々、美容に関して久遠は人一倍の努力をしているのは知っているが、あまりに長いと何かあったのかと不安になる。
 初めて久遠がこの部屋の浴室を使用した時は、約一時間も出てこない久遠を心配して思わずドアを開けてしまったほどだ。
 単なる取り越し苦労だと分かっている今でさえ、まゆらは心配になってしまう。
 何時までも出て来ないと落ち着かない。まゆらは椅子から立ち上がり、静かな浴室に向かった。
 浴室の扉を開けて、洗面所に入ると、お風呂場の扉が見えてくる。
 曇り硝子の向こう側はぼやけていてよく見えないが、静かな空間に響く微かな水音が、まゆらの聴覚を刺激した。
 扉の前に立ち、軽く拳を握るような手でその扉を叩いた。
「久遠さーん、まだ掛かりますかー?」
 声を掛けると、中からエコーがかった声で返事が返された。
「ええ、もう少し…。どうしたんですの?」
「あ、その、私もそろそろ寝たいんで…」
 時間にしてみれば、それほど深夜と言う時間帯ではないが、ここ最近寝不足が続き、まゆらは少し疲れていた。
 その原因は、この扉の中にいる人物なのだが。
 たまには早く寝て、ゆっくり身体を癒したいと思っていた。
 しかし、相手が悪すぎた。
 急かせば久遠がすぐに出てくれると思ったのだろう、まゆらは完全に油断をしていた。

「でしたら御一緒しませんこと?」

 久遠のその言葉に、まゆらが絶句したのは言うまでもない。

 

126 :例えばこんな愛し方・2:2006/04/05(水) 02:19:48 ID:TxCZEPZZ


「…自室の浴室で、タオルを巻いて身体を隠す人、初めて見ましたわ」
 バスタブの温かいお湯に浸かっている久遠は、濡れた髪を掻き上げながら呆れた様に言った。
「誰だって隠すと思いますけど…」
 一人で使うなら兎も角、大浴場のように他の人もいる時は誰でも身体を隠すだろう。
 いくら女同士と言っても、恥ずかしいものは恥ずかしい。
「別に今更隠す必要もないんじゃなくて?」
 まゆらは柔らかいスポンジをボディソープで泡立たせた。
 久遠から完全に背を向けて、大事な部分を見られないようにゆっくりとバスタオルを脱いでいく。
「まゆらさんの裸なんて、もう見慣れましてよ?」
「ちょ、久遠さん!は、恥ずかしい事言わないで下さいよ!」
 腕を洗いながら、まゆらは顔を赤らめながら叫んだ。
 早く寝たいと思って、久遠の提案を呑んだ事に、まゆらは早くも後悔していた。
 シャワーで泡を落としながら、まゆらは横目で久遠を見つめる。
 すると、今までずっと見られていたのだろうか、久遠とバッチリ目が合ってしまった。
「っ!」
 急に恥ずかしくなり、まゆらは視線を反らし、再び正面を見た。
 背中からクスリと笑い声が聞こえて、まゆらは益々顔を紅潮させる。
 久遠に見られている事が、堪らなく恥ずかしい。
 久遠の言うとおり、互いの裸は見慣れているけど、こんなに明るい場所で見られる事は初めてだったから。
 恥ずかしがりやのまゆらは、夜に身体を重ねる時も、部屋の明かりを消してとせがんでいたくらいだ。

 髪も身体も何とか洗い終えたまゆらは悩んでいた。
 自室ではいつもシャワーだけ浴びてすぐに出るが、今夜は状況が違う。
 久遠が未だに浴槽にいるのに、先に出るのは問題があるような気がしたからだ。
 背中を向けていた久遠を振り返ると、気分が良いのか、鼻歌を歌っていた。
 身体を洗っている内に出る事を期待していたが、どうやら久遠はまだ上がる気はないようだった。
 やがてまゆらの視線に気付いた久遠は、悪戯に微笑んだ。
「どうしたんですの、まゆらさん?身体が冷えてしまいますわよ」
「え、あ、あの…やっぱり…一緒に入らなきゃ駄目…ですよね?」
「当然ですわね。じゃないと、どうして一緒に入ったのか分かりませんわ」
 そう言って優しく微笑む久遠。
 その笑顔に何度も騙されてきたまゆらは警戒するが、このままうじうじしていたら風邪を引いてしまう。
 まゆらは覚悟を決めて、片足をお湯に浸けた。
「…変な事、しないで下さいよ?」
「えぇ、約束しますわ」
 久遠の言葉に半信半疑になりながらも、まゆらは恐る恐る足を湯船に入れ始めた。
 バスタブに背を預ける久遠の前に陣取るように、背中を向けてゆっくりと浸かっていく。
 伸び伸びと身体を解放している久遠とは対照的に、まゆらは膝を抱えて体育座りのような姿勢になった。
 お湯加減はちょうどよく、少し冷えていたまゆらの身体を温めてくれた。

