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171 :堕天使の羽根・1 :2005/12/26(月) 02:07:08 ID:GxYxg8Cu

 あの人の背中には、きっと羽根が生えている。そう信じていた。
 どんな場所にいても、あの人は高く舞い上がり、一瞬で空に溶け込んでしまうから。
 私がどんなに真似をしようとしても、同じ様に飛ぶ事は出来ないから。
 あの高く青い場所で独り、何を見て、何を思うのだろう。
 唯一つ、想う事。どうかあの空の色に染まらないでと、あの人のいない景色に願う。
 あの青に溶けてしまったら、私じゃ追いつけないから。
 手の届く場所にいて欲しい。どうか何処にも行かないで。
 そんな事、私が願っても意味が無いのに。
 私の恋は、意味が無いから。

 あの人の視線の先にいるのは、いつも同じ人。
 気付いてしまったのは、出逢ってから一年経った春の日。ずっと憧れていたあの人への恋心を自覚した頃だった。
 いつも無表情で、任務に命を賭けているあの人が、優しい瞳で彼女を見つめる姿を知ってしまった。
 勝ち目なんてある訳がない。
 一つ年上の彼女。容姿端麗、眉目秀麗、才色兼備。当て嵌まる言葉が多すぎる人。
 そんな彼女に張り合おうなんて、無謀とも言える行為だろう。
 最初から、勝とうとも思えない。いや、その土俵にすら上がれない。
 私の初恋は、桜の花弁と共に散った。

172 :堕天使の羽根・2 :2005/12/26(月) 02:08:32 ID:GxYxg8Cu

「歩…」
 昼休み。廊下を歩く背後から、低い声で名前を呼ばれ、振り向く前に心が震える。
 完全に消える事の出来ない恋の名残。
 僅かに高いその視点と、交わる為に目を泳がせる。
 高鳴る鼓動を抑えつつ、瞳に映した人の名を呼ぶ。
「琴葉さん。どうしたんですかー?」
「…会議の時間だ」
「あ、はーい。今行きまーす!」
 いつもの私を演じて、心に砕けた想いに気付かせてはならないと、気持ちに幾重にも蓋をする。
 特別でも何でもない、私の普通は、こんな時にこそ役に立つ。
 誰もいない時の逢瀬は、私にとっての天国と地獄。
 逢えて嬉しい気持ち。
 けれど会話はほとんど事務的なもの。誘導的に、彼女を思い出してしまう。
 其処を刹那の間に往復する私の精神は、もはや決壊寸前で。
 それでも道化の仮面を被り続ける。私らしさを嫌と言う程思い知る。

 隠密専用の会議室は、生徒会室の隣の教室。隠し扉で繋がる向こうで、微かにりのの声がした。
 会議中にこの部屋で待機するのはいつもの事。有事の際にすぐに行動出来るように。
 いつもと違うのは、暗い表情の想い人。
 怒りや悲しみ、憎しみといった負の感情を、必死に押し殺すように沈黙していた。
 理由なら分かっている。何時だって琴葉さんの感情を動かす事が出来るのはあの人だけ。
 副会長、銀河久遠。彼女の秘密は私達への裏切り行為。
 まだ確信してはいない事でも、琴葉さんを不安定にするには充分で。
 何も知らない当人は、扉の向こうで笑っている。
 その音が聴こえる度に、小さく震える身体も知らずに。

 話は聖奈さんから聞かされていた。彼女にも事情があるのだと。
 それでも私は許せない。愛する人を傷つける存在を。
 終わらせる事は簡単だ。彼女の想いが砕ければいい。
 そうすれば、銀河久遠の存在で、この人が傷つく事は無い。
 崩壊しかけた理性の裏で、黒い欲望が高笑いする。
 自分の心を、身体を、存在を。その全てを刻み込めばいい。
 その甘い囁きに、最早抗う力は皆無に等しい。
 その背に羽根が在るのなら、もう二度と飛べないように。
 ズタズタに引き裂いて、私の下から離れて行かない様に。
 音も無く動かした右の手が、私と同じ制服に触れた。

