ヘッドホンの秘める可能性を知っていただく為には、バイノーラル音源をお聞きいただくのが一番と思います。
そこで、簡単な解説と、バイノーラル録音(またはヘッドホン向けに処理された音声)のサウンドクリップをダウンロードして聴くことができるサイトへのリンクを集を用意しました。
・バイノーラル録音とは?
人間は、たった2つの耳しかもっていませんが、次の要素をもとに音源の位置を知る能力を持っています。
・両耳間の音量差
・両耳間の時間差
・周波数特性の変化(音の方向によって変わる成分と、そうでない成分(耳孔の影響など)に分けられるらしい)
通常、ステレオソースをヘッドホンで聞きますと、これらの脳が音源の位置を特定するための情報の多くが欠落しているので、音像は頭の中に定位します(頭内定位)。
これをあるていど解消する録音方法がバイノーラル録音です。
バイノーラル録音とは、マネキン(ダミーヘッド)の耳に取り付けられた2つのマイクによって音声を収録する録音方法です。このようにして録音された音声をヘッドホンで再生しますと、ダミーヘッドの耳が聴いた音が、左右の音が混ざり合うことなく、そっくりそのままリスナーの耳に届けられるため、まるでリスナー自身がその場に居合わせたような臨場感を得ることが出来ます。
そもそも「ステレオ」("Stereo"は"Solid"(固体)という言葉を語源に持つそうです)が「2つ以上のスピーカによって作り出される、固定的な音場を聴く事」を意味しているのに対し、バイノーラルはbi-aural、すなわち、2つの耳で聴く事を意味します。ですから、本来的には「ステレオ再生」と「2チャンネル再生」は区別しないといけません。バイノーラルの歴史は非常に古く、1881年のパリで、2本の電話線を用いて行ったのが始まりだそうです。
ステレオ再生(マルチチャンネルを含む)では基本的に、スピーカとスピーカの間にしか音を定位させることはできません。最近ではトランスオーラル再生といって、リスナーの聞き取る音を制御することによって自由な音像定位を実現しようという動きがあるものの、特殊な装置が必要、スピーカの設置が難しい、スイートスポットが限られる、などの問題があります。
バイノーラル録音ではリスナーの頭部がダミーヘッドにそのまま置き換わるので、定位に制限がありません。5.1chなどのマルチチャンネル再生でも難しい「真横」、「頭上」、「耳元」といった位置関係も、簡単に実現することができます。
しかし、バイノーラル録音には、独特の問題が付きまといます。一つは、録音に使用されるダミーヘッドと、再生に使用されるヘッドホンの組み合わせによっては、正確な周波数特性の再現が出来なくなるという問題。たとえば、人工の耳道を持ち、その奥にマイクがセットされたダミーヘッドで録音されたバイノーラルソースを、耳の外に発音体がある普通のヘッドホンで再生すると、ダミーヘッドの人工の耳道とリスナー自身の耳道を2重に音が通過したのと同じことになり、周波数特性が乱れてしまいます。たいていのヘッドホンは、バイノーラル録音に最適化されているわけではないので、なかなかベストの音質を得ることは難しいようです。
中には、バイノーラル録音の再生を考慮した設計がされているヘッドホンも存在します。このページで紹介しているEtymotic
Research ER-4BやSENNHEISER HD600などがその例です。また、スタックスは、以前イヤースピーカーのレスポンスをバイノーラル録音に最適化するためのイコライザーを発売したこともありました。
もう一つの問題は、ダミーヘッドとリスナーの頭は、大きさ・材質・形状が異なるため、上記のような問題をクリアしていても、リスナー自身の聴覚を完全には再現し切れないこと。ダミーヘッドは平均的な人間(男性であることが多い?)の頭の形を再現していますが、世の中には頭の大きな人、小さな人もいます。そのような人には、ダミーヘッドで録音された音は不自然とは言わないまでも普段聞かない音なので、ただしく音像が定位しないことがあります。また、ダミーヘッドに付いている耳たぶなどのパーツも重要で、リスナーのそれとできるだけ形や質感が似ているのが理想ですが、なかなかそうはいかないようです。
最後に、頭の回転効果が再現されないこと。リスナーが頭を回転させると、音像も一緒に回転してしまいます。これにより、頭の中に音像が残っている感じがすることがあります。かつて、ソニーが発売したステレオソースをバイノーラルに変換する10万円のヘッドホン
VIP1000(MDR-DS5x00の祖先)には、頭の回転効果を再現するためジャイロが付いていました。不評でしたが・・・・。バーチャルリアリティの研究では、磁力線などを使って頭の位置をトラッキングしているそうです。
しかしながら、これらの問題は、バイノーラル音源の持つメリットに比べれば些細なものです。もちろんクリアできる項目はクリアしたほうが、より良い効果が得られますが、たとえ500円のステレオイヤホンで聴いても、初めてバイノーラルを聴く人を「あっ」と驚かせるには十分なのです。
・バイノーラルの将来
「スピーカのほうが定位がよい」というのは必ずしも当たらないのです。問題は、このようなヘッドホン向けの録音が少ない(というか殆ど皆無)点にあります。「バイノーラル録音がいくら優れているとはいえ、自分の好きな音楽ソフトがバイノーラル録音でないのなら意味がないじゃないか」という意見はもっともです。
