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斑鳩 IKARUGA
2001,2002 TREASURE/ESP
 近年は「ビジュアル先行ゲーム性二の次」という作品が跋扈し、「ゲームとは何ぞや」という極めて基本的な思考回路さえ感じない作品が多いような気がします。数あるエンターティメントメディアの中で「ゲーム」というジャンルが確固たる一地位を築ききれず、いまだ一般大衆には「わけのわからんもの」というイメージが根強く、害悪論などを払拭しえない原因はそんなトコにあったりするのかななんて感じたりします。
 まぁ、そういう風潮は今に始まったわけではなく、アタリショックの時のように駄作の連発が業界を一時死に追いやったりしたわけですが、そういう風に考えてみると今でも技術ばかりが先行してやってることはそう変わらんじゃないかという切ない気持ちになるのです。
  娯楽メディアとしての成熟より先に技術ばかりが進んでいく。本当の意味でゲームが映画に負けているトコロはそこだと思うんですよね(ビジュアルとか脚本とかじゃなく)。  
 しかしながらそんな駄作ばかりならとっくの昔に崩壊しているこの業界。ある意味どんづまりなこの状況でも「これぞゲーム」という作品がチョボチョボ出てるわけで、そういう作品をこのコーナーで紹介してるわけです。
 珍しく外堀から固めてみましたこのレビュー。今回ぜひとも紹介したいのは、ドリームキャスト最後の星「斑鳩」です。
・「斑鳩」とは
  このゲーム、知らない人はいないかもしれませんが簡単に紹介します。
  2001年にアーケードに登場したこのゲームは、トレジャーとNAOMIのタッグで話題になりました。美しいグラフィックと明朝体を主体とした日本語や梵字が世界観を彩る和風SFな雰囲気が人気を博しました。
あらゆるものが美しい「斑鳩」の世界
ゲームはレバーと3ボタンを使った縦スクロールシューティングゲーム。ボタンはそれぞれ「ショット」「属性変更」「力の解放」となっています。面白いのは属性変更。敵にはそれぞれ「黒」と「白」の属性があり、それに対応する属性に自機を変化することで対応する属性の攻撃を無効にできます。さらに逆属性の敵に対して2倍の攻撃力を展開することができます。
  このシステムが、単なる「よけて撃つ」というシューティングのセオリーを打ち破り、緊張感や奥深さを出しています。
・ゲームとして
  まず普通にプレイして面白いです。何も考えず(実際は属性を考えながらですが)ただ敵をバリバリ撃ち倒して行くだけでもう快感。難易度は死ぬほど高いですが、バランスが絶妙で攻略を見出しながらプレイを重ねることで少しづつ先に進めるようになります。この辺がまっことウマイ。自分がうまくなって行くのが感じられるゲームっていいですよね。
 本気でクリアを目指す場合、属性の使い分けがかなり重要になります。慣れないうちはパニックになって死にまくりですが、「慣れ」て行くことが直接面白さに繋がっているのは見事。ギリギリの緊張感を美しい世界の中で繰り広げるのはかなり快感です。
 ノーマルモードでは同属性の敵を倒すと大量の打ち返し弾を発射する為、イージーモード(打ち返しなし)から攻略して行きましょう。
 さらに、同属性の敵を3機連続で倒すとコンボになり、繰り返すことで凄まじく得点が上がって行くという付加要素があります。それを踏まえて敵のパターンを見てみるとめちゃくちゃ絶妙に配置されていることがわかります(うま〜く繋がるようになってる)。これを追求してゆくとパズルゲームを遊んでいるような感覚も味わえます。といってもこれは上級者向けの要素なのでHEDにはそれを楽しむ余裕はないですが(かろうじて1、2面)。クリア後もより深く深く追求できるというあきのこない仕様なわけです。
・映画を超える
  シューティングゲームの面白さとはなんでしょう。以前「AIRRADE」のレビューで書きましたが「手軽・丁寧・面白い」という3拍子が重要だと思います(当然「斑鳩」はパーフェクトです)。そしてさらに欲を言えば、没入感というかシンクロ感があれば超パーフェクト。ゲーム的面白さの上に何度もちょこちょこプレイしたいと思わせる魅力。この辺がウマイんですよねぇ斑鳩は。
 NAOMI(&DC)の性能を限界以上に使った美しいグラフィックはまず必見。高解像度60フレーム(だと思う)で展開する光景はPS2でも出せないんじゃないかという錯覚さえ起こすほど美しい。その美しい背景が状況によって目まぐるしく動き回ることで独特の浮遊感覚が味わえます。とにかく見せ方がウマイ。画面にグイグイ引き込まれちゃう!
