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71 :月下のアリア・1 :2005/12/13(火) 15:00:07 ID:H1dY5aYi

  見つめるだけじゃ足りなくて
  もっと近くで感じたい
  触れられる程 傍にいたい
  もっと もっと…
  もっと あなたばかりになってしまいたい


 静かな夜。月の光に導かれるように、窓際に近づく。
 部屋に漂う仄かな紅茶の香り。部屋に流れる叙情的なクラシック。
 これらは、これから始まる秘め事の儀式。
 薄いカーテンをそっと開くと、薄暗い闇がすぐ傍まで広がっている。
 その闇の中、唯一つ輝く月。今夜は満月だ。
 窓を開けると、バスローブ姿の私には少し肌寒かった。
 目の前に聳え立つ大樹の枝に、想い人の姿を確認する。
「琴葉…」
 驚かさないように、けれど確実に届くように、名前を呼ぶ。
 考え事をしていたらしい彼女は、ゆっくりと顔を上げ、こちらに視線を向ける。
 彼女は未だに制服を身に着けていた。
「どうかしましたか、副会長」
「お茶を淹れましたの、よろしければ、ご一緒しませんこと?」
「………」
 琴葉は、何か考えを巡らせ、再びこちらに視線を送る。そして一瞬の内に枝からこのベランダまで跳んできた。
「…こんな時間に、ですか」
「…えぇ…」
 今は深夜。この極上寮の中で、起きているのはおそらく私達以外にいない。それはきっと、彼女も分かっているだろう。
 一つ溜息を吐くと、「…失礼します」と呟いて部屋の中に入ってきた。後姿を確認してから、私は窓を閉め、カーテンを引いた。
 すれ違う時に、彼女の匂いがした。
 私の心音は、早くも乱れ始めていた。

72 :月下のアリア・2 :2005/12/13(火) 15:01:27 ID:H1dY5aYi
「…何度来ても、何も無い部屋ですね」
 紅茶を飲みながら、琴葉は私の自室を見渡した。
 ソファー、テーブル、コンポ、ベッド、本棚…。ひとつひとつの品物は、自分で言うのもなんだが、それなりに高価な物ばかりで。何も無い訳ではない。一切の無駄を排除したこの部屋を、琴葉は何も無いと言う。
「無駄な物を置いていないだけですわ。琴葉の部屋こそ、何もないじゃない」
「………」
 そう言うと、琴葉は少し拗ねた表情を見せる。琴葉の部屋は、必要最低限の物しか存在しない。
 普段は無表情、無感情の彼女が、私には見せるその姿が、私に言いようの無い幸福感を与える。思わず笑みが零れると、彼女は益々拗ねた顔をした。
 私は音楽を止めた。彼女の声以外の音が邪魔に感じる前に。
「……。…っ!?」
 それを見ていた彼女は、何かに気付いた。急に立ち上がり、私のすぐ傍まで歩み寄った。
 突然の彼女のその行動に、私は戸惑った。
「こ、琴葉?」
「あなたは、まだこんな物をっ…!」
―――しまった!
 彼女が手にしているのは、私の戒め。藤澤恒久と写っている一枚の写真。
 彼女の表情がまた変わる。その瞳は怒りに満ちていた。
「琴葉、それはっ…」
「言い訳は結構です。…私はこれで失礼致します」
 背筋を這うような低い声。
「琴葉っ!待って!」
 咄嗟に握ったその手は、静かに震えていた。
「琴葉…」
 何度もその名を口にする。その、愛しい人の名前を…。
「琴葉、お願い…。行かないで…」
 私の声も震えていた。出て行こうとする彼女を、放さないように、握った手に力を込めた。
「…琴葉」
「………」
 何度目かの名前を口にすると、彼女は黙って振り向いた。
 視線が交わる。やっと彼女の瞳を見れた。
 私より少し背の低い彼女は、上目遣いで私を見つめている。
「…無駄な物では、ないのですか」
 数秒振りに聞いたその声は、怒りよりも、悲しみをいくらか含んだものに変わった。
「あなたにとっては、必要な物だと言うのですか」
「琴葉…。理解っているでしょう。私の立場を…」
 それは、自分の立場を忘れない為の物。今では、最早その意味を持たないかもしれないけれど…。
「…理解っています。…すみません」
 意外と素直に謝罪する彼女に驚いた。彼女は更に言葉を続ける。
「私はただ、あなたが誰かといるのが、嫌だっただけです…」
「琴葉…」
 彼女の右手が、私の頬に触れる。それだけで、心臓の鼓動が跳ねる。
「…私は、何処にも行きません。だから…」
 少しずつ、顔が近づいてくる。
「そんなに、哀しい顔をしないで下さい…」
 その言葉を聴きながら、私は瞳を閉じた。

