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593 :パティスリー奈々穂・1 :2006/02/14(火) 03:08:23 ID:6DaLxDyg

「…あの、これは…」
 私は目の前に置かれた物を凝視しながら、奈々穂さんに尋ねた。
 白い皿に盛られているところを見ると、食べ物である事は間違いないだろう。
 全体的に黒く、表面は凸凹して、まるで粘土細工で作った山のようだった。
 その脇に添えられている白くフワフワしている物は雲だろうか。
 これを美術の授業に提出したら、そこそこの評価をもらえそうな、そんな印象。
 銀のフォークを私に渡すと、奈々穂さんは真顔で言った。
「ケーキだ」
「………」
「…何だ、その顔は?」
 一般的な同年代の少女達のように、私はあまりケーキといった類の物を口にする事はあまりなかった。
 必要以上に食べたいと思った事もなければ、興味すらなかった。
 偶に何かの行事で出されたり、副会長に付き合って頂いた事がある。
 だからある程度の形や味は理解していたが、よもやこの作品がケーキだとは…。
 お世辞にも、見た目がいい物ではなかった。
「…ま、まぁ、見た目は悪いかもしれないがな」
「…は、はぁ…」
「ちゃ、ちゃんと味見はしたぞ?」
 味見をした?ならば、これは奈々穂さんが作ったという事だろうか。
「これは、奈々穂さんが…?」
 疑問に感じた事を、そのまま尋ねてみると、奈々穂さんは少し頬を紅く染めて答えた。
「も、文句あるか?」
「い、いえ、そうではありませんが…」
 少し頭が混乱してきたところで整理をしてみる。
 目の前にあるのはケーキで、それは奈々穂さんが作った物。
 私の中にある知識では、イベントやお祝い事の時や、おやつや食事の後のデザートに食べたりする物。
 ならば、ここに置かれたケーキは何のイベントだろうか。
 時刻は深夜。夕食は数時間前に終わっている。第一、奈々穂さんはどうしてケーキなんて作ったのだろうか。
 料理なんてほとんどしないはずだ。ましてやお菓子を作るなんて。
 考えれば考えるほど分からなくなる。
 奈々穂さんは小さなテーブルの上に二人分の紅茶を置くと、その向かい側に腰掛けた。
 奈々穂さんの分のケーキは無かった。フォークも私しか持っていない。つまり、これは全て私の分なのだろうか。
「最初は何か買おうと思ったんだがな、周りの話を聞いて自分で作ってみたんだ」
「…買う?」
「香も作ると言っていて、同じレシピを訊いて作ったんだ。初めてにしては良く出来ていると思うぞ?」
「はぁ…」
 何だか会話が噛み合わない。それに気付いたのか、奈々穂さんは訝しげな表情をした。
「…琴葉、お前、今日が何の日か分かっているのか?」
「今日…ですか?」
 時刻は変わってしまったけれど、今日は二月十四日。
「……………あ」
「…分かってなかったみたいだな」
 言われて今日がバレンタインだと理解した。


