ER-4SとER-4P
どちらにする?
S型かP型か!?
ER-4SとER-4Pの異なる特性を持つ2つのイヤホン。ここでは、どちらにしようかと迷っている方のために、比較検討を行います。
注)
ここに書いてあることは、ER-4SとER-4Pについて一般的に言われていることを、作者なりにまとめたものです。
「ER-4P簡易レポート」では、作者自身の感想を書いてみましたので、そちらの方も是非お読みください。
●インピーダンスが低く大音量が達成できるER-4P
ER-4Sのインピーダンスは100Ωで、一般的な国産のヘッドホンに比べると少々高めです。そのため、非力なポータブル機器では少々扱いづらいのではないかと言われていました。
そこで、開発段階で没になっていた低インピーダンス化したイコライザ回路をリファインしたのを搭載したER-4Pが登場する事となりました。インピーダンスは27Ωなので、簡単に大音量を達成する事ができます。
但し、使われている発音体はER-4Sと同じものなので、最大出力音圧はどちらも122dBとなっています。
●タッチノイズが少なく、見かけ上低音が多いER-4P
インピーダンスが低い事以外にもER-4Pならではのメリットがあります。
まず、タッチノイズが少ないということ。これは、ER-4Sのように、硬くマイクロホニックな素材ではなく、柔らかいゴムで被覆したコードを使用することによって達成しています。ただ、実際に使用してみた感じではタッチノイズの軽減は限定的なもので、まだかなり気になります。むしろ、ゴム素材の独特のコシがかえって気になるようにも思えます。
低音が見かけ上増えていると言うのはポップスやロックなどの音楽を好む人にとっては魅力的でしょう。これは、ER-4Sに比べて、耳につきやすい中音域が徐々に減衰していくようなレスポンスになっていて、相対的に低音が目立つようになっているためです。逆に言えば、中域がやや不足気味、と言うこともできるでしょう。ER-4Pの中低域〜中域レスポンスは、ER-4Sほどにはフラットではありません。また、発音体の設計はER-4Sと同じですから、ER-4Sよりもより低い音が出るという意味ではありません。
ER-4Sよりも気軽に使いたい人に向いたイヤホンといえます。
●より正確なのはER-4S
ER-4Pのレスポンスは、普通のヘッドホンに比べればまだ滑らかなほうですが、見かけ上低音が増えたように聞こえる音作りをしているためもあり、ER-4S程正確・フラットではありません。 ER-4Pの音質は、ER-4Sは低音の量感がやや乏しいのではないかという、一部のユーザの声を反映するため、あえて正確さを犠牲にして「楽しく聞ける」カジュアルな音作りを行った結果です。 Etymotic
Researchも、正確さではER-4Sが一番であることを説明書に書いています。
●S型は本当にポータブル機器では十分にドライブできないのか?ヘッドホンアンプは必要なのか?
結論から言うと、普通のポータブルユニットであれば、S型もまず問題なく使用できるのです。
S型はインピーダンスが100Ωと比較的高めで、感度は98dB/mWです。決して「高能率」ではありませんが、実は使ってみると、audio-technicaのATH-W10/11と変わらない程度の感度はあります。100Ωというのも、Sennheiser
HD600の300Ωに比べれば低い値ですし、ER-4SもmWあたりの感度はそこそこ高く、しかも騒音をカットできるため小音量で満足な音質が得られる点を考えれば、そんなに問題にはならないと思います。このイヤホンを使用するときは、他のヘッドホンよりもボリュームを上げずに音楽を聴いていることに気づきます。
よっぽど手抜きされたポータブル機器で無い限り、音量的にはもちろん、音質的にも問題ないはず。
Headroomは単体ヘッドホンアンプの併用を勧めていますが、これには一つには自社の製品を売りたいということと、もう一つは音質の基準がオーディオマニアとしての基準であるということにあります。一般に、オーディオ機器の中で、最も完成度が低く、製品によって差が出やすいのは、電気信号を空気の振動に変換する部分、つまりスピーカやヘッドホンなどの出音部分です。総合的な音質はヘッドホン自体の音質によって決まると思って問題ありません。
ER-4シリーズは「そこにあるもの全てを顕微鏡的に映し出す」イヤホンなので、他のヘッドホンに比べて再生機器の良し悪しが出やすいとはいえます。が、ヘッドホンアンプを買うのは、ER-4Sを試してからでも遅くはありません。一度、ER-4Sの超高解像度でお手持ちのヘッドホンジャックを試してみて、それで不満が出たら、購入するとよいでしょう。
こう言うと矛盾するように思えるかもしれませんが、ER-4Sはヘッドホンジャックの音質に対しては寛大です。ヘッドホンジャックの弱点を全てさらけ出してしまうが、同時ににその実力もフルに発揮させることのできる・・・・そんな感じです。