173 :堕天使の羽根・3 :2005/12/26(月) 02:10:00 ID:GxYxg8Cu

 薄暗い室内で、手探るように右手を滑らす。
 私の行動に気付き、不思議そうな顔が、闇の中でも確認できた。
「…歩、一体何を…?」
 隙間に入り込んだ手で、僅かに距離が遠ざかる。
 肩に置かれた温もりが、欠片になった心を癒す。
 それでも、もう、止まれない。
 強引に身体を引き寄せて、硬い机に組み敷いた。
 小さな抵抗のつもりか、肩に爪が食い込む感触がした。
 互いの力にほとんど差は無い。本気で抵抗されたなら、傷を付ける前に解放しなければならない。
 この体勢の意味を、きっと彼女は理解している事だろう。
「声、抑えて下さいね。たぶん、加減出来ないんで」

「歩っ、止め――ッ!?」
 静止の声を言葉ごと、呑み込む様に口付ける。
 拒絶する両手は、私の肩に置かれたまま。
 拘束する必要も無いと判断し、自由になった私の両手は、彼女の制服を脱がし始めた。
 抵抗する力を弱めようと、何度も口唇を重なる。酸素を求めて開かれた隙間を利用して、舌の侵入を試みた。
「んッ」
 歯列をなぞり、その裏側も優しく舐める。奥に縮こまった舌を見つけ、誘うように何度も突く。
 おずおずと伸ばし始めた舌を絡めとり、口唇で扱く様に前後に動かす。
「んッんぁ…」
 熱い吐息と共に漏れた嬌声が、彼女に僅かでも快感を与えられた至福。
 だらしなく開かれた口の端から、混ざり合った互いの唾液が、一筋の線を引いて流れた。
 それを指で拭い取り、彼女の目を見つめながら口にする。
 両手の仕事も無事に終え、羽根をもぎ取る作業を再開する。

 肌蹴た制服の隙間を覗く身体は、程好く締まって綺麗だった。
 先程の口付けで力は出ないのか、制服は破れる事無く脱げた。
 衣擦れの音に羞恥を感じたのか、彼女は私を見ようとしない。
「…琴葉さん、抵抗しないんですかー?だったら続けちゃいますよー?」
 元より止めるつもりも無いのに、嘘に塗れた確認を取る。
「歩、どうして、こんな事…」
 そんなに理由を求める彼女に、何て答えれば満足するのだろうか。
 頬に触れてた指を滑らせ、輪郭をなぞる。やがて辿り着いた首筋に弱弱しくも爪を立てると、小さな呻き声が聴こえた。
「…久遠さんの事、好きなんですよね?」
「っ!?」
 こんな時でも本音を言えない私は、あとどの位、汚れれば気が済むのだろう。
 今の私が、貴女を好きだと言っても、純粋なままの姿を留めたまま伝わる事は出来ないと理解したからなのか。

174 :堕天使の羽根・4 :2005/12/26(月) 02:11:16 ID:GxYxg8Cu

 この場にいない人ばかりを見つめたまま、同じ瞳で見ないで欲しい。
 自らの胸元にあるリボンを解いて、彼女の視線を封鎖する。
「っ…!?あっ、歩っ!!」
「大きな声出すと、隣に聴こえちゃいますよー?」
 視界が閉ざされ、不安になったのだろうか。急に大人しくなった彼女に、細やかなご褒美を与えよう。
「…久遠、て呼んでもいいですよ?」
「なっ!?」
 耳元で囁きながら、優しく甘噛みすると、その肢体は硬直した。
 首筋から鎖骨までを何度も往復する舌で、敏感に反応する身体に思わず口角が上がる。
「…あぁ」
 小さな膨らみを、少し乱暴に揉みしだくと、頭上から妖しい吐息が零れた。
 荒くなる息遣いは、どちらのものなのか。
 先端の突起を咥えると、オクターブ高い音が奏でられた。
 背中に回された両の腕が、この行為を全て受け入れる証拠だと、痺れ始めた脳髄が記憶する。