594 :パティスリー奈々穂・2 :2006/02/14(火) 03:10:01 ID:6DaLxDyg

「隠密なら、誰よりもこういったイベントに気付くはずじゃないか?」
 確かにそうだ。いや、いつもの私なら、もっと前から気付いていた。しかし。
「それが、隠密の任務で遠出する事が多かったものですから、忘れていました」
 他校の部活動の調査や島の状況等の任務に赴く事は前からあったが、最近その量が増え、日にちの間隔が分からなくなっていた。
「そういえば、こうして会うのも久し振りだな」
 そう言って奈々穂さんは柔らかく微笑んだ。それにつられて私も笑った。
 隠密の任務の為、私はこの部屋を訪ねる時間を持てず、ここ数日は電話でしか話が出来なかった。
 校内で擦れ違う事はあったけれど、ゆっくり顔を見る事はなかったから。
 昨日の夜に任務は終わった。だから今日、こうしてまた会える事が嬉しい。奈々穂さんも同じ気持ちを感じてくれているのだろうか。
 暫し見つめ合ったまま無言でいると、何かを思い出したように奈々穂さんは声を発した。
「まぁ、とにかく食べてくれ。そ、その、私の…気持ちだ…」
 段々と声が小さくなって、顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。
 付き合いだしてもう一ヶ月以上経っているのに、未だに恥ずかしがる恋人に愛しさを感じながら、私はケーキに手をつけた。
 思ったよりも柔らかい生地は、簡単にフォークが入っていった。
 添えてある雲、もといホイップした生クリームを少しだけつけて、何となく躊躇しつつも口に運んでいく。
「…ど、どうだ…?」
「………美味しいです」
 驚いた。見た目以上に美味しかった。ほろ苦いビターチョコの香が口の中に広がり、しっとりとした生地が舌の上で溶けていく。
 生クリームとの相性も抜群で、私は一口、また一口と口に運んでいく。
「そうか…良かった…」
 それを見ていた奈々穂さんは、どこかほっとしたように胸を撫で下ろしてた。
 味見をしたと言っても、やはり初めて作った物。ましてや自分以外の人間が口にするのは、やはり不安な気持ちもあったのだろう。
 そんな慣れない事をしてまで、私に作ってくれたのだと思うと、すごく嬉しかった。
 あっという間に皿の上のケーキを平らげて、紅茶で咽喉を潤した。
「とても美味しかったです、奈々穂さん」
「そ、そうか」
 見ると、奈々穂さんも嬉しそうだった。
「ありがとうございました。ですが、私は何も用意していなくて…」
「ん?あぁ、気にするな。私がそうしたいと思ってした事だし」
「でも…」
「…なら、来月にお返しをくれ」
 三月十四日。バレンタインのお返しをするホワイトデーの事を言っているのだろう。
 一ヶ月先にお返しをするのは何だか悪い気もしたけれど、「一度ホワイトデーにお返しをもらってみたかったんだ」と笑顔で言っていたので、私はそれに頷いた。


595 :パティスリー奈々穂・3 :2006/02/14(火) 03:12:27 ID:6DaLxDyg

 奈々穂さんはテーブルの上を片付けて、使った食器を持って一度部屋を出た。
 私は何となく手持ち無沙汰のまま、ふと机の上を見た。
 机の上には少し大き目の紙袋が置かれていて、中身は大量の包みでいっぱいになっていた。
「これは…」
 綺麗にラッピングされた箱や袋。形状と現状から考えて、それは奈々穂さん宛てのチョコレートだと判断した。
「………」
 毎年この日は極上生徒会のメンバー達は、多くの生徒からチョコレートを貰う事は分かっている。
 校内では奏会長に続いて人気のある奈々穂さんだ。ファンクラブだってある位なんだから、チョコを渡す生徒達は多いだろう。
 分かっているのに、心の中で複雑な感情が渦巻いている。
 人の物を勝手に見てはいけない事だと分かっていても、袋に入っていた手紙が気になって、つい手に取ってしまった。
 書かれている内容は、恐らく告白等といった類の物だろう。
 この中に入っている全ての贈り物も同じで、奈々穂さんを好きなのは私以外にこんなにも存在するのだ。
 そんな事、付き合う前から分かっていたのに。目の前に置かれた現実が、胸を締め付ける。
 ドアを軽くノックする音が聴こえて、私は手紙を袋の中にしまった。
「琴葉、紅茶の御代わりはいるか?」
「…いえ、結構です…」
 ちらりと横目でマグカップを見ながら答えた。
「…?」
 思ったよりも声に力が入らない。動揺している証拠だ。
 先程座っていた場所に戻り、紅茶を口にする。中身は少し冷めていた。
 奈々穂さんは私の隣に座り、僅かに俯く私の表情を窺っていた。
「何だ、どうかしたのか?」
「………」
「ま、まさか腹でも痛いのか!?」
「あ、いえ、そういう訳では…」
「じゃあ何なんだ?」
 正直に言うのも何だか情けない気がして、私は視線をさっきの紙袋の方に向けた。
 その先を辿るように、奈々穂さんも視線を動かす。
「…?………っあぁっ!?」
 半ば慌てて立ち上がり、紙袋を身体で隠すように奈々穂さんは焦った口調で弁解した。
「あ、いや、違うんだ、これはっ!これは、その、一方的に押し付けられてだな!」
「…随分、沢山の生徒に慕われているようですね」
 その姿が何だか滑稽で、私は少し嫌味を言った。
「だ、だから、これは、その、知らない間に机の中に入っていたりとか、下駄箱とか、いや、別にやましい物では…」
 慌てているからなのだろうか、言葉がおかしなものになっている。
「…お、怒っているのか?」
「何故ですか?」
「何故って言われても…怒ってるじゃないか」
「怒ってません」
「嘘だ」
「嘘じゃありません」
「本当か?」
「本当です」
「…じゃあ何で私を見ないんだ?」


