いつの頃からかお姫さまがぼんやりと窓の外を眺めているのを
見かける者はいなくなりました
お姫さまは王さまの兵隊や従者を連れてはお城を空けることが多くなり
兄弟やお后様たちの中には、お姫さまは気が触れてしまったのだと囁く者もいて
お姫さまの行動を黙認し真意を理解していたのは、王さまただ一人だけでした
ある日お姫さまは王さまに申し立てをします
それはお姫さまが王さまにした、2回目のお願いでした
しかし王さまは、王室の中でなんの後ろ盾ももたない彼女の申し立てを却下しました
お姫さまを見つめたまま、けっして首を縦にはふることはありませんでした
お姫さまが王さまにした、生まれてから二回目のお願いは、こうして却下されました
事実上は
王さまがお姫さまの申し立てを却下したその理由
それはお姫さまを王室の中で孤独に追いやった事と
他の兄弟やお后さまから遠ざけた事と同じでした
王さまは、自分と同じ目の色をしたお姫さまの眼差しに
記憶の中に眠るただひとりの少女の面影を見ていました
王室騎士の志願兵として現れた少女の瞳は
今のお姫さまとまったく同じ眼差しと光を宿していました
豪華な食事や暖かいベッド
ありあまるほどの宝石やドレスをいくら与えても
自分を一度として映す事のなかった翡翠色の瞳
その瞳から光と輝きを奪ったのは自らであることを
胸の奥深くにしまったまま
王さまの弔いが風の噂で辺境の地に届く頃
ひとつの荒廃した小さな村が焼き払われたことと
有史以来他に例をみない厳政を執行した女王さまが
この国に君臨するのは、もう少し後のことです
お姫さまはせかいのすべてにたいくつしていました
おしろにはいつもありあまるほどの
ほうせきやどれすと ごうかなしょくじとあたたかいべっど
うわさばなしやわるぐちがだいすきなめしつかい
わたしをおしろにとじこめてちっともあそんでくれない女王さま
お姫さまはおしろのすべてにたいくつしていました
おひめさまのこころをおどらせたのは
いつもまどからみえる
とおいちへいせんのむこうと
とおいちへいせんのむこうにあるであろうせかいの
おとぎはなしだけでした
ただときおり、めしつかいをおいやって
女王さまがつくってくれるあまりおいしくない
スープだけはお姫さまのおきにいりで
そのときだけはひすいのようなきれいなひとみを
らんらんとかがやかすのでした
おわり