AIR 2001 NECインターチャネル |
・素晴らしいの一言
もうスタンディングオベーションですよ。ほんとに素晴らしいの一言!こんな作品がゲーム業界という娯楽世界の片隅にひっそり輝いているかと思うと非常に歯がゆいです。
前回「Kanon」をバカにしながら始めたのが既に懐かしいですが、今回は初めからものすごい期待をもって始めました。序盤に若干ツライとこもありましたが(後述します)、終わって呆然。
正直、流した涙の量的には「Kanon」の方が多かったです(それでもメチャ泣けます。かなりハイレベルな戦いです)。真琴とか反則だったし。でも心の琴線深くに響く何かの存在が「Kanon」を圧倒的に凌駕していました。
・システムは?
今回の舞台は真夏。「人形を動かす」という方術を持った主人公が旅先の海辺の町で3人の少女と出会うことからストーリーが始まります。
「Kanon」と違い人物が二人表示されることも
パソコンから移植されたこのゲームは、簡単に言えば「サウンドノベル」形式です。ただ全画面に文字が重なる形式ではないので、画面構成的にはアドベンチャーゲームに近いでしょう。ほとんどの場合プレイヤーはボタンを押すだけで、時たま現れる選択肢を選んでストーリーの分岐を楽しみます(例外あり)。
画面構成やシステム、設定項目などまんま「Kanon」を引き継いでいますので前作をプレイした人ならすんなり入っていけるでしょう。
ストーリーは「DERAM」「SUMMER」「AIR」の3部からなっています。プレイヤーが初めにプレイすることになる「DREAM」は、3人の少女それぞれの物語になっていて、「Kanon」のように分岐によってそれぞれのストーリーが分かれていきます。
・「旅情」という非日常
シリーズものと言え、システムから画面構成までそのまま「Kanon」から引き継いでいますが、そのコンセプトは決定的に違うといえます。ここスゴイところの一つ!
前作「Kanon」では心地よい日常がとても秀逸といえましたが、今回の「AIR」では逆に「非日常」の表現が秀逸。「Kanon」が毎日の出来事をオムニバス的に楽しむ連続ドラマだとすれば、「AIR」は限られた時間の中で物語の抑揚を楽しむ「長編映画」のような感覚を受けました。
旅先での「夏の情景」の表現は素晴らしく、夏の日差し、自然音、透明感のあるBGMなどの合わせ技が効いています。情感を大切にする日本映画を思わせ、プレイヤーに「旅情」という非日常を味あわせてくれます。「Kanon」と比べ、ゆったりした時の流れを感じます。
前作と対照的な「夏」の表現にこだわりを感じます
ゲーム全体を覆う大きなテーマは「家族愛(特に母子愛)」。相変わらず物語自体に斬新さを感じるわけではないものの、細やかな人物描写と感情表現、巧みな複線、「泣かせ」のツボをついた演出でなどを駆使してテーマをより深く彩っています。自分の家族について想いを馳せてしまうこと請け合いと言えるでしょう。
・「音」にもこだわり
音声による演出も本当に素晴らしいです。舞台である「夏」の効果音がふんだんに使われているので、夏の臨場感はバッチリです。加えてBGMは名曲揃いで挿入歌が入るタイミングが絶妙(泣かせる)など、音による演出にも妥協がないです。
BGMはマジで素晴らしいですな!個人的には「夏影」という曲が大好き!包み込むようなやさしさのこの曲は「AIR」という作品の雰囲気を十二分に表現しています。やばいですこの曲。泣けます。うますぎ!
キャラクターに「声」が入ったのはDC版の特徴の一つ。賛否あるようですが、HED的にはいい事だと思いました。「演技」という演出の幅が広がり、深みが増します。特に登場人物たちのせきを切ったような嗚咽や号泣は、もらい泣きしてしまうには充分すぎるものでした。
「声」に関しては「Kanon」同様、オリジナルのファンのために「音声無し」も選べるところにスキのなさを感じました。えらい!
・ちょっとつまった「DREAM」
「日常の心地よさ」を感じられず、どこか物語の展開を追おうとしてしまう映画的な印象の「AIR」では、第一部「DREAM」のシナリオ3本は冗長な感じを受けてしまいました。特に物語の進展がない日が繰り返されるのに少し苦痛を感じたのです。
「Kanon」の時「だらだら続く日常(の描写)に初めは正直言ってたるかったです」と書きました。「Kanon」の場合はそれ自体が後に心地よくなっていった(それこそ連続ドラマのように)のですが、日常というシチュエーションを武器にできない(物語の展開に面白さが依存する)「AIR」の場合はそうもいかず、物語が展開するような内容以外のところが少したるく感じられるのです。例えればそう、眠くなるような展開と言えるでしょうか。
ただし、それぞれの物語の盛り上がりは素晴らしいし(出来不出来があるものの)、第二部以降の展開はスピーディーで面白く、意外性の連続で飽きさせないので、乗り越えるべきちょっとしたオイタでしょう。
ちなみに「DREAM」3本のお勧めプレイ順ですが・・・
神尾観鈴 → 霧島佳乃 → 遠野美凪
がHED的にお勧め。色々な意味で重要な主役級の観鈴を最初にプレイしておき、クッションを置く意味で他の2人をプレイしましょう。未プレイで「クッションを置く」の意味がわからない場合はやってみて!!