 
127 :例えばこんな愛し方・3:2006/04/05(水) 02:21:29 ID:TxCZEPZZ

 二人は何かを話す訳でもなく、ゆったりとした気分で入浴していた。
 温かいお湯に包まれて、まゆらの警戒心が解き掛けた時、久遠はまゆらの足の間に手を伸ばした。
 透明な水に揺らめく久遠の手に気付くと、まゆらは慌てて身じろいだ。
「ちょ、久遠さん!?」
 反射的に振り向くと、まゆらの目の前に露わになった美しく豊かな久遠の双丘があった。
「!」
 咄嗟に視線を正面に戻すが、紅くなった顔までもを隠す余裕はなかった。
「あら、まゆらさん。どうしたんですの?」
 つい、と身を寄せると、まゆらは背中に当たる二つの危険な感触を感じた。
「や、止めて下さいよ、久遠さん!お、お風呂でそんな事…」
「そんな事って、どんな事ですの?」
 言いながら久遠は手を更に伸ばし、まゆらの太腿に触れる。
 透き通ったお湯の中を動く白い手がまゆらの視界に入り、マッサージをするように太腿を揉みしだかれているのが分かった。
「…やっ、く、おんさ…」
 呼ばれた久遠は、紅く染まるまゆらの耳の裏をちろっと舐めて囁いた。
「そんな事ってどんな事ですの?まゆらさん」
 分かっているくせに、まゆらに直接言わせたいのだろう。
 それを分かっていても、まゆらは何も言えずに久遠の舌の動きに身を縮めて耐えようとする。
 久遠は耳朶を甘く噛み、舌で舐め上げ、息をふっと噴くと、まゆらの身体が震えたのに気付いた。
 なおも懸命に耐えようとするまゆらに愛おしげな眼差しを向けながら、久遠は動きを止めようとはしない。
 滑々の肌に指を這わせて中心に近づけ、太腿の付け根を軽く揉む。
 空いたもう一方の手も反対側の付け根に添えるように固定して、少し足を開かせる。
「ひゃっ!ちょ、久遠さん!な、何っ…」
 慌てて閉じようとするも、内側に柔らかく押されて、痺れるような感覚が背中を走り、まゆらは動けなくなる。
「っぁ…ん…!」
 身体の中心が熱く疼く。
 抵抗の無くなったまゆらの足をゆっくりと開かせる久遠。
 そしてその秘裂を人差し指で優しく撫でると、まゆらの口許から甘い声が漏れた。
「はぁっ…ん…」
「いつもながら可愛いですわ、まゆらさん」
 恥丘の感触を楽しむように、ゆっくりと指の腹を往復させる。
 まゆらの身体がピクンと反応する度に、小さな水飛沫が上がる。
「あ…んっ、はぁ…」
 力の入らなくなった身体を久遠に預けて、まゆらは息を荒げていた。
「くお、さん…ん…へ、変な事…しないって言ったじゃ…ないです、かぁ…」
「別に変ではありませんわよ。恋人同士の嗜みですもの」
 取って付けた様な理由を述べて、まゆらの抗議を阻んだ。
 つまりは、最初からこうする事を企んでいたのだろう。
 この人、絶対、絶対、確信犯だ!
 前にも同じ様な事があったのに、どうして自分は学習能力がないのだろう。
 軽い自己嫌悪に陥りながら、まゆらは諦めて久遠の手に身を委ねた。