73 :月下のアリア・3 :2005/12/13(火) 15:02:38 ID:H1dY5aYi
 部屋の明かりは点いていない。この空間を照らすのは月の光だけ。
 窓から離れたこのベッドには、その光さえも曖昧なものにした。
 彼女の顔がはっきり見えない事が、少し哀しかった。
「満月は、人の理性を奪うと言われています。そして、今夜はその満月だ…」
 私に覆い被さっていた彼女が、呟くように話し始めた。
「だから、その…」
 これからの行為の言い訳をしているのだろうか。薄暗いこの空間でも、彼女の顔が僅かに紅潮しているのに気付いた。
「それは、言い訳ですの?」
 思ったままを口にした。私は笑った顔をしていたのだろう、彼女は拗ねた表情を見せた。
「あ、あなたが悪いんだ…。あんな写真を、置いていて…」
 そして、彼女は私の首筋に顔を埋めた。
「それに、こんな格好をして…」
「あっ…」
 バスローブの隙間に片手を侵入させながら、首筋を舐められる。
 いつもよりも性急な彼女に油断して、思わず声を上げてしまった。
「大きな声を出してしまえば、同室の副会長が起きてしまいます」
「っ…!ん…」
 声を出させないように口づけされる。
 始めは啄ばむように、それがだんだんと深い口づけに変化する。
「ん……」
 角度を変えて、再び重ねられると、彼女の舌が私の唇をなぞるように動く。その感触を感じて、私はゆっくりと、誘うように口を開く。
 彼女の舌が口内に侵入する。歯列をなぞり、歯茎を舌で撫でられる。やがて私の舌を見つけ、互いのそれを絡める。
「んあっ…」
 彼女の唇が離れ、どちらのものか分からなくなった唾液が、口の端を流れていく。
 私は無意識に彼女の背中に手をまわしていた。
 いつの間にか羽織っていたバスローブは左右に開かれ、胸部が露わになる。
「…あなたはいやらしい人だ…。こんな姿を、他の方達が知ったら、一体どんな顔をするでしょうね」
「こ、琴葉…、そんな、こと…」
 私の身体は、下着を身に着けていない。それを見られて、白い肌が羞恥で朱に染まる。
 彼女の両手は乳房を覆うように重ねられ、撫でるように動き始める。
 私は漏れ出しそうになる声を必死に抑える。
「安心して下さい。そんな事はしません。こんな姿…」
 彼女の頭が下に移動する。
「他の人間には、見せたくない…」
 そう言って、琴葉は胸の先端を甘噛みした。
「あぁっ!」
 瞬間、快感が電流のように背中を走る。声を抑えることが出来なかった。
 彼女は執拗にそこを舐め続け、撫でるだけだった両手の動きは、時には乱暴に感じてしまう程の力で乳房を揉み始める。
「ん、んぁっ、はっ…!」
 片手で口を封じるも、漏れ出す嬌声を、これ以上抑えることが出来ない。
 バスローブの帯が解かれ、そのまま優しく脱がされ、私一人が生まれたままの姿になる。
 そんな私を見つめる琴葉の瞳は、妖しく揺れていた。
 それだけで、身体の中心が疼いてしまう。
 胸を愛撫していたはずの右手が這うように腰へ。腰から太腿へ移動し、そして焦らすようにさわさわと撫でる。
 私が求めている場所は、すぐそこにある。
「ん、ぁっ、こ、琴葉っ…」
 声も身体も、もう我慢なんて出来ない。私は自ら足を開く。
 そんな私の動作に、琴葉は苦笑した。
「…あなたは本当にいやらしい人だ、副会長…」