真ん中にちょっとイマイチの「霧島佳乃」シナリオ(好きな人すいません)をプレイし、最後に個人的にはメチャクチャ泣けた「美凪編」をやるといいと思います。マジで泣けた!単純に「涙の量」度で「Kanon」のシナリオとはるのはこの「美凪編」だと思います。
泣ける「美凪編」
・泣きの連続技
「Kanon」も含めた「Key」作品、共通の技法として「泣きの連続技」があります。
普通の物語なら最後の盛り上げどころでグッと泣かせて終わりますが、「AIR」(「Kanon」も)では、ぶわっと泣かせてまだ終わらず、さらに泣かせて、もういっちょトドメといった具合に泣きが連続し、「泣き疲れる」という懐かしい現象を呼び起こします。終了後に呆然としてしまうのも無理はないでしょう。まぁ、個人差はいなめないでしょうが。
・いらない「恋愛感情」
個人的に残念だったのが、前作でもいいましたが「恋愛描写」は必要なの!?ってこと。物語の必然で考えたら全くいらないような気がしますが。せっかくの素晴らしいテーマである「家族愛」に中途半端な恋愛描写がいらぬ水を差しています。「異性を愛す」より前に「人間(家族)を愛す」描写に集中して欲しかった。質の違う2つの「愛」は現実世界では当然のように混在するけど、物語ではわかりやすさと一貫性の為にどちらかに注力するべきですね。
ましてやPC版(18禁版)の性描写などいわずもがなでしょう。全く必要ないです。
・グラフィック
前作同様、グラフィックの変化がちょっと乏しいかな。だいたいの場面が決まった絵で表現されています。ただ、その「決まった絵」と文章から登場人物の仕草などを想像している自分がいたりするので、それはそれでいいのかもしれません。想像の余地をあえて残してるのかも。
登場人物の表情変化が素晴らしい
グラフィックはとても美しいのですが、ちょっとパースが変な感じも受けました(特に背景グラフィック)。
グラフィックでもう一つ。これは素晴らしいと思ったことですが、登場人物の目を中心とした表情の変化が秀逸でキャラの心情が実に細やかに表現されています。体自体の動きはなくても、表情の変化だけで劇的な効果を生んでいます。
・サービス精神旺盛
ゲームの項目に、本編以外に「APPENDIX」というものがあり、ここではプレイ中に表示された1枚絵CGやBGMがいつでも楽しめます。作りも凝っていて、CGは達成率も表示されて面白いです。また、音楽鑑賞モードでは曲だけでなく歌も聴けます。BGMはほんと素晴らしいので、ここで思う存分聴きましょう。
また、ゲーム中に設定できる環境も「メッセージ設定」「表示設定」「サウンド設定」「ボイスモード設定」「名前変更」など多数で、それぞれの項目がこれでもかと言わんばかりに細かく設定できます。
それとひとつ、操作性に関して。ボタンを押すことによって話を進めていく中で、突然現れる選択肢までうっかり押してしまうことが多々ありました。方向キーの「上」を押すことで前の文章に戻れるので問題はないのですが、ちょっと気になる部分でもあります。
・素晴らしいね
ほぼ「Kanon」を踏襲した作りながら、全く別次元のコンセプトを実現したことに心から感心しました!舞台の季節が「Kanon」の「冬」と正反対の「夏」になっているところで暗にその辺を主張しているのかもしれません。
また、感情表現的複線のはり方がかなりしっかりしているので、クリアー後見るOP、クリアー後の物語(なんの物語かはクリアすればおのずとわかります)にさらに深い感慨を受けます。このスキのなさにはほんと、頭が下がります。
感動的な物語をゲームならではのテンポで楽しむ。涙もろいHEDにはほんと、ある意味キツイ作品でしたよ。でも心から「やってよかった」と思いました。
人の心が失われていると言われる現代、大人も子供もこのような物語に触れ、涙することがとても大切だと思います。こんな素晴らしい物語の在り処が世間の風も冷たいゲーム業界、加えて「ギャルゲー」といわれるところであるという事が、なんとも皮肉じゃないですか。
AIR
ドリームキャスト
NECインターチャネル
2001年9月20日 6800円