596 :パティスリー奈々穂・4 :2006/02/14(火) 03:13:39 ID:6DaLxDyg

 直ぐ隣にいるのに、私はまだ振り向けなかった。
 怒っているからとか、そんな単純なものじゃない。
 理解しているはずだ。この気持ちがどんなものなのか、この感情にどんな名前が付くかなんて。
「琴葉…」
「………」
 いつまでも黙っている私の頬に、奈々穂さんの温かい手が触れた。
「…やきもちか?」
 その声はどこまでも優しくて、私は小さく頷いた。
 正直に肯定するのが恥ずかしい。自分が酷く子供みたいだ。
 頬に触れていた手が顎まで滑り、そのまま軽く指で横を向かされると、そっと触れるだけのキスをされる。
「…ん…」
 急にされた事で目を閉じる事も出来ず、目の前にある奈々穂さんの綺麗な顔を見つめていた。
 柔らかい感触は直ぐに離れ、奈々穂さんは小さく笑った。
「…可愛いな、琴葉は…」
「…っ!?」
 優しい表情を崩さないまま再び口付けられる。今度は瞳を閉じれた。
 何だかいつもと違い、イニシアチブを完全に彼女に奪われてしまった。
 少しずつ深くなる口付け。私は腕を奈々穂さんの背中に回した。
「ん…ちゅ…んぁ…」
 唇を開いて、自分の方から彼女の舌を誘う。隙間から彼女の湿った舌が入り込み、口内を舐め回される。
 互いの舌を絡めながら、奈々穂さんはゆっくりと私を押し倒した。
 背中にある絨毯の感触はベッドよりも硬かったけど、床よりかは柔らかかった。
 天井を仰ぐと、見慣れない景色がそこにはあった。
「…いつもと逆だな」
「…そうですね」
 二人で笑い合いながら、口付けを再開した。
 顔の角度を変えて、貪るように何度も何度も口付け合う。
「ん…。ん、むぅ…」
「…ん」
 奈々穂さんは、私の口内に溜まった唾液を全て吸い上げ、それを飲み下す音が聴こえた。
「…甘い」
 そう呟くと、今度は私の唇を味わうように舐め始める。吸い取られずに頬に流れた唾液も、また。
 いつもより積極的な奈々穂さんに戸惑ってしまう。
「んぁ…な、奈々穂さ…」
 身体が熱い。いつも私が触れる奈々穂さんも、こんな熱を感じているのだろうか。
 いつもと立場が違う事に微かな不安を感じて、私は思わず奈々穂さんにしがみ付いた。


597 :パティスリー奈々穂・5 :2006/02/14(火) 03:14:29 ID:6DaLxDyg

 奈々穂さんの右手が、制服のボタンを外しに掛かった。
 自分で脱ぐ事はあっても、脱がされるのは初めてで、変に鼓動が高鳴る。顔は真っ赤になっているだろう。
 一つ目のボタンを外されたところで、私は部屋の明るさに気がついた。
「奈々穂さん、あの、明かりを消して下さい」
「…恥ずかしいのか?」
「…は、はい…」
 すると奈々穂さんは耳元に唇を寄せて囁いた。
「お前、この前私がいくら電気を消してと頼んでも消してくれなかったじゃないか」
「……あ…」
 少し拗ねたような口調。確かにあの時、恥ずかしがる奈々穂さんがとても可愛くて、ついつい虐めてしまったが、まだ根に持っていたのか。
「それでも消して欲しいのか?」
「………」
 どうしたものかと、何も言えずに黙っていると、奈々穂さんは唇の進路を変え、首筋、鎖骨の方へと舌を滑らせる。
「ふあッ!」
 思わず喘いだ自分の声に、ひどい羞恥心を感じた。しかし、奈々穂さんは気にせずに舌を這わせていった。
「っ、なな、ほさっ……!」
「…どうして欲しい?」
 自分の方が優位に立っているからなのか、今日の奈々穂さんは何だか意地悪だ。
 背中に回していた腕を首に絡めて、そっと引き寄せてから小さな声で伝えた。
「…け、消して下さい…」
 頭上からクスリと笑う声を聴いた。
 奈々穂さんは一度立ち上がり、入り口付近にあるスイッチを押して部屋の明かりを消してくれた。
 カーテンから僅かな月の光が透けて、それが部屋の唯一の明かりになった。
 私のところに戻って来ると、奈々穂さんは一気に服を脱がそうとした。
 脱がせやすいように僅かに上半身を起き上がらせると、奈々穂さんは左手を素早く背中にまわした。
 右手で前のボタンを全て外して、制服の上着を脱がされると、それをそのまま床に投げ捨てた。
 左手でブラジャーのホックを器用に外すと、再び首筋に舌を滑らせる。
「んッぁ…」
 ふと奈々穂さんの方に視線を向けると、奈々穂さんの顔も僅かに紅潮していた。
 目が合うと、優しく微笑んでくれた。その表情が、私を安心させる。
 少しの余裕を取り戻して、ゆっくりと奈々穂さんの頬を撫でる。すると照れたように俯いてしまった。
 そんな些細な仕草が愛しくて、顔を私の方に向けた。先程までの意地悪だった彼女は何処に行ってしまったのやら。
「…奈々穂さん…」
「そ、その…いいか…?」
 押し倒して服を脱がせた今になって確認を取る奈々穂さんが何だかおかしくて、少し噴き出しそうになった。
「……はい」


