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Headroom 
"Cosmic"
Headphone Amplifier



cosmic_front.gif (133948 バイト)

Price: $599

注)2001年6月現在、HeadroomはCosmicのニューバージョンを発表済みですが、ここで紹介しているCosmicは、旧版のCosmicです。あらかじめご承知ください。

●Cosmic概要

 このところ日本でもぽつぽつとオーディオマニアをターゲットとした単体ヘッドホンアンプが発売されるようになってきました。
 が、ここで紹介するHeadroomという会社のヘッドホンアンプは、それらとは一味違う製品になっています。

 英語圏のインターネットサイトをめぐってみると、「ヘッドホン」に関する記事が多いことに気づきます。そのヘッドホン人気の火付け役の一端を担ったと思われるのが、Headroomです。Headroomは、ヘッドホンやヘッドホンアンプを通信販売しているヘッドホン専門会社。1992年にできたばかりの会社ですが、多彩な品揃えと、取り扱い商品に関する豊富な知識で話題を呼んでいます。特に各種ヘッドホンの客観的な評価・解説は圧巻で、「ヘッドホンといえばHeadroom」という位の評判を得ています。

 Headroomでは多くのヘッドホンアンプを取り揃えていて、一台一台が手作りされています。用途別に家庭用とポータブル用があり、それぞれに入門機〜上級機まで価格の異なる製品がラインアップされています。

 Headroomのヘッドホンアンプの持つ特徴の中でも際立っているのが、Audio-Image-Processorと呼ばれる音質改善機能を持っていること。この機能によって、ヘッドホンの宿命とも言える頭内定位感をある程度まで改善することが可能です。

 もう一つの特徴は、OPアンプを使っているということ。低雑音・低歪など数値的な条件の良い品種の中から、Headroomのスタッフが時間をかけて選び出したOPアンプが使用されています。マニアの方には、真空管式やオールディスクリートであることにこだわる方もいらっしゃると思います。しかし、最近の高級OPアンプは、極端に性能が良くなっていて、数値上の性能や信頼性の向上を目指すには、OPアンプの使用は合理的です。回路の小規模化ができ、信号経路の短縮で音の劣化を防げますし、低消費電力でコンパクトなので、ポータブル用にはもってこいです。


 CosmicはHeadroomのポータブル系列では最上位の機種で、「最強のポータブルヘッドホンアンプ」をねらったものです。"Cosmic"とは、「無限の」とか「宇宙の」という意味です。
 Cosmicでは、BurrBrown社のOPA627というOPアンプを使用しています。OPA627はレーザトリミングなどを駆使した、製造工程に手間をかけた高級ICです。他の用途にも使われますが、オーディオ用としても適し、高級オーディオ機器や業務用オーディオ機器に使われています。それをヘッドホンのドライブに使おうというのはなかなか面白いと思います。また、音質を優先するため、わざわざ昇圧型DC-DCコンバータを用いて、電池またはACアダプタの電圧をOPアンプが最適な条件で動作できる+/-15Vの電圧に直して使用しています。さらに音質を突き詰めたい人はDC-DCコンバータをバイパスして電源を供給するオプション「Base Station One」も用意されていて、これにより家庭用最上位機種に迫る音質を得ることができます。

 値段は$599で、少々高いかもしれませんが、それに見合うだけの音質を備えていると思います。
 Headroomのオフィシャルページには、自社ヘッドホンアンプの技術的な話をかみ砕いて解説しているページがあります。こちらでご覧いただけます(英語)。


●ヘッドホンアンプでどれくらい音が変わるか

 各種オーディオ機器にオマケでついているヘッドホンジャックと、Cosmicのような単体ヘッドホンアンプでは、やはり大幅に性能が違うのでしょうか?
 実は、作者はオマケとしてついてくるヘッドホンジャックも、それほど悪いものだとは思っていません。CDプレーヤなどに付属のヘッドホンジャックでも、安くて性能の良いICが作れるようになったおかげで、安くてもそこそこ音の良いものが増えました。それに比べるとヘッドホンやスピーカは「電気信号を空気の振動に変換する」という難しいポジションにあり、なかなか完成度が上がらないのが現状です。実際、音質の大部分はヘッドホンの品質で決まってしまうといっても良いと思います(ですからはじめての方はヘッドホン本体にお金を回すことをおすすめします)。

