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295 名前: 奈々穂×聖奈の作者 2005/08/05(金) 17:59:51 ID:jw2VNRgp
私は虫だ。

どうだろう・・単純に虫なんて言い方だと、きっと飼って貰えない。

「蝶」、とでも表そうと思う。

神宮司という「虫篭」に飼われている「蝶」、神宮司奏。

こう表すのが、私の今の現状を形容するのに一番分かりやすいのかもしれない。

虫篭の中に飼われている蝶は、自分の意志を伝える事もできやしない。

いつ捨てられるか分からないし、いつ誰の手に渡るかも分からない。

だってそれは、私が決めることではないから。

296 名前: 蝶の生き方。 2005/08/05(金) 18:00:37 ID:jw2VNRgp
私は後数ヶ月の月日を過ぎれば、親の決めた人生が待っている。

それに対して、周りに愚痴を言う事もなければ、それを吐き出す気もない。

言ったところで、自分の運命を変えることなんてできないのだから。

自らが欲した末、宮神学園に自分の理想の楽園を創った今でも、その運命の重さが、
私の心を強く揺れ動かしている。

しかし、宮神学園を創設させてくれた神宮司には、強い感謝を抱いている。
少なくとも、狭くて自由のない虫篭から、たとえ鎖で繋がれているとしても、今は
私を自由のある世界へ開放してくれている。

しかし、後少しの時間が過ぎた後、私はその生活に耐えうることができるだろうか?

この学園を卒業して、私はまた虫篭に戻される。その虫篭の中に、またあの時の様に
戻ることができるのだろか。あの時はそう、私は人生を諦めていた。人生を諦めていたからこそ
私はあの虫篭に入っていられることができた。しかし今は違う。

私は「花」を見つけてしまった。ずっとそこにとどまっていたいような、そんな花。

297 名前: 蝶の生き方。 2005/08/05(金) 18:01:20 ID:jw2VNRgp
私はその花が大好きだった。その花の周りにいるだけで、私は自分で築き上げたものでない、
私の血のつながりを持った者たちが作り上げた、おさがりのような地位や権力を忘れることが
できた。私が変わり者なのかもしれない。地位や権力を欲する人間などいくらでもいるのに、
私にとって、それはただの鎖でしかない。

そう思っているうちに、私の瞳からは、幾年か振りに涙がこぼれた。

重力に従い頬を伝って落ちていくそれは、まるでこれからの私を物語っているような感じがした。

落ちていく、落ちていく、落ちていく・・大好きな花たちが遠くなって、見えなくなっていく。

もう一生見ることができなくなる花たち、私はそう思うと、怖くてたまらなくなった。

-いやだ・・怖い・・逃げ出したい-

しかしそんなことが出来ないなんてことは、自分が一番良く分かっている。

しばらくすると涙が止まった。こぼれてからかなりの時間が経過したことを感じていたので、
もう流す涙も無くなってしまったのかもしれない。

そう思うと、今度はなぜか笑いがこぼれそうになった。そう、私はまだ涙が流せたのだ。

絶望を感じ、涙なんてとうに出ないと思っていたのに。


298 名前: 蝶の生き方。 2005/08/05(金) 18:01:51 ID:jw2VNRgp
私は生きている。少なくとも、今は自由。

これから起こることを考えていても何もならない。ならば、一つでも楽しい思い出を残して
虫篭に帰ろう。そう決めた時、部屋の外から楽しそうな声が聞こえてきた。

底抜けに明るい声、少し騒がしいけれど、生き生きとした声、少し騒がすぎると思ったのか、
その声の主をたしなめるようにしている声・・・色々な声が混じっているけれど、その全てを
私は愛している。

そう思った途端、私は一人でいるのがとても嫌に思った。すぐに立ち上がり、部屋の外に出よう
とする。

そう、私はまだここにいる。いることができる。

そう心の中で思い、私が虫篭の外で手に入れた、外から聞こえる、声の主たちである
生徒会の仲間たちの元へ急いだ。

まるで花に向かって飛ぶ蝶のように。
                             END