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「枯れた技術の水平思考」 10月4日(月)
 
 先日、ファミコンミニの「ファミコン探偵倶楽部」をクリアーしました。古い作品をそのまま再現しているために、システム的に若干不親切な面もあるものの、物語は気になる展開を繰り返し、自分自身の手で進めている!というカタルシスを与えてくれます。なんて言うんだろ、こんなにチープな作品なのに、こんなにつたない絵や音なのに、いつの間にか夢中になってる。シナリオや演出などが、初めから「ゲームである」ことを出発点に作られているんだなぁと感じました。
 最初に「作品性」ありきで、ゲームのシステムを乗っけただけ、一体何をさせたいのかわからないゲームが跋扈している現在には逆に新鮮な面白さです。
 
 ついに迎えたエンディング、スタッフロールの最後を飾ったのは。。

 
 「せいさく よこいぐんぺい」


 そうか、このゲームにも関わっていたんだなぁ・・・。
 ゲーマーなら誰でも知っているこの名前。



 「横井軍平」
 ゲームと言う「遊び」を語る上で絶対に外せない人物ですね。


 暇つぶしに「ウルトラハンド」を作った男。
 誰でもガンマン気分を味わえる光線銃ゲームを作った男。
 いつでもどこでも遊べる「ゲーム&ウォッチ」を作った男。
 ゲームと人間の絶妙なシンクロを実現したファミコンの「十字キー」を作った男。
 世界で一番普及した遊び道具、「ゲームボーイ」を作った男。
 「体験」するおもちゃ「バーチャルボーイ」を作った男。
 「ゲーム作りの神様」として世界中のクリエイターから尊敬されている男。


 彼の創り出す「モノ」は「こんな遊びがあったら楽しくない?」というメッセージに溢れた「おもちゃ」でした。
 HEDはもちろん彼に会ったことも声を聞いたこともないですが、街とか歩いてても何か面白いものを見つけては「これで遊べたら面白そうやなぁ」と速攻アイディア持ち帰って制作にとりかかっちゃう「遊び作り」が好きなおじさん、というイメージがあります。

 「バーチャルボーイ」は商業的に失敗しましたが、新しいおもちゃを創り出したいという横井氏の遊び心が詰まったマシン。次世代マシンが鎬を削っていた時期に、既に「ゲーム」という遊びの未来に危機感を持っていた氏は「ゲームの本質はアイディアだ」と意気込んで生み出したのがこの「バーチャルボーイ」。しかし実際は多くの「ゲームクリエイター」が32ビットマシンソフトの制作に手一杯となり、バーチャルボーイの本当の楽しさを生かしたソフトが出てきませんでした。


 横井氏は32ビットマシン戦争に直面し、
「今のゲーム市場は作り手が行き詰まりを感じ、遊び手も惰性に流されている。このままでは危ない」と感想を漏らしました。「ゲームの本質とはなんぞや」という自問の元に生まれたハードがバーチャルボーイだったわけですが、実際に横井氏の考えを裏付ける事態が今現在起こっているわけです。横井氏のようにもっとクリエイターが「遊び」というものに対して貪欲であったなら、今頃どうなっていたでしょうか。

 「バーチャルボーイ」は、ゲーム業界に対する行き詰まりを打破したいという「遊び作りの名人」が込めた「このまんまじゃいかんよ」というメッセージだったわけです。

 「50を過ぎたら好きなことだけやりたい」と言っていた横井氏は96年に任天堂を退社し、株式会社コトを設立。しかし翌年北陸自動車道で同乗していた車が事故を起こし、車外に出たところを他の車に撥ねられ帰らぬ人となってしまいました。享年57歳。


 最近は「ゲームクリエーター」という言葉から連想させる意味合いが本来の意味から多少ズレてきているような気がします。本来「ゲーム」というのは「遊び」。「ゲーム作り」というのは、感動的なシナリオを作る事でもかっこいいキャラクターを作ることでもなく、「新しい遊びのルールを考え出すこと」ではないでしょうか。
 ゲーム作りが上手い人すなわち「遊びの達人」。「こうしたら面白い」「ああいうことができたら楽しい」といつも頭の中で渦巻いている人だと思います。


 
「最先端の技術を駆使するとかえって失敗する。枯れた技術の水平思考で気楽にものを考えればまだまだ売れる商品が創り出せる」。こんな横井氏の言葉はまるで今年の携帯マシン対決を予言しているかのようです。

 あえて性能にこだわらず、インターフェイスの面白さを追求した「ニンテンドーDS」。もし横井氏が見たらなんて言うでしょうか。きっと「なんか面白そうやねぇ」と目を輝かせそうな気がします。
 バーチャルボーイは決して失敗ではなく、今その遺伝子は見事に引き継がれ、ゲームという「遊び」の未来がどうなって行くかを占う一大決戦に挑もうとしています。

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