  細かな違いにこだわらなければ、良いヘッドホンとオマケのジャックで十分なのですが、お気に入りのヘッドホンが見つかり、愛着も増してくると、不満が出てきます。
 特にポータブルオーディオ機器のヘッドホンジャックは酷い。もともと電源電圧が低く電圧があまり取れない(大きな音が出ない)、カップリングコンデンサによる音の劣化や低域不足といった不満があるのに、最近の行き過ぎた省電力化でますます音が悪くなってきています。パソコンのサウンドカードは雑音が多いですし、大部分ポータブルオーディオ機器と同じような弱点を持っているように思います。プリメインアンプのジャックは、パワーアンプ部の出力に数百Ωの抵抗を直列に入れただけのものが多いようです。パワーはあるのですが低音がルーズで広域も冴えがありません。雑音も多い場合があります。据え置き型のCDプレーヤのヘッドホンジャックは雑音が少なく、音が繊細、そこそこの品質のものが多いですが、ボリュームに安いものが使われていたり、音に潤いがなく刺激的だったりと、やはり不満は出てきます。故長岡鉄男氏がヘッドホンの比較記事で、D社のCDプレーヤにインピーダンスが高く音量が出にくいAKGのK141(600Ω)をつないだところ、大音量では音が割れてしまったそうです。作者自身は、P社の9万円のCDプレーヤのジャックが、なぜかCDの出だしの部分の低音が割れるという現象に出会ったことがあります。

 このような欠点をつぶしていくと、Cosmicのような単品アンプになります。

 オーディオの楽しみ方の一つに、システムを構成するそれぞれの機器(コンポーネント)をとっかえ、ひっかえして、その音の変化を楽しむというのがあると思います。CDプレーヤやアンプを買ったときに「与えられた」ヘッドホンジャックではなく、自前で用意したヘッドホンジャックでお気に入りの音楽を聴くというのは自然な流れです。

 単品ヘッドホンアンプにオーディオセレクタを組み合わせる(若しくはプリメインのTape Out端子につなぐ)と、CD、MD、ビデオ、DVD、パソコン、の音をスイッチ1つでどれでもモニタできるようになります。ヘッドホンをメインに使っている場合にはとても便利です(音質を最優先するならばCDとの直結が望ましいが)。

●なぜCosmicにしたのか

 単品ヘッドホンアンプはHeadroom以外にも色々ありますし、Cosmicの他にも、Headroomは色々なヘッドホンアンプを販売しています。ここでは、作者がなぜCosmicにしたのか、改めて振り返ってみました。Cosmicには満足しており、良い選択をしたと思っています。


 同じ値段で買えるHomeとCosmicについて、「同じ値段なら据え置きの方が音がよいのでは?」と思われるかもしれません。確かに、Homeの方が筐体はがっちり固まっていますし、電源もしっかりしたものなのですが、Cosmicの方が音質の良いOPアンプを使っています。Homeに使われているOPA604とCosmicのOPA627では歪率が一桁近く違うようです。ヘッドホンを駆動するのにそれほど容量の大きな電源は要りませんし、単純にどちらの音がよいとは言えないと思ったのです。ポータブルの方が楽しみが広がるだろうと思って、Cosmicを購入するに至りました。コンパクトな見た目には似つかわしくないほど、しっかりした音が出ます。

 

●デザインなど
 大きさは、幅がちょうどCDケースくらい、奥行きがそれよりも1、2センチ大きい感じです。
 ケースはアルミニウム製で、ガッチリしていてしかも軽量。ひんやりとした金属の感触が高級感を与えます(「基本的には防弾仕様」 by Headroom)。ノイズに対しても心強い印象を与えます。そっと鼻を近づけてみると、独特の半田のフラックスの香りがし、本当に手作りなんだ〜と実感します。
 切り替えスイッチは前面に3つ、背面に2つで、都合5つもありますが、出っ張りが少なく、ポータブルにふさわしいものになっています。クリック感もまずまずで、操作もし易いものです。
 RCAピンジャックは内部の基盤に取り付けられているのですが、かなり奥まった位置に取り付けられています。はじめはなぜこんなに差しにくいほど奥にあるのか分かりませんでしたが、Cosmicがポータブルユニットであることを考えると納得がいきます。この位置にあった方が、カバンに入れたときに収まりがよいのです。なお、入力インピーダンスは400KΩと十分すぎるほどに高くなっています。50KΩ位が普通ですが、送り出し機(特にポータブル)にできるだけ負担をかけないと言う配慮が背後にあるようです。

 ボリュームノブは安っぽくはありませんが、それほど高級というものでもありません。音量の変化は滑らかですし、多分、将来ガリも出ないと思いますが、欲を言えば、もう少しネットリとしたマニアックな操作感とクッションがあれば・・・・とは思います。それと、最後の最後(7時から7時30分方向)という小音量部では多少バランスが崩れます(良くあることです)。能率の良いヘッドホンを、お休み前に極々小さな音量で聴きたいときには不都合かもしれません。