74 :月下のアリア・4 :2005/12/13(火) 15:03:34 ID:H1dY5aYi
 彼女の右手が、私の待ち望んでいる場所へ触れる。
「あぁっ!」
 ほんの少し掠めただけで、どうしようもない快感が私を襲う。
「…もう、こんなに濡らして…。どうして欲しいですか?」
 どうして欲しいかなんて、もう知ってるくせに。彼女はまだ焦らす気なのか。
「っ…!こ、とは」
 彼女の指が、入り口に触れる。彼女しか知らない、秘密の入り口。
 溢れて止まない愛液が、その細い指を濡らしていく。
「…答えていただかないと、ここで止めてしまいますよ」
「やっ!琴葉、もぅっ…」
 両手を彼女の首に回して、強く彼女を抱き寄せた。
 いつの間にか、荒くなっていた彼女の吐息に気付き、抱きしめる腕に力が籠もる。
「もうっ…い、れて…」
 私の声は掠れていた。その答えに満足したのか、琴葉は僅かに顔を上げ、私の頬に口づけをする。
 そして、彼女の指が、私の中にゆっくりと進入する。
「っ!んぁあっ!」
 遂に待ち望んでいた秘所への刺激に、私は歓喜の声を上げる。
 彼女の身体に、思わずしがみつく。
 このまま、身体が溶け合って、ひとつになってしまいたい。
 自分の立場を忘れて、何もかも捨て去って、あなたとひとつになれたのなら…。
 あなただけの私になれたのなら、それはどんなに幸せな事だろう。
「あぁっ!琴葉!こと、はっ!」
 私の中に入った彼女の指は、少しずつ動いていった。
 ゆっくりと前後に動き、だんだんと速く、激しさを増していく。
 指の数が増やされると、限界に近づいていく。
 制服がぐしゃぐしゃに成るほどの力が入る。
「あっあっ、ん、こと、は」
 どうかそのまま離さないで。
 このまま私の全てを奪って。
「…っ!…久遠さんっ」
「!!」
 急に名前で呼ばれ、唇が重なる。一瞬で離れていく唇から、濡れた吐息が苦しそうに吐き出される。
 見つめた彼女は、切ない顔で私を見下ろした。
「はぁっ…久遠さん、久遠さんっ」
「!あっ!」
 名前を呼ばれただけなのに、私は感じてしまう。もう意識なんて保ってられない。
 私の秘所から、ますます愛液が溢れてくる。
 彼女は手のひらで、硬くなった陰核を覆い、上下に揺らして、私に刺激を与えてくる。
 一瞬たりとも保てなかった。
「久遠さん…、好きです…久遠さんっ」
「あっあっやぁっ、ぁ、あぁーーっ!」
 彼女の告白を聴きながら、私は意識を手放した。

75 :月下のアリア・5 :2005/12/13(火) 15:04:24 ID:H1dY5aYi
朝、目覚めると、琴葉の姿は無かった。
 私の身体には、バスローブが着せられていた。琴葉と身体を重ねる前と同じ格好で。
 身体には何の痕も残っていない。
 まるで、全て夢だったかのように。
 そしてその衝動から、私はまた彼女を求めてしまうだろう。
 あなたが欲しい、なんて、言葉では言えない。だから身体で伝えてしまう。
 あなたの心に、ほんの少しでも伝わればいい。
 どんな形でもいい。あなたに届けば、私の行為も少しは報われるから。
 あなたが欲しい、あなただけが欲しい。
 そして今夜も夢を見る。
 あなたに抱かれる、幸福な夢を…。