 
128 :例えばこんな愛し方・4:2006/04/05(水) 02:22:37 ID:TxCZEPZZ

「ん…あ…」
 浴室に響く自分の嬌声に恥ずかしさを感じても、これ以上抑える自信はない。
 少しでも俯くと、久遠の手が自分の急所を嬲っている景色が、透明なお湯によって全部見えてしまう。
 その為に、まゆらは視点を定められず、白い湯煙を目で追うしかなかった。
「はぁ…は…ん…」
「気持ちいい?まゆらさん…」
「…ぁ…ん…」
 緩やかな快感は、まゆらの身体を徐々に蝕んでいく。
 けれど、素直に頷くのも癪に障り、ただ久遠の行為を受け入れるだけだった。
 そんなまゆらの態度を面白がってか、久遠は割れ目をなぞるだけで、それ以上の事はしてこない。
 少しずつ快楽を積み重ねていても、決定的な快感がなく、まゆらはもどかしさに苛まれる。
 指の動きをそのままに、久遠は顔をまゆらに寄せて、桜色の頬に口唇を触れさせた。
 僅かに熱を発する頬を舌先で擽り、小さな水滴をそっと舐め取った。
 肌をなぞる久遠の舌に、咽喉の渇きを覚えたまゆらは、ゆっくりと後ろを振り返る。
「んっ…」
「…ん…ん…」
 まゆらが振り向くと、久遠は大して驚きもせずに口唇を奪った。
 頬を撫でていた舌で口唇を割ると、既に入り口で待機していたまゆらのそれと絡み合った。
「っん、く…ふぅ…」
「んぁ…は…あ…ん…」
 舌同士を触れ合わせ、口内に溜まる互いの唾液を掻き交ぜながら、何度も顔の角度を変えて深く口付け合う。
 淫靡な水音を、浴室中に響かせ、二人の欲情が煽られる。
 二人の口から零れる唾液が湯船に滴り落ちる事に気にも留めず、ただ互いの口唇を貪り合った。
「んぁ、ん…っん…」
 重なる吐息と声にまゆらの理性も鈍くなり、淫裂を撫でる久遠の指に腰を僅かに押し付けた。
「…ん…どうして欲しいんですの?」
 まゆらの動きに気付き、思わず口角を上げる久遠。
 意地悪な質問だ。どうして欲しいかなんて、きっとまゆらよりも分かっているはずなのに。
「…言って、まゆらさん…。どうして欲しい?」
 割れ目をなぞる指で、膣口を優しく引っ掻いた。
「ん、くぅっ…さ…触って…くだ、さい…」
「もう触ってますわよ?」
「そ…じゃ、なく、て…!」
「ふふふ…冗談ですわ」
 瞳を潤わせて懇願するまゆらに微笑みかけると、久遠は人差し指をゆっくりと膣に沈めていく。
「ん…あぁっ!」
 待ち望んでいた強い刺激に、まゆらは歓喜にも似た声を上げる。
 指を沈めたその場所は、お湯の中よりも熱く、水の中でも濡れているのが分かった。
 
129 :例えばこんな愛し方・5:2006/04/05(水) 02:25:21 ID:TxCZEPZZ
 与えられる快感に、まゆらの身体は素直に反応し、水面を激しく揺らしていく。
「あ、ん…んぁッ…!」
 久遠は更に中指を埋没させて、細かな振動を与え続ける。
 快楽に暴れる身体を、空いた片手で押さえつけるように抱き締めた。
「あ…あっん…はぁ…」
 親指は器用に皮を剥いて、露出した肉豆を引っ掻くように弄る。
「あぁッ!!」
 ビクンと一際大きく振るえ、背中を弓なりに反らした。
 強烈な刺激に、まゆらは一気に絶頂へと押し上げられてしまったのだ。
「あら、もうイってしまいましたの?」
 指を締め付ける力が緩むのを待ってから、久遠はゆっくりと指を引き抜いた。
「んっ…はぁ…だ…だって…」
 荒い呼吸を正しながら、まゆらは久遠の方を振り返る。
 自然に口付けを交わすと、まゆらは身体を久遠の正面に向けた。
「久遠さん…意地悪なんですもん…」
「まゆらさんが可愛いからいけないんですわよ」
「ふぇ?」
「あまりにも可愛いから、つい意地悪をしてしまいますわね」
 快感とは違うもので紅潮したまゆらの頬をそっと撫でて、久遠は綺麗に微笑んだ。
「…そろそろ出ましょうか。まゆらさんのせいでのぼせてしまいますわ」
「えぇっ!?わ、私のせいですかぁ!?」
 反論される前にとっとと湯船から出て行く久遠の背中に、まゆらは急いで追いつこうとした。
 軽くシャワーを浴びて汗を流し、浴槽の栓を抜いてから、二人は浴室を出て行った。

 湯冷めしない内に寝間着に着替えて、髪を乾かす久遠の姿を見ながら、まゆらは口を開いた。
「意外にいいものかもしれないですね」
「え?」
 まゆらの言葉に、久遠はドライヤーを止めて振り返った。
「何?」
「まぁ、その…恥ずかしいですけど、一緒にお風呂に入るのも、たまにはいいかなぁ…なんて」
 そう言って、照れるように笑った。
 明るい場所で裸を見られるのは、まだ恥ずかしいものがあるけれど。
 互いの体温を、いつも以上に身近に感じる事が出来るから、たまにはいいのかもしれない。
 恋人の特権のようなものを感じたまゆらは、少し嬉しくて素直にそう口にした。
 しかし。
「狭い所でするのが好きなんですの?」
「…は?」
「嫌ですわ、まゆらさんったら。そう言う大事な事はきちんと言って下さらないと」
「え……っ!?ち、違いますよ!私は、ただ…!」
「別に照れる必要はありませんわ。そう…まゆらさんは狭い場所を好むのですわね」
 どうやら久遠に誤解を与えたようで、それに気付き、慌てて弁解しようとするが、再開したドライヤーの音に完全に遮断されてしまう。
 鏡越しに見えた表情は、楽しそうに笑っていた。
 もう何を言っても無駄だろう。きっと明日から一緒にお風呂に入る事になるかもしれない。
 そう考えると少し憂鬱で、でも少し、嬉しそうに溜息を吐いた。
 一足先に布団に潜り込むと、今夜も寝不足である事を覚悟しながら、まゆらは久遠の温もりを待っていた…。