 それと、LEDのオペレーションランプも欲しかったですね。バッテリの減り具合が分かるようになっていればなお良いです。

 ふたを開けてみると、内部は予想通りすっきりしたものでした。

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 バックパネル。RCAジャックが少し奥まったところに付いているのは、ポータブル用途への配慮。
 真ん中のコネクタや両脇のスイッチは、Base Station Oneを利用する時に使う。
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 斜めから見たところ。
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 内部画像。OPアンプのおかげで非常にすっきりしている。DC-DCコンバータは日本のCosel製。電解コンデンサは容量が小さいが、Coselの推奨する値を守っているようだ。

 



●低出力インピーダンス
 
 カタログによると、Headroomのヘッドホンアンプの出力インピーダンス(一般に小さい程良い)はおよそ0.5Ω。これは、ヘッドホンアンプとしては極端に小さい値です。
 スピーカでよく言われる「ダンピングファクタ」になおすと、SONY MDR-CD3000ならダンピングファクタ(一般に高いほど良く、主に低音の歯切れ良さに関係)は64、audio-technicaのW10/11で100、ER-4で200、Sennheiser HD600では600にもなります。

 一般にヘッドホンのインピーダンスは純抵抗に近く安定していて、出力インピーダンスにあまり影響されないといわれています。じっさい、プリメインアンプに「オマケ」としてついてくるヘッドホンジャックは、スピーカー出力に直列に数百Ωの抵抗を入れた程度のものであることが多いことからも、ヘッドホンが出力インピーダンスに影響されにくいことが分かると思います。
 それでもCosmicでATH-W10VTGをドライブしてみると、ダボダボになりがちなW10のたっぷりとした重低音がキリッと引き締まった音質で再生され、W10VTGの「どんな音楽にも安心して使える」という堅実性が、より高まった様な気がします。


●音質
 クリーンな再生音です。低歪み再生の追求というか、沢山の情報が詰まっていて、ソースの善悪すべて、細大漏らさず送り出すというイメージです。Sennheiser HD600やEtymotic ER-4シリーズと相性の合った音質だと思います。

 ソニーのポータブルCDプレーヤに接続してみたところ、かなりの音質改善が実感できました。付属のヘッドホンジャックに比べずっと良い音質が得られます。とくに、ざらざらしてものたりない感じのしていた高音がキレイに聞こえてきます。ポータブル機のライン出力の実力を見直すと同時に、音質をスポイルしているのは、ヘッドホンアンプ部であるということを痛感させられます。
 しかし、ソースがポータブルCDプレーヤでは、少し役不足のようです。音が丸い感じがします。Headroom自身、「Cosmicはポータブルユニットの弱点を白日の下に照らしてしまうので、家で聴くよりも外で聴くことが多い人にはSupremeで十分」と言っている位です。解像度が上がった結果弱点が見えてきただけであって、決して不快ということではないのですが。

 低域の再生能力も良好です。量的に十分というだけでなく、よくコントロールされていて、もてあました感じがしません。
 CDプレーヤやMDプレーヤに付いているヘッドホンジャックは低音が貧弱ですし、アンプのヘッドホンジャックは量的には出ていても、抑制の利いていない低音であることが多いものです。Cosmicの低音はこの2つの長所を取り入れた感じの、良質の低音です。

 もちろん、中域もすばらしいものです。ズバリ「低歪み」と言い切ってしまいたいような音質です。いつもよりも音楽が静かに感じられ、ついついボリュームを上げたい衝動に駆られました。聴力を守るという観点から、私は一般的な聴取位置をだいたい9時方向にセットしているのですが・・・。(友人に試聴させたらW10VTGで12時だった!)

 高域はソフトで滑らか、刺激感が少ない上品な音に仕上がっています。

 もう一つ気が付くのは、大音量時の音の伸びの良いということ。最近流行りの言い方で「動的S/N感がよい」とでも言うのでしょうか、大音量時にも音の分離に優れています。ポータブルCD(のヘッドホンジャック)では、大音量時に音の伸びが悪く、圧縮された感じがするものですが、Cosmicではその兆候が全くありません。音の立ち上がりがしっかりと管理されているように感じます。

 audio-technica ATH-W10VTGを駆動してみるのも面白いものです。このヘッドホンの持ち味の一つは、安定感のある重低音です。ヘッドホンジャックがしっかりしたものでないとしつこい重低音になってしまいますが、Cosmicでは良くコントロールされた感じの低音になりました。低域に余裕が出た分、他の帯域との分離が良くなって、解像度も幾分増したように思います。身震いするほど美しい音は出ないものの、暖かみのある音質です。前々からどんな音楽にもオールマイティなヘッドホンだと思っていましたが、さらに堅実さが増したように思います(疲れたときに聞くには一番!)。