598 :パティスリー奈々穂・6 :2006/02/14(火) 03:15:28 ID:6DaLxDyg

 頬に触れていた手に、奈々穂さんの温かい手がゆっくりと重なると、それを口元まで寄せられる。
 奈々穂さんは私の手のひらに優しくキスをした。見つめ合ったままそんな行為をされると、何だか気恥ずかしくなる。
「…会えない間、ずっとお前の事を考えていた」
 静かに口にしたその言葉は、心臓が壊れてしまう位に鼓動が高鳴るものだった。
「…淋しかった…琴葉…」
「奈々穂さん…」
 流れるように自然に唇を重ね、奈々穂さんは私のスカートに手を掛けた。ホックを外してするりと足から抜き取った。
 ショーツ以外の全てを脱がせると、奈々穂さんは自分の制服を脱ぎ始めた。
「まぁ、その分、内緒でケーキを作って、琴葉を驚かせる事が出来たがな」
 そう言うと、奈々穂さんは自嘲気味に笑った。
「結構大変だったんだぞ?部屋で作ると久遠が五月蠅いし、家庭科室を借りて日曜日に作ったんだから」
 小さな光に照らされた奈々穂さんの身体がとても綺麗で、私はしばし見とれていた。
「…美味しかったですよ、とても」
「そ、そうか。いや、私も初めてにしては上手く出来たと思ったんだ。才能があるのかもしれないな」
「いや、それは…」
 味はいいけど見た目が山ですから。
「ん?」
「…そ、そうですね。ある意味、才能があると思います…」
「そうか。なら、また作ってやるぞ」
 嬉しそうな声を上げて、奈々穂さんはゆっくりと私の身体を包み込むように抱き締める。
 直に肌に触れている事で、奈々穂さんの体温が直接伝わる。とても温かくて、心地いい体温。
 淋しかったのは私も同じだ。言葉にしない代わりに、ぎゅっと抱き締める。
 私は、ずっとこの優しい温もりに会いたかった。
「…奈々穂さん」
「…あ、痛くないか?」
 今更ながら床で行為をしようとした事に気付いた奈々穂さんは、私の身体を気遣うように言ってくれた。
 確かにベッドよりも背中に感じる感触が硬い為、二人でベッドに移動した。
 身体を重ねて、口付け合って、互いの温もりを確かめ合って。
 私は短い髪を梳くように撫で、さらさらとした感触を指で味わう。
 私の肩口に顔を埋めながら、掠れる声で何度も名前を呼ばれた。
「…琴葉…琴葉…」
 名前と共に吐き出された吐息に熱が籠もっていて、それを素肌で感じる度に、私の思考も熱に浮かされていった。