しかし、現在、DSP技術によってステレオ録音を、ヘッドホンで聴いても音像が定位するようにする製品が次々と生まれています。
たとえば、著名なホール、映画館の音響をヘッドホンで再現することも可能になりました。このような機能は、今はまだAVアンプのおまけ機能程度ですが、いずれもっと本格的な製品が誕生するかもしれません。スピーカでも同様の事はできますが、クロストークや室内音響の影響を受けず、直接耳元に応答を再現できるというヘッドホンのメリットは、もっと見直されて良いと思います。
ゲームなどのインタラクティブヴなアプリケーションでは、360°全周囲のHRTFをいつでも取り出せるようにしておき、敵の弾などの音を、自由に定位させることができるようになるのではないでしょうか。これによりゲーム制作者は2チャンネル、4チャンネル、5.1チャンネルといった音の搬送形態の違いや、ステレオ、バイノーラルといった再生形態の違いにとらわれることなく開発が出来るようになりますし、ユーザも自分の好みの形態でゲームを最大限に楽しむことが出来るようになります。
バイノーラル録音のクオリティは、このような製品の最終的な目標、ヘッドホンの秘める可能性の証明として考えればよいと思います。
また、いくつかのバイノーラル音源(NEUMANN KU100などで録音されたもの)は、スピーカとの互換性が確保されているそうです。スピーカで再生しても問題がないならば一般の販路に乗るアーティストの録音にこの録音を適用してもそれほど問題ではないと思いますし、「ヘッドホンで聴く」という変り種的な珍しさ・面白さも出てくると思えるだけに残念です。オーディオマニアの中にはかなりの確率でスタックス・ファンがいるはずなので、こういった録音も増やして欲しいものです。2つのスピーカで聴く以外はタブーである現在の「オーディオ」に対しては、ヘッドホンマニアとしてはやや当惑するものであります。
<自作バイノーラル録音>
いわゆるリアルヘッド録音です。
高級なものじゃありません。
エレクトレットコンデンサマイクをあまったイヤホンコードで配線し、プラグインパワー対応のポータブルDATやMDで録音したものです。
本物のダミーヘッドで録音したようなクオリティには遠く及びませんが、結構面白いものが録音できます。
ファイルはmp3またはwma形式です。WindowsMediaPlayerやWinampなどでお聞きいただけます。
nenmatsu.mp3(1.61MB)
年末の商店街。うどんが10円!?
Rain.mp3(2.06mb)
5月の夕立。雨が傘を激しくたたく音をお楽しみください。雷の音も録音されています。
TCD-D100での録音。
Nanboku.wma (2.8mb)
東急目黒線との相互乗り入れが始まり、いっそう便利になった南北線の録音。
TCD-D100を使って録音。
train.mp3 (413kb)
踏み切りの録音です。
bike.mp3 (227kb)
右から左へ、小型バイクが移動していきます。
chindon1.mp3 (1.56mb)
チンドン屋さんの録音その1
chindon2.mp3 (2.02mb)
チンドン屋さんの録音その2
car.mp3 (280.kb)
クルマが後ろから前へ移動していきます。
移動感がよく出ていると思います。
<バイノーラル録音が聴けるサイト>
この他にもバイノーラル録音が聴けるサイトをご存知でしたら、教えてください
連絡先:
バイノーラル録音で遊ぶ
新幹線などの録音がたくさん置かれている。
The Binaural Source
www.binaural.comを名乗るバイノーラル音源販売専門業者。バイノーラル初心者の方へのFAQもあります。日本語版サイトはこちら。
QuietAmericanProject
MiniDiscを使って録音した、サンフランシスコやベトナムの音を公開しているサイト。莫大な数のクリップがあります。
Duen Hsi Yen's Binaural, 3D,
Holographic Sound Page!
相当数のサウンドクリップがあります。
DIYバイノーラルダミーヘッド工作のページ
Mp3サンプルもあります。ダミーヘッドに書いてある顔がプリチー!
ODEON - Room Acoustics Programs
ODEON 5という、業務用(?)音場シミュレーションソフトで再現されたバイノーラル音声を聴くことが出来る。「エッ!?これがシミュレーション!?」と驚くほどのリアリズム。ただの「オッサン」が歌っているだけのモノラル音声が、大伽藍で歌われるグレゴリア聖歌のように聞こえてしまうから驚きである。機能制限つきデモ版をダウンロードして試すことも出来ます。デモ版とは言ってもかなりの機能を試すことが出来ます。時間があればダウンロードして遊んで見ましょう。私も試してみたのですが、ちょっと操作法が複雑でイマイチ使い切れていません。HRTFはKEMARをベースにしている模様。
AM:3D - Diesel Power
こちらはゲーム向けにリアルタイムで音声を処理することを目的とした技術。作者にはODEONほどのインパクトは感じられなかったが、ソフトウェア処理のためサウンドカードの機能に依存しない、CPUの占有率が低い、などのメリットがある。サイトにはいくつかのサンプル音声が置かれているほか、任意のwaveファイルにDiesel
Powerの効果を適用して聞いてみることができるデモユーティリティ「Diesel
Studio」がダウンロードできるようになっている。