 それにくらべて、上級モデルである漆塗りのATH-W11JPNはどうしようもありません。Cosmicでドライブしてやれば、コモリ感のある中低域が少しは落ち着くかと思っていましたが・・・。やはり、全体的な音質を決めるのは、ヘッドホン自体であるということを改めて実感。


<ボリュームが取れすぎるというのも困りもの>
 ボリュームの調整はヘッドホンアンプの質に負けず劣らず大切で、音が不明瞭にならず、しかも刺激感を与えないという、快適音量で聞くことが大変重要です。優れたヘッドホンならば必ずそのようなボリューム位置が見つかります。ER-4ももちろんそのようなボリューム位置があるのですが、Cosmicと組み合わせる機器によっては、結構そのような位置を探すのに苦労します。

・ポータブル機との組み合わせ

 SONY D-E01と組み合わせると、普通のアンプのヘッドホンジャックより、小さ目のボリュームになります。音量調整が非常にやりやすく、ロック音楽で9-11時位置くらい、クラシック音楽で10-12時くらいの間で快適音量が設定できます。


・据え置きCDPとの組み合わせ

 しかし、据え置きCDPのように出力電圧の高い機器をつなぐと話は別で、ER-4S程度のヘッドホンではボリュームが取れすぎてしまい、少し不便です。ちょっとボリュームノブを動かしただけで簡単に快適音量を上回ってしまうので、ミリ単位でのボリューム操作が必要になります。据え置き型CDプレーヤには、ライン出力が可変のものと、そうでないものとがあります。残念ながら、私の使っているCDプレーヤも可変ではなく、しかも出力電圧が2Vもあります。ER-4Sではボリュームが9時方向で既にぎりぎりといったところです。ER-4Pではとても使えません。

 なお、今度のHeadroomの新ラインナップでは、利得切り替えスイッチがつけられる予定です。これによって、このような問題もなく、快適に使えるようになると思います。


●ノイズ

 超低雑音のOPアンプを使用しているおかげで、手持ちのヘッドホンの中で一番能率の高いものを接続しても、残留雑音はまったく聞こえません。静寂そのものです。
 ボリュームを上げていっても通常の音量ではまったく雑音の増加は認められませんでした。

 しかし、ボリュームを最大付近まで上げていくと、「ジー」という雑音が入りはじめました。どうやら蛍光灯などが発するノイズを拾っているようです。
 Cosmicの電圧利得は14dBなので、ボリュームをそこまで上げて使うことはまずないものと思われます。普通は心配するほどのものではないでしょう。

 後日調べてみると、これはCosmicの基盤のグラウンドが金属ケースに接続されていないため、シールド効果が十分にあがっていないためとわかりました。そこで、金属ケースと、もう一つノイズに弱いと思われるボリュームの金属ケージングを基盤のグラウンドに接続するようにしたところ、上記ノイズはピタリと消えました。能率の高いヘッドホンで、蛍光灯をつけたままボリュームを最大まであげても、まったく雑音が聞こえないようになりました。この改造後、音質的にも問題は無いようでした。

 ここまでローノイズだと、ラインケーブルにシースが特殊加工されたコードをつかったり、ソース(CDプレーヤなど)の性能も良いものにしたほうがよいでしょう。

 Cosmicはポータブルアンプですが、その性能を生かしきるにはしっかりとした据え置き型CDプレーヤが必要だと思います。

 


●周波数特性
 HeadroomのCosmic紹介ページのスペック(Audio Precisionのグラフ)をみると、高域の減衰が気になりせんか?
 私は、購入までちょっとだけ気になっていました。というのも、BurrBrown OPA627ならば、もっと高周波までフラットにのばせるのではないか?と思ったからです。

 実は、これは「わざと」20kHzで-3dB減衰するような設計をしているのだそうです(カタログに書いてあります)。

 「わざと」と聞いて、目くじらを立てる人がいるかもしれません。アンプのような再生機器は固有の音質を持つべきではなく、あくまでソースに忠実に再生するのが理想とする考え方があります。作者も、大いに共感するものがあります。Headroomはなぜこのような設計をしたのでしょう?