  細かく描き込まれたキャラも素晴らしい。「黒」と「白」を基調としているため地味かと思えばそんなことはなく、重厚な深みを出してます。かつて「ゼビウス」のキャラがそうだったように。
 さらに、凄まじく描き込まれた爆発パターンで破壊の爽快感は尋常ではなく、特にボスの爆発シーンは必見!このリアルでダイナミックな爆発の効果で爽快感は250%up!。爆発後の煙などリアルタイムでここまで美しく表現しえた作品はないだろうなぁ。
 ボス爆発の連続写真。黒煙を噴出しながら墜落・・・そして大爆発。もはや芸術。
 音のこだわりも凄まじい。ダイナミックなBGMは戦闘の展開に合わせて抑揚を繰り返し、そのシンクロっぷりに心拍数も急上昇!この表現は悔しいですがまるで映画を思わせます
  効果音もリアルなのは当然として、臨場感を出す努力というかセンスがイイです。例えば2面冒頭の地下基地進入場面、「グワワワァァーン」というSEとともに最下層が目の前に広がる様は鳥肌が立ちます。大型機械によって空気が響く音みたいな、そういう重みのある表現が最高です。臨場感が違います。是非サラウンドの大型スピーカーでプレイしましょう。
各ステージ序盤に入るイントロ。
「嗚呼、斑鳩が行く・・・」は名文。
・ゲームとしての「演出」
 以上のような表現は、まぎれもなくハードの進化が可能にしたもの。この「斑鳩」の場合は表現力にあぐらをかくわけでなく、あくまで「ゲームとして」の面白さに彩りを加える為に高性能を駆使しているところがスゴイんです。ベースとなるゲーム性をまずしっかり構築しながら、シューティングゲームとしての快感を高めるためだけに使われた演出。「作品性」を主張するためではなく、あくまでゲームとしての快感を追求したテクノロジー。ものすごく「ゲーム屋」の仕事を感じます。
 この「斑鳩」には、もちろん深いバックストーリーや設定があるんだと思います。それもきっと膨大に。しかし、ゲーム中にそれらが語られることはほとんどありません(もともとACゲームだからというのもあるけど)。想像力が刺激を受けます。それに加えて各面イントロ部分に一瞬現れる5行ほどの文章。これを読んだだけで物語を把握することは不可能ですが、その不可解さが暗号めいててすごくゲームっぽいし、ワクワクします。
  物語をあえて不可解にしようとする「演出」。これは昨今の「ゲーム作り」とは全く逆方向のスタンスと言えます。「想像」はゲームの楽しみ方の一つだったはずです。
 「映画」とは全く違った方向、「ゲーム」として正しい方向から「映画」や他の娯楽メディアに真っ向勝負を挑めるのはこの「斑鳩」を含めてほんの数本でしょう。
・「斑鳩」が残したもの
  練り込まれたゲーム性に時間を忘れてのめり込み、最新のテクノロジーに酔う。これが21世紀のゲームの楽しみ方だと思います。というよりそうあって欲しい。
 もともとゲームとは余暇を気軽に楽しむ娯楽であり、そう大層なもんでもないんですよね。重厚なストーリー、押し付けがましい作品性、過剰な演出、そんなものゲームを楽しもうとする人には重いんです。5分間をいかに楽しませるか?そこからスタートして欲しいもんです。
 ゲーム業界も不況真っ只中のご時世に登場した「斑鳩」。終了宣言したハード「DC」に最後の息吹を与え、さらにGCへと活躍の場を広げました。しかしながら、ゲーマーのみがその恩恵に与るに留まっているようです。「本当のゲーム」を楽しめるのはもはやゲーマーだけの特権なのかもしれません。
「斑鳩」
ドリームキャスト

TREASURE/ESP
2002年 9月 5日発売 6800円

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