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「Law of the West 〜西部の掟〜」(1987年/ポニーキャニオン)。

タイトルだけ聞くと、アメリカ西部の保安官が拳銃をぶっ放す、硬派で豪快なガンシューティングゲームをイメージされる方が多いと思われますが、違います。
 区分が非常に難しいのですが、強いて言えば「ビジュアルノベル」がこのソフトに対して最も近いジャンルでしょう。
 多分。

そう、言うなれば「対話型ビジュアルノベル」。
といっても「NOeL」ではなく。




ディスプレイ上に広がるのは、セリフ選択型の対話画面。
プレイヤーはアメリカ西部の保安官(シェリフ)となり、街の住人と会話をします。



プレイヤーの最終目的は「極めて平和的に話し合いながら、相手から重要な情報を探り出すこと」です。



シェリフの話し相手として登場するのは、腕利きのガンマン・やさぐれた医者・近所の子供などさまざま。

相手を怒らせるような発言は厳禁です。
うっかり「それがどうしたチンピラやろう」などと罵ってしまうと、大抵撃たれます
 逆に相手を上機嫌にさせたり、うまく情報を聞き出したりするとステージクリアとなり、会話の運び具合がベストな場合は特別ボーナスが入ります。




「常に相手の顔色をうかがいながら、ベストの言葉を選択すると点数が入る」のあたりを「ときめきメモリアル」や「サクラ大戦」等の『好感度』に置き換えて想像されると分かり易いでしょうか。



このゲームが発売されたのは、1987年の3月6日。
まだ各ゲームジャンルのフォーマットすら定まっていない時代です。

そんな状況の中、現在も一ジャンルとして確立しているテキスト主体のアドベンチャーゲームを商品レベルにまで完成させた功績から見て、このソフトは「ビジュアルノベルの草分け」と呼ぶに相応しい作品であると、わたしは思います。




さて。

上に書いたように、この「Law of the West」はメッセージウィンドウ選択型の、極めて平和的な会話アドベンチャーゲームです。
 しかし、このゲームには一つだけ、よく分からない機能がついてまして。

プレイヤーは、相手の素行・言動が気に入らなければ、相手を撃ち殺すことができるのです。


会話中に十字ボタンを上に入れると画面上に照準カーソルが出てきます。
そしてカーソルを目標に合わせてトリガー(Aボタン)を引くと、妙に乾いた破裂音が鳴ります。

発砲のタイミングは自由
 話し相手の登場直後でも、会話後に去っていく後姿でも、相手がこちらに向けて拳銃を構えた瞬間でも発砲可能です。

ちなみに、発砲した際の点数は当然0点です。
 プレイヤーに加算されるものといえば、殺害後の罪悪感くらいでしょうか。




最初はこの「抹殺機能」を「本来のゲーム性を壊した、理解不能の仕様」と解釈していたわたしですが、後にこれが「Law of the West」に不可思議な疾走感をもたらしている事に気が付きました。
 「相手をいつでも殺害する事が可能」ということは、「話したくない相手を吹っ飛ばすことが可能」であるということです。
 実際、このゲームには顔すら見たくないキャラが山ほど出てきます

ちなみにわたしは副シェリフが大嫌いです。






↓副シェリフVSシェリフの対話例(その1)



副シェリフ   シェリフ
「シェリフ いったい どこに いたんだ。」 「みまわりさ。 いつものとおり。」
「いつものとおり ローズの みせの テーブルか?」 「ほーう オレに そんなくちをきくとはなぁ。」
「あんたよりは あたまがいいからな シェリフ。」 「なぐらなければ わからんようだな。」
「それいじょう うごくな シェリフ。」(発砲)  





↓(その2)



副シェリフ   シェリフ
「シェリフ いったい どこに いたんだ。」 「おい もっと ていねいな くちをきけ!」
「いつか おれが シェリフに なるさ。」 「オレの めの くろいうちは そうは いかないさ。」
「いや やれるさ。」 「おどろかすなよ。」
「もっと おどろかせてやろうか。」(発砲)  





漢字すら表示できない貧弱なスペックのアドベンチャーゲームに対して、本気で腹を立てている自分に気付いた時は、さすがにちょっと焦りましたが




話は最初に戻りまして。




最初、これを「ビジュアルノベル」が最も近いジャンルだ、と記しましたが、現在のゲーム業界においてビジュアルノベル以上にゲームの展開が冗長なジャンルは無いと思います。
 特に「フラグ立て」と呼ばれるビジュアルノベルの根幹部分にあたる仕様は、プレイヤーに「表面上のストーリーを楽しみながら、同時にシステムの内実を意識的に受け入れさせる」というジレンマを感じさせます。
 長編ストーリーをウリとする昨今のギャルゲーの場合、その「ジレンマ」はプレイヤーにとって更に顕著に、惰性的な苦痛と映るのです。




そこで提案。

誰か、嫌いなキャラを任意で銃殺できるビジュアルノベル作りませんか?




きょうびのギャルゲーだって、どうせご褒美シーンにしか興味が無いシナリオも存在するはず。
だったらいっそ、「フラグ立て」という過程を簡略化しちゃいましょう、というのが本テキストの要旨です。

仮に、この世に集英社公認の総リョーマ受「テニスの王子様」ボーイズラブゲームが存在する事を仮定して話を進めます。

で、例えば『手塚×リョーマ』シナリオの場合、お互い「これが俺の手塚ゾーンだ!」とか言って手を伸ばしてくる手塚部長に対して「まだまだだね」と相手を嘲り、リョーマの誘い受けっぽさを強調しながら行為に及ぶとしますね。

(わたしの趣味でシナリオが進行しているようにも見えますが、全くの誤解です)

でも、そのシナリオは「俺ァ『桃城×リョーマ』派なんだよ!」な人にとっては不快なわけです。
ボーイズラブ系のカップリングは、ソレ系の方同士でいがみあいのタネになるほどデリケートな部分であり、極めて重要な問題です。

で、拳銃です




相手の眉間に向かって引き金をパン。これだけでエンディングへ直行。手塚部長血みどろです。
 シナリオは当然バッドエンドですが、そのシナリオで見れるはずだった画像は全て、タイトル画面の「画像閲覧モード」から観れるようにしておけば安心です。
 興味の無いシナリオを任意で飛ばせる疾走感豊かな仕様は、昨今のビジュアルノベル業界に一石を投じることとなるでしょう。

何よりも、嫌いなキャラを銃殺できる爽快感。このカタルシスは並大抵のものではありません。その作品のファンであればあるほど、その思いは鬱屈しているはずですから。




上の例え話で、怪訝な顔でこちらを見ている貴方。
昔「ラブひな」とか読んでて、ふいに「成瀬川なる殺してぇ」とか思った事、ありませんか?

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