 彼らによると、周波数特性を良くした試作機では、高域が刺激的に感じられたとのことです。これは、彼らのリファレンスのヘッドホンがSennheiser HD600であることと関係があるかもしれません。HD600は周波数特性がとてもよいヘッドホンで、CD規格のはるか上限までカバーしています。音の顕微鏡とも言えるヘッドホンでCDを聞く場合、いわゆるCDの「デジタル臭」が気になってくるということが言えるのではないでしょうか。
 また、オーディオアンプに限らず、アンプ類では周波数特性をある程度制限したほうが、ノイズがすくなくなったり、安定に動作したりするようになります。
 このように考えると、なるほどHeadroomの言い分にも一理あると感じられます。 

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Cosmic

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(参考)ポータブルDIYアンプ

 実際どんなものだろうということで、オシロスコープと波形発生器を使って調べてみたところ、かなりはっきりした結果が得られました。
 波形発生器から10kHzの矩形波を入力して、負荷として実際にHD600(300Ω)を接続した状態でのテストです。当然ながら、ProcessスイッチやFilterスイッチはoffにしてあります。
 左側の写真がCosmicの出力で、はっきりと波形がなまっているのが分かります。しかし、なまり方や波形そのものは非常に美しいものです。同時に、大音量でも歪まず、完璧にHD600をドライブしきっていることも分かります。
 OPA627は高出力で、ヘッドホン程度なら直接駆動できるようになっています。それで、最近まで作者もHeadroomのアンプはOPアンプで直接駆動しているのだろうかと思っていたのですが、よく調べてみるとトランジスタの出力バッファがついています。そのおかげで、十分な駆動力が得られているようです。右側は作者が持ち歩いているDIYアンプで、周波数特性の制限はごく軽いものにしているため、元波形に近くなっています(これはこれで「ハマる」音です)。
なお、作者が自宅に手持ちの、あまり高価でない測定器具(特に波形発生器はキットモノに手を加えたオモチャのようなもの)を使って調べた結果なので、参考程度にとどめてください。

 「こんなになまっていていて、大丈夫かしらん?」と心配されるかもしれませんが、大丈夫です。安心してください。実際には、音質の差はほとんど感じられません。シンバルなどの高音楽器が丸まってしまう、切れ味を失う、といった感じはありません。むしろ、メリットの方が大きい。バイオリンは滑らかになり、女性ヴォーカルは「喉の奥から搾り出すような感じ」が消え、全体にCD独特の辛味が消えて、クリア&滑らかに再生される感じです。

 好みが分かれるでしょうが、ふつうにCDを聞く分には、十分に実力を発揮していると思います。

 ただ、最近はDVD-Audioなどの次世代オーディオ規格で周波数特性の上限が上がってきているので、ユーザが好みにあわせて選択できるようになっていれば、より良かったと思います。


●ナイスなオマケ機能・前方定位を改善するAudio-Image-Processor

 Audio-Image-Processorについては、Headroomのオフィシャルサイトにも解説が載っています。こちらでご覧ください(英語)。

 ヘッドホンは極めて耳に近い位置に装着するため、スピーカよりも正確な再生が可能で、かつリスニングルームの音響特性にも影響されないメリットがあります。にもかかわらず、ヘッドホンを嫌う人が多い理由の一つに、「頭内定位」という現象が起こることが挙げられます。名前通り、頭の中で音が鳴っているような気持ちの悪い現象です。頭内定位は不自然なだけでなく、疲れの原因にもなります。

 この現象が起こる理由は、スピーカによる再生とヘッドホンによる再生の違いを考えてみればわかります。スピーカによる再生では、右のスピーカから出た音は、右の耳だけでなく、左の耳にも入ります。しかも、左の耳が聴く音は、右の耳より極わずかに遅れて到着し(およそ300マイクロ秒)、また音量も小さくなります。人間の脳は、これらの情報を手がかりとして、音の定位を探っています。

 それに対しヘッドホンでは右チャンネルから出た音は右の耳だけが聴きます。左の耳は何も聴きません。こんな事は自然界では起こり得ないことです(「耳の中にハエがいれば話は別ですが」)。それで、我々は音が頭の中にあるように感じます。

 ヘッドホンによっては、発音体を前傾配置することによって、前方定位を改善しようと試みているものもあります。しかし、この方法でも、左右の音が混ざり合うことはありませんから、スピーカで再生したときのような自然な音のつながり感を得るのは難しいと思われます。最近はDSPを使って定位を改善する機械も発売されるようになりました。ソニーのMDR-DS5000、AKGのHEARO、SennheiserのLucas/DSP Proなどがこれに当たります。残念なことに、このような装置から生み出される音は本物のスピーカ再生よりもずっと不自然で音質が悪く、とても音楽を楽しむというレベルではないと思います。