599 :パティスリー奈々穂・7 :2006/02/14(火) 03:16:26 ID:6DaLxDyg

 ギシギシと軋むベッドの音が耳に障る。その音が大きければ大きい程、羞恥心に苛まれる。
 どんな格好で、どんな動きをして、どんなに乱れているのか、情欲に侵された思考では理解出来なかった。
「はぁ、あ…、んぁ…」
「…もっと、声を聴かせて…琴葉…」
「っふぅ…ん、やぁっ!」
 さっきから、奈々穂さんは私の秘所に顔を沈め、丹念に其処を舐めていた。右手の指は膣内を弄り、左手は私の胸を嬲る。
 何度も身体を重ねているのに、される方はまだ慣れない。
 上と下から同時に与えられる激しい刺激に抗えず、私は喘ぐ事しか出来ない。
 奈々穂さんの口から、身体の中心から溢れる厭らしい水音と、荒い息遣いが漏れる。
 指と舌で蹂躙され続け、心も身体も限界に達していた。
「あ、なな、ほ、さ…私、もう…っん…」
 途切れる言葉は正確に伝わったのかどうか。俯く奈々穂さんの頭に触れて、それを確かめる。
 僅かに上がった顔を見ると、その妖艶な瞳にさえ快感を感じた。
 腰を掴まれると、最早抵抗する力を失くした私の身体はいとも簡単に反転される。
 うつ伏せの体勢になり、圧迫される胸が少し苦しかった。
 その背中に奈々穂さんの温もりを感じる。
 腰に置かれていた手をそのまま滑らせ、愛液に塗れた性感帯に達すると、十分に指を濡らし、膣内に侵入してきた。
「んあぁッ!!」
 突然の強い快感の波に襲われて、流されないように必死にシーツを掴んだ。
「あぁ、や、ななっ…ほさ、んッ!も、あっだ、めッ…!」
 意味の無い羅列を並べて、高みに昇ろうと腰を振る。
 肌から吹き出す汗に貼りつく髪に小さな嫌悪感を抱く。
 与えられる刺激に集中すると、私の中にある奈々穂さんの指の数は増えていた。
「うぁ、はっ、あ!や、も、んっ、あッ!!」
 上に突き上げるように動かす指は速度を増して、限界はもう目の前まで来ていた。
「はぁ、はぁ…。厭らしい腰つきだな…。そんなに気持ちいいか?」
「あ、い、んっ、いい!あっすご、いいっ!!」
 本能のままに口にした言葉に満足したのか、掌で陰核を覆うようにし、上下に強く揺すられる。それが引き金になった。
「あ、あ、あ、あ、あぁッ!!」
「…いいよ…琴葉…イっていいから…」
「あぁっ!!んあぁぁぁッ!!」
 背中を大きく弓なりに反らし、私の身体はべッドに深く沈んでいった。


600 :パティスリー奈々穂・8 :2006/02/14(火) 03:17:52 ID:6DaLxDyg

 互いの呼吸が落ち着くまで、奈々穂さんは私の髪を愛しげに見つめながら、優しく梳いてくれた。
「…少しは私の気持ちが分かったか?」
 どうやらいつもの仕返しのつもりで私を抱いたらしい。
 随分子供っぽい事を考えていたのかと思うと、何だか可愛いと思ってしまう私は大分変わったのかもしれない。
「…腰が痛いです…」
 続け様に三回程されれば当たり前かもしれないが、奈々穂さんも普段、こんな風に腰を痛めているのだろうか。
 だとしたら、次からは色々と気をつけなければいけない。
 布団を掛け直しながら、奈々穂さんは苦笑した。
「でも、琴葉も結構大胆だな」
「え?」
「いや、その…声が……エロい…」
 段々小さくなる言葉の最後の方はほとんど聴こえなかった。
 それでも僅かに聞き取れてしまった事で、先程の自分を思い出して、今更ながら恥ずかしくなる。
 声を聴かせてと言ったのはあなたじゃないですか、奈々穂さん。
 好きな人の望む事は何でもしたいと思うのは当然の事だ。
 やっと手に入れたこの温もりを、誰にも渡したくないと思うのは我侭なのだろうか。
 誰にも奪われたくない。例えそれが、あの奏会長でも。
 奈々穂さんを好きな人は沢山いる。それはどうしようもない事だ。
 だけど、私が一番この人を想っている自信はあっても、この人に一番想われている自信がないから。
 それでも、今日、あのほろ苦いチョコレートケーキは。
 奈々穂さんが私の事を想って、私の為だけに作ってくれた事が、とても嬉しいから。
 ほんの少し、自信を持てたから。
「…そう言えば……」
 天井を見上げながら、奈々穂さんは呟いた。
「久遠の奴もチョコを用意していたけど…あいつ、誰に上げたんだ?」
 何か知っているかと訊かれたけれど、何も知らない私は首を横に振った。
 何となく、副会長はあまりこういったイベントに参加するような人じゃないと思っていたから、それが本当なら意外だと思った。
 ふと横を見ると、奈々穂さんは小さな寝息を立てていた。
 今まで会話をしていたのに、それが途切れたほんの僅かな間に寝るとは、一体どんな構造をしているのだろう。
 半ば呆れて溜息を吐き、そっとその身を奈々穂さんに寄せた。

 あのチョコレートケーキの味を、私は一生、忘れはしないだろう。
 そんな事をぼんやり思いながら、私は眠りに落ちていった。
 夢の中でも、この人と手を繋いでいる事を願って……。