ただし、ごく最近のポータブル機器は以前にも増して省電力化が進み、音質が犠牲にされているように思います。作者も低域の質感が足りない、高域が物足りない、全体的に音がザラザラしている、という印象を受けます。音にある程度厳しい方で、ポータブル機との組み合わせがメインであるならば、Airheadのようなポータブルヘッドホンアンプの導入を考えてみても良いと思います。
上に書いたように音量的に問題があるケースは稀です。また、この問題はER-4Pにしたところで解決するものではありません。
●S型の方がS/Nを取りやすい
残留ノイズを拾いにくいと言う点では、低能率である(≒インピーダンスが高い)方がかえって有利です。「超高能率」が裏目に出て、ER-4Pでは残留ノイズを拾いやすいことがあります。
残留ノイズは、ボリューム位置に関係なく出てくるノイズですから、ヘッドホンのインピーダンスが高く、能率が低いほど聞こえにくくなります。
ソニーのイヤホンにはER-4Pに匹敵する感度を持つ製品もありますが、ER-4の場合はその遮音性から、小さなノイズでも気になる事が多いのです。
特にクラシック音楽の鑑賞においてノイズは致命傷になります。最大音量に余裕を持たせすぎで、残留ノイズが多い(実用上のS/Nが悪い)製品が案外多いのは困り者。お気に入りのオーディオ機器のヘッドホンジャックのS/Nが悪い場合には、ヘッドホンアンプへの投資は考慮に値します。ER-4Sを接続してみて、通常のボリュームの位置でまったくノイズが出ないのが理想的です。
ノイズに関してはP型はS型よりもずっと扱いにくいと言えるでしょう。ポータブルユニットなどのゼネラルオーディオ系はもちろん、高級なオーディオ機器でも、ヘッドホンジャックの残留ノイズの詰めが甘い製品は結構ありますから注意が必要です。SにしろPにしろ、ER-4の優れた微小音の再生能力を生かすためには、S/Nの高いヘッドホンジャックが必要といえます。
●最後に
結局のところ、どちらを選ぶかは、読者様の好みによって決める事です。が、このページで両者の特徴や長短がハッキリした事と思います。できるだけ公平に書いたつもりなのですが、結果としてER-4Sを推薦するような形になってしまいました。
ER-4を単なるポータブル用途のイヤホンとして使う場合にはER-4Pでも良いかも知れません。しかし、ER-4にスタックスやゼンハイザーと対等に渡り合うだけの内容があると信じている作者としては、ER-4Sを推したくなってしまうのです。
英語圏のページを検索してみれば、他にも各所でER-4S v.s. ER-4Pのバトルを読むことができます。購入の前に、是非、そちらも読んでみて下さい。参考までに、Headroomのページを紹介しておきます。
●重要な追加情報
ER-4Pは、簡単なアダプタを製作することによってER-4Sに非常に近い特性にすることができるという情報が、一部で出回っています。
そのアダプタとは、ヘッドホンアンプの左右の出力とER-4Pとの間に抵抗を直列に挿入するだけ、というもので、抵抗値には82Ωまたは22Ωが指定されています。22Ωの抵抗を使えば、特性がER-4Sに近く、能率はER-4Sより6dB高いイヤホンになります。82Ωの方は能率はER-4S並みとなりますが、特性は22Ωで作るよりより正確になるとのことです。これにより、見かけ上のインピーダンスは109Ωまたは49Ωになります。製作する際には、延長コードに抵抗を埋め込むという形で作ると良いでしょう。ミニプラグでも、うまく作れば1/4W抵抗2本くらいは埋まります。ヘッドホンジャックの中には、短絡保護等ですでに数十Ωの抵抗が直列に入っている場合もありますから、耳で聞いて様子をみながら22〜82Ωの範囲内で適当な抵抗値を選んでもよいかもしれません。
もともとER-4PやSのパイプの中には直列に抵抗が入っているだけで、あの奇妙な特性はもっぱらトランスデューサとグリーンフィルタ自身の特性であるという話もあります(ER-4Bにはコンデンサも入っている)。もしそうであるなら、ER-4のトランスデューサは、(意外ですが)出力インピーダンスで音質が変わりやすいことになります。正確を期すためには、ヘッドホンアンプもきっちりと電圧駆動してくれるものが必要といえるでしょう。
スペックの比較
Etymotic Researchのウェブページには、ER-4B/S/Pの周波数特性のグラフなどより詳しい情報が掲載されています。
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Related Link:
ER-4 vs. ER-4P by
HeadRoom Corporation