 ここでHeadroomの登場です。Headroomのヘッドホンアンプには、頭内定位感を和らげる“Audio-Image-Processor”という機能が付いています。DSPのように音を一から再構築するのではなくて、左右の信号に、左右それぞれのチャンネルの音に遅延をかけ(約300ms)、音量を小さくして(-10dB)、反対のチャンネルに重ね合わせるという、単純な方法で実現しています。これはクロスフィード回路と呼ばれるもので、かなり昔に発案されたもののようですが、実際の製品にこんな機能を載せようなどということは、実際にヘッドホンを愛用している人で、かつある程度知識のある人でないと思いつかないのではないでしょうか。Headroomのアイデアが光っています。

 正直に言えば、この機能による音の変化は非常にわずかなものです。「おっ!これはすごいな!」と人を驚かせるような、デモンストレーション色はありません。音質を殆ど変えること無く、それとなく働いているというのが美点でしょう。長くつきあっていくには、これくらいが良いのではないかと思います。いずれはDSPでも音楽鑑賞にかなう音質を実現するものが出てくるものと期待していますが、現時点ではアナログ方式が一番良いと思います。

 ロックやポップスのような、モノで録ってスタジオミックスしたような音源では、音像は頭の外へは出ませんが、左右のつながりを良くし、長時間のリスニングでも聞き疲れしにくくなります。また、空間的な広がり感を持った録音(クラシック録音など)では、音像は頭の中に残るものの、頭の外にも出て、自然で立体感のあるサウンドステージが得られます。 例えば、左にフルート、右にチェンバロが録音されたソースをヘッドホンを使ってふつうに聴くと、左右の広がりが大きすぎて、全く分離して気持ち悪く聞こえてしまいます。ここでプロセッサを使うと、左右のつながりが良くなり、自然な広がり感が得られるようになります。音像も頭の外に飛び出てくる感じで、2、3メートル先で演奏しているようなイメージが得られます。最近流行りのニアフィールドリスニングに似たような定位感です。ピアノソロの録音を聴いてみても、音の立ち上がりや倍音に不自然さを感じることはありませんでした。これならば、安心してクラシック録音にも使えそうだという感触を得ました。

 先ほども言ったとおり、Audio-Image-Processorの効果は非常にわずかなものですが、Headroomによれば、その違いを「感じる」ためには慣れが必要で、それには40時間ほどかかるということです。他人に聴かせてみると、On/Offしても殆ど違いが分からないと言っていました。ただ、初めてAudio-Image-Processorを使う場合でも、聴き疲れしにくいと言う点には気づくようです。

 マイナス面についても書いておきます。

 スピーカ再生の欠点として、Comb-filteringと呼ばれる現象によって周波数特性の凹凸を生じるというものがあります。これは、2つのスピーカから放出されたモノラル成分がそれぞれの耳に届くまでの距離差によって位相差を生じ、特定周波数成分がうち消し・強め合いをする現象です(実際には壁面からの反射音も加わり無数の山谷が生じている)。
 スピーカ再生を再現するクロスフィード回路でも同様の現象は起こりますが、この凹凸は、対数グラフで見ると、高域側で間隔が小さくなるため、高域が汚れる原因になると言われます。

 しかし、クロスフィードする信号のうち2.5kHz以上の周波数は音像の定位にはあまり重要でないとされています。そこで、Audio-Image-Processorではそれ以上の高音はロールオフさせて、クロスフィードする量を抑えています。したがって、この機能を利用することによって生じるデメリットは、最小限ということです。もしデメリットがあるとすれば、2.5kHz以上をカットした音がミックスされるため、全体的に高域が減衰した、暖かみのある音質になることです。これを補うために、フィルタースイッチがあります。このスイッチを倒すと高域が少しだけ強調され、プロセッサOff時に近い音質を維持することができます。この機能はプロセッサOff時にも利用できます。もともと高域が減衰している古い録音に使うとか、あるいはER-4Sを使っている人がバイノーラル録音を聴くときに一時的に利用してみるとか、色々な使い方ができそうです。




●付属のACアダプタ

 付属のACアダプタはレギュレータ内蔵の、ちょっぴり高級な品物で、日本の電源電圧でも問題なく使用できました。

 


●電池ボックスはなんと単1用battery_case.jpg (24457 バイト)