 下半身を覆い隠していたもの全てを取り除き、彼女だけが生まれたままの姿になる。
 穢れの無い、美しい裸体に目を奪われる。けれど、もうあまり時間は無い。
 隣の会議はもうすぐ終了する。
 彼女の足を割り、その間に身体を入れて、最後の抵抗を未然に防ぐ。
 太腿を撫でながら、誰も触れた事が無いであろうその中心を瞳に映した。
 その場所は濡れていた。ヒクヒクと厭らしく蠢いて、私の指を誘う。
 上下になぞっただけで、その入り口は私の指を咥え込もうとする動きをみせる。
「あッ…やぁ…」
 言葉だけの拒絶を聴きながら、愛液を纏った二本の指を、ゆっくりと秘所に沈める。
「あぁ、ん、はぁッ…」
「琴葉さん。力、抜いて下さい…」
 熱いその膣内は、初めての侵入者を排除しようと、硬く閉ざされて、指の先端が挿入されただけだった。
 もはや声も聴こえないのか、彼女はただ喘ぐだけで。
 無理矢理深く入れる事は簡単だ。けれど今頃取り戻した僅かな理性がそれを許さない。

 愛液を潤滑剤に、蕾の花弁を開かせる。
 無意識であろう、揺れる彼女の腰の動きが私を煽る。
 再び沈めた中指は、今度は付け根まで深く入ると、瞬間、反られた背中に素早く腕を滑らせる。
 快感に震える身体を抱き締め、指を増やし、淫らな声を発する口唇に、自分のそれを重ねる。
 机の軋む音と、淫靡な水音が室内に響く。
「ッ…!ん、んぁ、あ、や、もっ…!」
 限界に近いのか、紡がれる言葉は意味を持たない単語の羅列。
 途切れる声に応えるように、突き立てた身体の一部を動かした。
 上下、前後に激しく動かすと、私の身体に必死にしがみ付く。
 快楽の波に攫われない様に、溺れない様に。
「っ…こ、とは…」
 噎せ返る様な眩暈を覚え、半ば無意識に最愛の名前を呼んだ。
「あ、ん、あ、あ、あッ…!」
「琴葉…琴葉…!」
 終幕に向かう為、親指で陰核を弾くように刺激を与える。全てを自分のものにするために。
 彼女の恋情が砕ければ。その背の羽根を千切ってしまえば。
 飛べなくなった彼女を束縛し、何処かに消えてしまわないように。
 見つめる暗闇の世界で、私の名前を呼んだらいい。
「あ、あぁッく、くおッ…ああぁぁぁッ―――!!」
 言葉に成らないその声は、私の頭を真白にさせた。

175 :堕天使の羽根・5 :2005/12/26(月) 02:12:27 ID:GxYxg8Cu

 意識を失くした彼女に、微量の睡眠薬を飲ませた。
 私との性行為は、あやふやな記憶の底に堕ちて行くだろう。
 制服を着させて、傍から見たら、転寝をしている様に見せかける。
 初めから分かっていた事だったんだ。
 地を這う事しか出来ない私が、空を舞う天の使いを地上に繋ぎ止める事は無理なのだと。
 天使は空に憧れて、何処までも高く舞い上がる。
 どんなに羽根を汚そうが、その瞳はあの青を映しているのだ。
 堕落していくのは私だけ。天使を犯した罪を抱えて、これが罰だと思い知る。
 手に残る僅かな感触が、深い痛みと歓喜を与えた。
「…バカだな…私って…ひょっとしたら、りのよりバカかも…」
 慰めにもならない苦笑。殺風景な室内の景色が滲む。
「…でも…琴葉さんの方が、もっとバカだ…」
 本気で抵抗しない事は、優しさなんかじゃない。拒絶してくれた方が、どんなに楽な事か。
 密やかな報復は私の本音を貫く。
 雨のように零れ落ちる涙を止める術さえ知らない。私には空が無いから。
 高く飛べなくてもいいから、私にも空が欲しかった。
 いつか罪が許されるなら、私にも飛べる位の空を手に入れる事が出来るのだろうか。
 今は雨雲に覆われて、よくは見えないかもしれないけれど。
 素直に誰かに好きだと伝える事が出来る日が、私にも来るのだろうか。

 教室に戻る廊下を歩くその向こうで、りのが私を呼ぶ声が聴こえた。