 音質もさることながら、Cosmicは実はもの凄いパワー喰いであることが分かりました。
 パッケージを開けてみてア然としてしまったのは、単1電池4本用の電池ボックスが「どで〜ん」と入っていたことです。(^_^;)
 てっきり単3用の電池ボックスが付属するのかと思っていました。AirHeadが単3 2本で動作するので、上級機種でも単3でいける程度の消費電力かと思っていたのです。甘かった〜。しかも、赤くて、バリが出ていて、安っぽい材質(ちょうど工事現場の赤コーンのような)で、「なんともアメリカン」な怪しい雰囲気を醸し出しています。 

 この電池ボックスから出ているコードの先はACアダプタと同じプラグになっており、それをCosmicに差し込んで使います。

 Headroomによれば、この電池ボックスによる駆動時間は20時間。

 定電圧電源を使って調べてみると、定格電圧である5Vの時に、500mAもの電流が流れていることが分かりました。1時間も通電していると、本体がほんのりと暖かくなってくることからもそれは分かります。
 Headroomが単1電池で動作させたくなる理由が良く分かります。しかしあの電池ボックスはいけません。流れる電流が0.5Aとなると、電池ボックスの接点部の抵抗も無視できないのではないでしょうか?使用時間には影響を与えなくても、「電源マニア」の方から見ればとんだ「罰当たりもん」呼ばわりされかねません(これは半分冗談半分本気 笑)。もちろん、Cosmic内部のDC-DCコンバータやコンデンサのおかげで、アンプモジュールへ行く電源のインピーダンスは十分小さくなっているはずですが、マニア的な意見として、せめてあの電池ボックスは金メッキして、接点の接触面積を増やすよう努力すべきでした。

 調べてみて分かったのは、多少電圧が下がっても、電流さえとれれば2V位までは正常動作してくれると言うことです。これはDC-DCコンバータのおかげですね。その点で、放電特性が乾電池よりも優れている(内部抵抗が小さい)充電式電池を利用すれば、最後までしっかりと使い切れそうな気がします。

 付属の電池ボックスがあまりにも格好悪かったので、充電機能付きの単3電池ボックスを製作してCosmicを動かしてみたところ、Panasonicの1000mAhのNiCdバッテリで1時間30分ほど動作しました(1時間40分の時点で音が割れてきます)。やはり単1でないとだめのようです。

 もともと家での使用をメインに考えていたので、「AirHeadにしときゃ良かったな」という後悔はしていないのですが、単1利用というのはあきれてしまいました。Headroomも、Cosmicは外出よりも家での使用が多く、しっかりしたCDデッキを持っている人にお勧めだと書いています。

 ロスの多いDC-DCコンバータを利用するのは、一般的な考え方からは「スマートじゃない」のかもしれません。ですが、Cosmicの音質を考えれば、私は納得できます。あえてこのような方法を採ったHeadroomに感謝。

 

●Base Station Oneでアップグレードもできる

 Cosmicと、弟機であるSupremeは、Base Station Oneという、+/-15Vの専用電源ユニットを使ってアップグレードができる様になっています。これは、バックパネルの真ん中に配置されたコネクタを使って行います。Base Station One使用時には、バックパネルの電源切り替えスイッチ(Remote/Local)をRemoteにします。こうすると、DC-DCコンバータをバイパスして、Base Station Oneから直接電源を供給します。

 また、Base Station Oneからライン信号を供給することも可能で、家と出先の両方で頻繁に使っている人の使い勝手が向上します。この際、バックパネルのライン信号切り替えスイッチ(Remote/Local)を用いて切り替えを行います。

 Base Station Oneを利用すれば、Maxed Out HomeやThe Maxに迫る性能を得ることができます。
 より力強い低音、より素早いトランジェントレスポンスが得られるとのこと。
 (Supremeの場合は、Homeに匹敵する音質に)

 電源をつなぐケーブルにはMIDIケーブルなどが流用できるので、スキルのある人なら、Base Station Oneに相当する電源を自分で作ってしまうこともできるでしょう。

 Cosmicが電気喰いなのは、CoselのDC-DCコンバータが常に500mAの電流を喰っている事が原因。DC-DCコンバータにもっと損失の少ないものを使って電池ボックスを作り、Base Station One用のコネクタを使って、直接アンプモジュールに電源を供給するようにすれば、単3動作も夢ではないかもしれません。遊びがいはあると思います。



●Traveler Bagと組み合わせて究極の(?)ポータブルオーディオ

 Headroomでは、Cosmic/SupremeとポータブルCDプレーヤその他を格納できる、Traveler Bagを用意しています。

 高音質なオモチャを持ち運びたい、大きな子供のための夢のポータブルバッグです。

 値段は$129と少々高めですが、あきれるほど多機能で、ポータブルリスニングに必要と思われるものを殆どすべて格納することができます。
 Headroomをして、「もしジェームズ・ボンドがポータブルバックを持っていたら、これだろう」と言わせています。

 毎日持って出るには無理があるかもしれませんが、旅行に持っていったり、散歩の途中道すがら聞くのにはちょうど良いかな?と思います(交通事故防止のためオープンエアヘッドホンを音量を下げて使いましょう)。
 あとはオフ会当のネタ?にいかがでしょう。
 高音質を持ち運びたい、というのは「男のロマン」ではないでしょうか?まったく、ヘッドホンアンプを買うような人間の心を良くつかんでいるものだと感心します。

 Traveler Bagについては、面白いので、こちらで写真入りで紹介しています。

 


●Headroomについて

 より詳しくは、こちらの社史社内ツアーをご覧ください。
 Headroomは、自社製ヘッドホンアンプとヘッドホンの販売を専門とする、珍しい会社です。従業員20名強の小さな会社で、モンタナ州ボーズマンに位置します。

 販売形態は通信販売で、Yahoo!のオンラインショッピングを利用すれば、安全にカード決済をすることができます。

 取り扱っているヘッドホンメーカは、AKG、Beyer Dynamic、Etymotic Research、Grado、Koss、Sennheiser、Staxなどです。

 社長のTyllさんは、以前は仕事で飛行機に乗ることが多く、上空で高音質を楽しむためにヘッドホンアンプを自作したのでした。彼がそのような仕事をしなくなって、「何もすることがなくなった」とき、彼はポータブルヘッドホンアンプを製造する会社を作りました。1992年11月の事だそうです。Headroomの人々は6周年記念のとき、ピザを食べたんだそうです。

 小さな会社だけに、アットホームな雰囲気を良く残しているようです(Headroomのウェッブサイトを見ると分かりますね)。自称・「一日中ヘッドホンのことばかり考えている変人たち」。

 これだけ若く、小さな会社であるにもかかわらず、既に高い評価を得ている理由には、
 ・WWWをうまく活用していること
 ・自社製アンプにAudio-Image-Processorという珍しい機能を装備していること
 ・ヘッドホン、ヘッドホンアンプは、ユーザのニーズに合わせて、幅広いラインナップをそろえている。
 ・物理的な測定も利用した、客観的で説得力のある商品紹介

 などがあげられるのではないでしょうか。
 インターネットを積極的に活用しているというのは重要だと思います。彼らのサイトは読むだけでも面白いですし、各種ヘッドホンに対してかなり客観的と思われる評価も下しています(いくつかのモデルは、実測結果も公表)。数々のヘッドホンを一挙に集めて、バランス良く評価しているサイトは他になく、Headroomの評価は定評とも言えます。最近は、Yahoo!を仲介することにより、カード決済も安全に行えるようになりました。我々日本人にとっても、大変個人輸入しやすくなっています。ただ、最近、日本で個人輸入された方々のコメントをお聞きしていると、たびたびHeadroomの商品の誤送・付属品の不足・商品の故障が指摘されているのが気になります。せっかくのヘッドホン専門ショップなのに、商品の管理が杜撰では、将来に暗い影を落とすことにもなりかねません。がんばれHeadroom!




Related Links:

Headroom
 世界でも珍しいヘッドホン専門のショップ。

Headroom Cosmic紹介ページ

Headroom Cosmic Manual

Speakers Simulator Plug-in for Winamp
 HeadroomのAudio-Image-Processorと同じ様な働きをする、Winamp用のDSP Plug-in。遅いCPUではきついです。
 ただし、デフォルト設定では効果が強すぎるので、ディレイを300msくらいに、音量は33%位に設定してみてください。
 あくまで目安程度に。「殆どわずかな変化しか起こらない」こと、「聞き疲れしにくい」ことが分かれば十分です。

A DIY Headphone-Amplifier with Natural Crossfeed by Jan Meier --HeadWize Library(project)
 HeadWize Projectコーナーの記事の一つ。HeadroomのAudio-Image-Processorとほぼ同等の機能を持った自作ヘッドホンアンプ製作記事。
 サンプル音声も用意されているので、興味のある方は覗いてみてください。
 このヘッドホンアンプとほぼ同等の機能を持つキット・完成品が、このプロジェクトの著者Jan Meier氏のオーディオショップCordaから発売されている。
 輸入代行をしてくれる日本のサイトもあるようだ。(リンクページ参照)


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